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雨に唄えば5

 ヒタ……ヒタ……


 家の周りを得体の知れないものがぐるぐると回っている。激しい雨音のなかで、ヒタヒタとその音が近付いては遠くなり、遠くなっては近くなりと繰り返していた。しかし音に合わせて窓の外を見ても、通る人影は見えないのである。


「リオ?」


 ルルさんと一緒にマントを繕っていた私は、おもむろにお菓子を掴むと窓の外、ヒタヒタ音がする方へと投げた。

 バクッと大きなものが合わさる音が聞こえる。それからキッと鳴き声が聞こえて、ドタドタした足音が玄関の方から部屋に入ってきた。


「あ、ヌーちゃんもいたんだ」


 砕けたお菓子を見せつけるようにニタァと口を開けたニャニ、その背中にはまた毛皮をびちゃびちゃに濡らしたヌーちゃんがいた。廊下には水滴の跡が残っている。

 どうやらふたりして屋根から落ちる雨水を楽しんでいたらしい。

 ルルさんがバスマット的なやつを敷くとニャニはそこに乗る。ニャニの背中から勢いよく飛び降りようとしたヌーちゃんはルルさんにキャッチされ、短い手足でジタバタしていた。真っ黒で小さい鼻先はフンフンと動き、つぶらな目はお菓子のカゴを真っ直ぐ見つめている。タオルから逃れようと暴れていたヌーちゃんは、ルルさんにお菓子をもらった途端に大人しくなった。


「ニャニもヌーちゃんも楽しそうだねえ」

「リオも昨日楽しそうに水遊びしていましたよ」

「うん、あれ楽しかった」


 ルルさんと私は昨日、暇だったので洗濯の手伝いをさせてもらったのだ。

 キピルトーでは、洗濯は川の水じゃなく雨水を使ってするのがスタンダードらしい。

 真ん中に穴が空いている、ロの字型の屋根の東屋が洗濯場で、その空いた部分に石でできた大きな貯水槽がある。その貯水槽は高さの違う四角いものが2段並んでいて、高いところから流れた水が低い貯水槽を通り、最終的に床部分に掘られた広い溝を通って他の排水路へと繋がっていた。


 洗濯するときは、床の溝に溜まった水でまず石鹸を付けて汚れを落とし、最後に一段高いところでしっかり濯いで綺麗にするんだけど、最初の石鹸をつけて洗うときに足踏みしてもみ洗いをするのが楽しかった。みんなでおしゃべりしながらワイワイ足踏みして、それからザブザブ濯ぐのはこの雨の中だともはや娯楽だ。ついでに乾燥室の巨大扇風機も手伝わせてもらったけど、また洗濯が必要なくらいに汗だくになった。


「お風呂の手伝いもさせてもらったし、料理もやったし、掃除もやったし……室内でできること、結構やり尽くした感じするよね」


 ニャニとヌーちゃんに交互にお菓子を投げつつ、私は考えた。

 キピルトーに来てからもう1週間は過ぎた。でも雨は止むどころか弱まる気配もない。最初は「よくあることなので」と言っていたキピルトーの神官たちも、最近はなんだかヒソヒソと話し合っていることが多い気がする。

 何より、ルルさんが呼び出されて相談に乗ったり、外へ見回りに行ったりすることが増えているのだ。


 いくら長年かけて築き上げた治水の土地といえど、こんなに豪雨続きだと色々支障が出てくるのでは。

 そう思ってルルさんに聞いてみても、ルルさんは「大丈夫ですよ」と微笑むだけなのだ。


「ねえルルさん。雨大丈夫なの?」

「はい、リオが心配することは何もありません」


 うそやん。

 私は心の中でツッコミを入れた。新婚さんといえ一緒に暮らし始めてからもう5年は過ぎている。ルルさんの過保護から来るウソを見抜けるくらいのスキルを私はとっくに身に付けていた。






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