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雨に唄えば4

「アッ」

「やったーあがりー!!」

「きゅーせーしゅさま、また負けー!!」

「きゅーせーしゅじゃないよ、リオちゃんだよ!」

「リオちゃんよわーい!!」

「ねーもっかいやろー! 次はてかげんしてあげるからー!」


 子供相手にババ抜き惨敗しているのが救世主こと私です。

 地球でポピュラーな遊び道具であるトランプは、私(というよりは主にルルさん)が作ったアイテムだ。複数人数でも遊べるし子供も大人も楽しめるので、旅行するときは何セットか荷物に入れるのが定番になっている。


 雨が多いキピルトーの街では、他よりも室内ゲームの内容が充実している。とはいえ子供たちは遊び飽きていたようで、トランプに夢中になって遊んでいた。そしてこの世界で一番トランプ歴が長いはずの私は惨敗していた。


「ねーリオちゃん、リオちゃんがお庭のフコの木くれたって神官さまが言ってた。ほんと?」

「え、あー、最近植えたやつだったらそうかも」

「ちがうよあれはきゅーせーしゅさまのフコだよ! リオちゃんきゅーせーしゅじゃないって言ってたもん!」

「こらそれは救世主って呼ぶなってことだよ。この人は救世主なの。あのフコ植えられてから天災だっておさまっただろ?」

「フコおいしかったよー!」


 私がカラオケを楽しむかたわらで自動的に育っていたフコの木は丈夫でよく育つので、あちこちの街や神殿に配られたという。まだ土地が荒れて食糧の少ないところでは、完全栄養食なフコはありがたがられたとかなんとか。

 この街にもフコの木が届いていたようだ。私はフコの種やら枝やらを持ち込んでカラオケしてただけだけれど、こうやって「久しぶりにお腹いっぱい食べた」とか「病気の弟が元気になった」とか言われると救世主やってよかったなあとしみじみ感じた。


「あのね、きらきらの雨のときはフコいっぱいできるの。神官さまがね、こどもは先に食べなさいって。おいしかったあ」

「いっぱいいっぱいできたからね、みんなで食べたよ!」

「あの、この辺は雨で木も流されるから食べ物もなくて、みんな飢えてたから助かりました」

「みんなよかったねえ……無事でいてくれて本当によかったねえ……!」


 ちっちゃな子をぎゅっと抱きしめると、他の子供たちも寄ってきてわーわーともみくちゃにされた。


 ここはキピルトーにある神殿。ニャニを祀っているほうじゃなく、神様に祈るための普通の神殿の方だ。規模が小さいけれどここにも神官やら騎士やらがいて、そして孤児もいる。この世界の孤児は大抵、世界が荒れていた頃に親を亡くしたり、育てきれないからと預けられた子供たちだ。今はぷくぷくして健康そうな子供たちがどれだけ辛い目に遭ったのかと思うと胸が痛むし、その分だけいっぱい食べていっぱい遊んでいっぱい楽しい思いをしてほしいと心から思う。


 おしくらまんじゅう状態からくすぐり合いになりキャーキャー言いながら子供たちと遊んでいると、開けっ放しのドアからルルさんが入ってきた。


「ルルさん、おかえりー」

「ただいま戻りました」


 手や顔、髪を拭きながら帰ってきたのはルルさんだ。ずぶ濡れになったはずのマントを脱ぎ、ブーツも室内用のものに履き替えて身軽な状態になっている。よく見たら服も変わっているので、一旦着替えてから来たらしい。

 ルルさんは近寄ってくると、慣れた様子でヒョイヒョイと子供たちを持ち上げて私を掘り起こした。座らせて怪我はないか確認すると、子供たちに真剣な顔で向き合う。


「リオはとても弱いので、力いっぱい押したり乗ったりするのはやめなさい。怪我をすると治るのも大変なのだからそっと触れるように」

「あのー、私ガラス製品とかじゃないんですけどー」

「リオちゃんよわいのー?」

「弱くないよ。そりゃ神殿騎士とかと比べると弱いけど、普通の弱さだよ」

「とらんぷはすごくよわいよね!」

「ウッ」


 子供に気遣いされる大人が出来上がってしまう前に、私はルルさんを押しながら立ち上がった。濡れたニャニが部屋に入り込んできたのもあって場所を譲ることにしたのだ。ズルズルと入ってきたニャニは小さい子に歓迎され、ちょっと大きい子には床を濡らしたと怒られ、片手を上げている。ニャニはあの見た目でわりと子供好きだし、驚くべきことに子供もニャニのことを好きな子が多いので格好の遊び相手になりそうだ。


「もう少しで食事の準備が始まるので、それまでここで遊んでいるように。私とリオは戻ります」

「はーい!」

「リオちゃんまたねー!」

「またねー。トランプで遊んでていいよー」

「やったー!」


 色んな年代の子供たちに見送られて、私とルルさんは部屋に戻ることにした。エルフは金髪碧眼なので、ニッコニコで手を振られると天使みたいでとてもかわいい。


「ルルさんルルさん、トランプ子供たちにあげてもいいかな?」

「どうぞ。そのために多めに持ってきたのですから」

「ありがとう。外どうだった?」

「今日もまだ随分降ってました。この辺は西に少し行ったところで熊が出るんですが、とてもそこまで狩りに出掛けられないほどで。なので今日は猪と鹿のみです」


 クマ肉を狙っていたらしいルルさんが、真剣に悔いた顔をしている。

 室内遊びを強制してくる土砂降りに、ちょっと感謝をしてしまった。クマは食べるより眺める方がいい。いや野生のクマは眺めるのも怖いけど。


「ルルさん、雨の中狩りに行ってくれてありがとう。ちゃんとあったかくして休んでね」

「リオが温めてください」

「お風呂の方が温めパワーは強いと思う」

「リオの方が強いです」

「ものすごい力強く断言したね……いいけど」


 泊まっている部屋に戻ると、ルルさんが急に甘えてきた。豪雨の中の狩りで疲れたのかもしれない。ベッドの端に座って手を広げたルルさんに、私は正面から抱きつく。まだ髪が湿っていたのでタオルで拭いてあげると、ルルさんは目を細めて笑った。

 旅行先ではあんまりベタベタできないので、こうやってのんびりする時間は久しぶりな気がする。

 ルルさんの膝に乗りつつ髪を乾かしていると、ズル、という音が聞こえる。

 振り向くと箪笥の下からニャニの鼻が出ていた。

 ひっくり返してお腹に落書きの刑に処して欲しいようだ。


「ちょっとニャ」

「神獣ニャニ?」


 私の声よりも圧の強い声によって、ニャニはスゴスゴと消えていった。

 今、ルルさんからなんか殺気みたいなのが放たれていた気がした。






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[良い点] いい雰囲気だったのに…ニャニ…
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