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大体お店出てから歌いたい曲を思い出す18

「ピスクさん、ルイドーくん、おはよー」

「おはようございます、リオ様」

「フィアルルー様おはようございます!」


 ルイドーくんは、若手神殿騎士としてめきめき頭角を現しているらしい。剣に限っていえば他の人を指導するということもあるようだ。私が見てる限りでは相変わらずツンデレというか、ルルさんラブな印象しかないんだけれども。


 ピスクさんとフィデジアさんは、交代で赤ちゃんのお世話をしながら仕事に出ている。フィデジアさんによると、抱っこや寝かしつけはピスクさんの方が上手なのだそうだ。ニャニを抱いていた成果だろうか。


「あれ? ルイドーくん、ジュシスカさんは?」

「鳥に噛みつかれに行った」


 ジュシスカさんは最近、大陸の境付近や人間の国の方へ出掛けていることが多いようだ。シーリースで独立戦争的なものも起こり始め、周辺の国にも影響が出ているらしい。様子を見に行ったり、物資を運んだり、たまに争いを仲裁したり頑張ってくれている。危険で大変そうな仕事だけれど、ジュシスカさんはルルさんの次に腕の立つ騎士だし、大好きな鳥に乗って仕事に行けるので本人は楽しいらしいのが何よりだ。鳥は相変わらずジュシスカさんに噛み付いたりしているけれど、 他の人は乗せたがらないのであれはあれでジュシスカさんに懐いている……のかもしれない。多分。


「あ、音楽が聞こえる」

中央神殿こちらの祈りの間からですね」


 神官の人たちに挨拶したりしつつ、ルルさんと一緒に階段を上る。途中で摩訶不思議な音色が聞こえてきたところをみると、巫女さんたちもお祈り中のようだ。

 巫女さんたちの前衛的すぎるお祈りについては、「力」が見えることになったおかげでなんとなーく理解できるようにはなった。そう話すと三姉妹は一緒に祈ろうと誘ってくれたけれども、あれを体現するようになるには私はまだまだ修行不足だと思う。


 シュイさんミムさんリーリールイさんの三姉妹は、英語を習い始めた。地球に帰ってしまったアマンダさんともっとちゃんと話したかったらしい。またアマンダさんみたいな言葉のわからない異世界人がやってきたときに対応できるように言葉を覚えたり、文献として残しておきたいのだそうだ。3人ともとても真面目なので、私の非常に怪しい指導でも着実に習得しているのがすごい。

 私を通してアマンダさんに添削してもらっているので、スピーキングはともかくライティングは正しく習得してくれていると思う。


 アマンダさんはアマンダさんで、最近日本語を勉強しているそうだ。リオともっとおしゃべりできるように、と始めてくれたのがちょっと照れくさいけれど、最近はやり取りをするたびに上達がわかって彼女の語学力に震えるばかりである。卒業が近付いてきて就活が憂鬱だと言っていたけれど、相変わらず彼氏ともラブラブそうな写真がアップされているのできっと大丈夫だろう。


「みんな頑張ってるねえ……」

「リオも頑張っているでしょう?」

「えっそう? どこが?」

「料理や裁縫を覚えたり、文献を残そうとしたり。祈るのはまあ、リオはむしろやりたくてしょうがないのでしょうが」

「あ、うん」


 三姉妹に感化されて、私も最近、急にこの世界に来た日本人向けマニュアルを作成したりしている。神様やお祈りについての説明はいいとして、この世界についての説明は、私自身よく知らないことも多いのでルルさんに聞いたり調べたりしながら書いている状態だ。なので進捗はかなり遅い。

 料理と裁縫はまあ習っているけれど、すぐに上達するものでもないのでコツコツやっている。どうやら社畜精神の名残があるらしく、私は気合を入れてやると頑張りすぎるところがあるらしいので、ルルさんに止められたりしながらのんびりやっている。


 カラオケは、相変わらずストレス解消にいい。

 これだけ長い間、ほぼ毎日歌い続けているのにまだ飽きがこないので、やっぱり私は歌うのが好きなようだ。人前で歌うのは今でも無理過ぎるし、これからも無理じゃなくなる気配は全くないけれど、まあ問題はないだろう。

 ルルさんが時々歌を聴きたいと言うので、ルルさんの前でくらい歌えるようになれたらいいなーとは思う。500年後くらいに。


 いつも通りに生きているしこれからもそうなんだろうけれど、それでもたぶん、これから長い時間を生きていく中で少しずつ私も変わっていくのだろう。

 もしかしたら、地球に還らなかったことを後悔することもある……かどうかはわからないけれど、色々悩むこともあるかもしれない。また何か問題に巻き込まれることもあるかもしれない。


 でも、私の隣にはルルさんがいる。隣にいなくても、ルルさんの気配を感じることができる。それだけでなんか落ち着くので、なんとかなるだろうと楽天的になれるのだ。ルルさんが強いのでなんとかしてくれるだろうという気持ちもあるし。


 ルルさんが私を思ってくれているのと同じように、私もルルさんのことを思えてたらいいな。

 そう願いながら大きな手を握ると、ルルさんは私の方を向いて微笑んだ。


「ではそろそろ、準備も始めましょうか」

「え、準備? 何の?」

「熊狩りです。いい季節になってきましたからね」


 訂正。同じように思えなくていい。オンリーワンでいい。個性を大事に。好みを大事に。


「いや……熊は……」

「まずは臭みを感じにくい料理にしましょう。この一年、資料を集めておきました」

「そうじゃなくてね……ルルさん……」

「一度食べればきっとリオも好きになると思いますよ」


 まあ、まだ色々問題はある。

 でもまあきっと、何とかなる……のだろうか。数百年が短く思えてきた。

 とりあえず私にできることはひとつである。


「歌うしかない……」


 私はルルさんを引っ張るようにして、奥神殿の扉を目指した。






本編はこれで終わりです。

ありがとうございました。

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