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大体お店出てから歌いたい曲を思い出す6

 だらだらしている。

 だらんだらんしている。


「リオ、別に椅子から落ちそうになる必要はありませんよ」

「あ、ごめん、だらだらしてたから今」


 ソファに膝を抱えて座り、そこから横へと崩れ落ち、さらにだらんとしているとルルさんに助け起こされてしまった。

 起き上がると、ソファのすぐ下でニャニが手を上げていたのが見えた。だらんと伸ばしていた私の手を触ろうと奮闘していたらしい。危ない危ない。


「ねえルルさん、今日の私はかなりだらだらできてたと思わない?」

「だらだらするのは努力することではないと思いますが……」


 ルルさん曰く、疲れは自覚していなくても溜まるもの、らしい。

 ましてかなりの引きこもりから一転長い旅路を歩むことになった私は、感じていなくても心身ともに疲れていて、しかもそれがまだ取れていないとか。


 こういうのは後々体に出る。出てからでは困る。なのでしばらくは安静にすべき。

 そう主張するルルさんのもと、中央神殿へ帰ってから1週間ほど、私はのんびりだらだらする日々を強いられていた。帰ってきてすぐに長時間カラオケした日以降、1時間以上のカラオケも禁止されているのである。繁華街にあるカラオケ店混雑時並みの厳しさで私は毎日歌っていた。


 そもそも今までずっと働いていたり、歌っていたり、旅したりと毎日なんやかんやある暮らしに慣れていたため、いきなりそれらをやめてだらだらしろと言われても逆に難しい。とりあえずヌーちゃんの真似をしてみているけれど、割と退屈である。あとヌーちゃんは食べ物の匂いがするとかなり機敏である。


 とりあえずアマンダさんにあてるメールを頑張って英作文してみたり、帰りの馬車でやっていた編み物をリベンジしてみたりとのんびりできることを探してやっているけれど、どっちも割と大変だし、疲れたと口にしようものならルルさんが取り上げてしまう。

 奥神殿の外でお茶してみても、水辺を異様に警戒するルルさんがいるのでリラックスできないし、中庭でお茶をしようものならいろんな人に気を遣わせてしまってなんか申し訳ない。でも部屋に閉じこもってるのも暇だ。


「ひま……ヒ、マ……暇っ……ひぃーまっ」

「では出掛けましょうか?」


 私が暇すぎて「ヒマのポーズ」を編み出していると、見兼ねたルルさんが提案してくれた。すぐに「行く!!」と答えると、ルルさんが眉尻を下げて笑っている。暇を持て余しすぎる私を哀れに思ったようだ。


 いそいそと着替え、最近肌寒くなってきたので柔らかい素材のマントを上着にしてルルさんと手を繋ぐ。ピスクさんに意気揚々とついてこようとするニャニを預け、ジュシスカさんを伴って私たちは一階へと下りた。


「この馬車で行くの? 今日天気いいしこの前の荷馬車で行かない? どこに行くのかわからないけど」

「乗り心地は悪くないと思いますが……荷馬車のほうがいいですか?」

「せっかくだから景色色々見れたほうが楽しいかなって」


 私たちの目の前にあるのは箱馬車というやつである。前に馬の手綱を握る人が座る場所があって、その後ろに屋根付きドア付きの座席がある。シンデレラに出てくるかぼちゃの馬車を四角くシンプルにした感じだ。

 ドアが開けられているのでベンチがあって座りやすいのはわかるけれど、いかんせん窓が小さい。

 中央神殿へ帰ってから初めての外出である。せっかくなので外の風を感じたい。そう主張すると、ルルさんは微妙に困った顔をした。


「荷馬車だと馬も見えるし……でもダメならこれでもいいよ」

「いえ、荷馬車は荷馬車で都合が良いのですが……リオは本当にいいのですか?」

「うん、荷馬車のほうが好き」


 私が頷くと、では準備をしましょうと前に繋がれていたパステルの手綱を解き始める。パステルピンク色のパステルは鼻筋をそっとルルさんに当てていた。ルルさん曰く、旅に同行できなかったのでちょっと拗ねているのだそうだ。可愛すぎる。


 パステルを連れて荷馬車の方へと移動するルルさんの後ろを歩いていると、ジュシスカさんがそっと耳打ちしてきた。


「あの馬車はそこそこ上等なもので……フィアルルーはリオ様と良い雰囲気になりたかったのでは……」

「えっそうなの? 私空気読めてなかった? 今からでもあれがいいって言ったほうがいいかな?」

「荷馬車で構いませんよ、リオ」


 ルルさん地獄耳。

 私に手を差し出しながら、ジュシスカさんに対して顎で「先に行け」と言っている。


「あの……ごめんねルルさん」

「謝ることはありませんよ。荷馬車は揺れますがリオの言う通り景色を楽しめるでしょう。私としても、今日は荷馬車だと助かりますから」

「なんか買うの?」

「はい」


 名残惜しそうにヒヒンと鳴いたパステルと離れて、ルルさんは荷台に私を乗せ、それから自分も乗る。この荷台は旅をしたときに使っていたのと同じで、荷台には藁で作ったソファ兼ベッドもどきが置いてあった。覆っているシーツが頑丈なものから肌触りのいい高級そうなものに変わっていたけれども。


「ルルさんが後ろにいるの、なんか新鮮だね」

「今日は御者がいますからね」


 車輪の前に置いていた三角のストッパーを外したジュシスカさんが、ひょいと前に乗ってこちらを確認してから荷馬車を進ませる。

 道中はずっとルルさんが運転してくれていたので、ルルさんが荷台にいるのは休憩のときくらいだった。運転席に並んでおしゃべりするのも楽しかったけれど、ゆっくりと変わる風景をこうして一緒に眺められるのもいいな。


「楽しみだね!」

「そうですね。買い物のついでに、どこかでお茶でもしましょう。これから向かう場所の周辺は疫病の報告もない地域ですから」

「やった。ちょっと離れた場所に買い物に行くの? 何買うの?」

「酒を仕込むための材料ですよ」


 儀式に向けて準備を始めると言っていたことを、まさか忘れていたということはありませんよね?


 そうルルさんは笑顔で聞いてきた。私は首がもげるほど頷いた。

 酒ね、あの結婚的な儀式的なあれ的なあれね。すっかり忘れてなんていないっすよ。ほんとっすよ。


 酒か……。






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