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大体お店出てから歌いたい曲を思い出す12

「リオ」


 私の姿を見て微笑んだルルさんは、黒い騎士服に着替えていた。

 普段柔らかい色合いの服を着ていることが多いので、雰囲気が引き締まって精悍な印象を与える。金髪碧眼も映えて見えた。


「ルルさん遅くなってごめんね」

「少しも。服も髪もとても似合っていますよ」


 キラキラ笑顔で言うルルさんの背後で、ルイドーくんが「うげぇ」という顔をしていた。神殿騎士の正装をしてピスクさんやジュシスカさんと並んでいる。ピスクさんの隣にはこちらに片手を上げているニャニがいて、おめかしなのかイタズラなのか頭にリボンが結ばれていた。背中ではヌーちゃんが仰向けで昼寝をしている。


「では参りましょうか」

「うん」


 差し出された手に自らのものを重ねる。見た目はすらっとしているのに、触るとゴツゴツしていて掌は固い。よく手を繋ぐので、私は多分目隠しをしてもルルさんの手を見分けられるだろう。

 ジュシスカさんが前を歩き、私たちが続いて後ろにフィデジアさんや三姉妹、ピスクさんとルイドーくんが続いた。ズルズル尻尾を引きずる音も聞こえてくるのでニャニもいるようだ。


 神殿騎士の人たち4人はシーリースの襲撃を警戒して私の護衛を任されていたけれど、シーリースは私を呼び込もうとするのを諦めたらしくあれから危険な目にあうこともない。そのため、明日からジュシスカさんとフィデジアさんはその任務から外れることになっていた。ルイドーくんは経験値を積むためもあって任務を引き継いだけれど、その他の仕事もするのでずっといるわけではない。ピスクさんも、護衛をしてくれるのは中央神殿にいるときと、どこか遠出をするときくらいになるそうだ。


 特に危険もないのに護衛してもらうのも気がひけるといえばそうだけれど、今まで毎日顔を合わせてきた人たちなので寂しい。でも私が寂しそうな顔をしていたからか、時間が合うときはまた食事でもと言ってくれた。優しい人たちである。


「心は落ち着きましたか?」

「全然落ち着いてないよ。ほら手が湿ってきたでしょ。べっちゃべちゃになったらごめんねって先に謝っとくね」

「私も緊張しているので、私の汗かもしれません」

「いや嘘でしょそれは」


 いつも通りの顔でサラッと言われても。

 まあ、ルルさんが緊張でプルプルしてるところなんて全然想像できないけども。


 階段を下り、廊下を歩いて広間へと入る。私がこの世界に来たときに召喚術の陣が描かれていたところだ。何度か来たことがあるのでさほど緊張することはないはず。

 と思っていたけれど、大きな扉が両側に開けられた途端、私はルルさんの手を握り潰す勢いで握り、腕を引っ張ってルルさんに小声で話しかけた。


「ルルさん、長老に挨拶するのが結婚式みたいなものって言ったよね。エルフは結婚式がとても質素だって」

「はい」

「なんかめっちゃ人がいるんですけど。全然質素じゃないんですけども?」


 大きな広間には、扉から奥の少し高くなっている場所まで真っ直ぐに絨毯が敷かれている。その両側に、神殿中の人が見に来たんではと思うくらい大勢の人がいた。

 なにこの見世物感。私の手が汗出しすぎて干からびそう。


「リオを慕っている人は多いですから」

「そういう問題じゃなくない? なんか装飾とかすごい豪華になってない?」

「そういえばそうですね」


 私が知っている広間は、せいぜい壁際に控えめに花瓶が置かれている程度である。シンプルでもルルさんは広間の装飾については普段通りで構わないと思っていたらしい。けれど今は巨大な壺にさまざまな花が飾られ、タペストリーが垂らされ、全体的に豪華だった。こちらを見ている人々もなんかおめかししている。


「まあ、長老へ挨拶をすれば終わりですから。あとは宴会が始まるかもしれませんが、それには参加しなくても大丈夫ですし」

「それいいの? 言ってみれば私たちがメインじゃない?」

「我々は儀式を行いますからね」


 儀式を行わず結婚のみの場合は、偉い人への報告が終わればお披露目も兼ねてそのままパーティーになることが多いらしい。儀式は2人で行うので、パーティーに出てからでもいいし、儀式が終わってからパーティーに出てもいいし、場合によってはパーティーには出なくてもいいそうだ。ご馳走が並ぶらしいのでちょっと行きたい。


 大勢の人に注目されるのは手汗が半端ないけれども、これだけ祝ってくれる人がいると考えたらありがたいことではある。日本で結婚してたらそんなに参列者はいなかっただろうし。手汗はめっちゃ出るけれども。


 広間をまっすぐ進み、一段高い場所に立っている長老たちへと近付いたところでジュシスカさんたちは道を外れて立ち止まってこちらを見た。

 フィデジアさんが微笑み、三姉妹が小さく手を振ってくれる。さっきのやり取りを思い出して私の中に若干余裕が戻ってきた。私も小さく手を振り返すと、隣に立っていたピスクさんも抱えたニャニの右手を持ってちっちゃく手を振っていた。ついでなのでそれにも振り返すと、ニャニの尻尾が揺れてピスクさんの足にバシバシ当たっている。


 ルルさんと一緒に、長老のもとへと歩みを進める。

 並んだ長老たちの中から、一番年上そうなおじいさんがこちらへと近付き、私とルルさんへにっこりと微笑んだ。






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