大体お店出てから歌いたい曲を思い出す2
「リオ様、おはようございます」
「リオさま、よくお眠りになられました?」
「おはよー寝たよー」
「リオ、こちらに座ってください」
お茶を飲んで目を覚まし、着替えてから食事を摂っている部屋へと行くと、三姉妹やフィデジアさん、ジュシスカさんやルイドーくんみんなが揃っていた。ピスクさんはいつも通り廊下で警備だけど、なぜか私の視界に入るところで仰向けになってジタバタしたがるニャニを預けてきたのできっと喜んでいるはずだ。
丸いテーブルを囲んで座り、それぞれが大皿の料理を取り分ける。
「なんか……アマンダさんいなくて寂しいねえ」
「あらリオさま、私はリオさまがいらっしゃって久々に賑やかだと思いましたわ」
「賑やかなのは賑やかだけども。こんなに大人数で食べるの久しぶり。ねえルルさん」
「ええ」
いい感じに私の好きな料理をお皿に盛り付けてくれたルルさんが、隣に座りながら頷いた。
ハチさんの村を出てからは大体2人と2匹の食事だったからなあ。いや、それもある意味賑やかだったけども。
「いただきまーす」
「熱いので火傷しないでくださいね、温野菜がいい温度です」
「うん」
長い距離を移動したので、色んな味付けの料理を食べることができた。今まで見たこともないような料理もあったし、食べたことのある料理でもスパイスがちょっと違った。小さな村に泊まったときは、おふくろの味って感じの料理が出たりしたし。
どれも美味しかったけど、やっぱり中央神殿の料理は一流だ。
この世界に来てからずっと口にしていたせいか、この味がホームベースというか、慣れ親しんだ懐かしさを感じさせる。
半額お惣菜を冷凍して弁当に詰めていた私が豪華な料理で懐かしさを覚えるとか、救世主はやっぱりおいしい仕事だ。
「……ん? どうしたの? 食べないの?」
甘酸っぱいドレッシングと共にエリンギみたいな形のブロッコリー的な温野菜を食べていると、なんとなく視線を感じた。
何となくというか、なんか見られてる。
何なの、顔にヌーちゃんの手形がついてるとかなの。
頬を触って確認するけれど、ヌーちゃんの手形もヨダレのあともついてなさそうだ。
じゃあ何を見てるというのか。戸惑いながら、微妙に物言いたげな面々をぐるりと見回すと、ケッと言いたそうな顔で異世界風唐揚げを取っているルイドーくんと目が合った。
なんか言って。そう気持ちを込めて見ていると、小綺麗な顔がイヤそうに歪んで盛大な溜息を吐いた。
「お前、あーれだけ隣に座るのもイヤがってたくせに、何至れり尽くせりされてんだよ」
「あっ」
そういえば、なんか気まずさとかでルルさんと顔を合わせにくかった時期もあったな。
そして防波堤にルイドーくんを使って怒られたな。
「あー……ラーラーの大陸からこんな感じだったから、つい……」
「私とリオは酒を交わすと誓い合った仲なので」
ビックリしすぎて噎せた。私の他にもルイドーくんが噎せてた。
他の人は噎せてないけど、微妙に「は?」みたいな顔になっていた。
「大丈夫ですか? ゆっくり飲んでください」
「いや、ヘーキ、マジで」
ルルさんは何しれっと背中をさすりつつお茶を飲ませようとしているのか。感じて、みんなの視線。めっちゃ刺さってるから。
どうにかこうにか咳き込むのを抑えてテーブルへ向き直ると、若干の生温かさを感じる微笑みで祝福された。
「リオさま、とうとう陥落なさったのですね」
「陥落って」
「おめでとうございます……で良いのでしょうか、リオ様」
「フィデジアさんめっちゃ複雑な表情してる!」
「申し訳ありません、フィアルルーが無理矢理想いを通したのではないかと思ってしまい」
「失礼な」
フィデジアさんの言葉をルルさんが鼻で笑った。
「リオは私のことをとても好いていますよ」
「いきなり何言ってんの?!」
「違うとでも?」
「いやなんでそんなに自信満々なの? ルルさんのその押しの強さは何なの?」
物理的な強さが上がると心理的な強さも比例してしまうのだろうか。知り合いを前に恥ずかしいことを言ってのけた上でのこのブレなさ。心の体幹がすごい。
三姉妹がまあぁ、とより生温かい笑顔になった。
いたたまれない。
助けを求めて視線を巡らせると、ルイドーくんがまた溜息を吐いた。
「まあ、お前はボーッとしてるからどうせ逃げられないとは思ったけどな」
「逃すような男ではないですからね……」
ルイドーくんもジュシスカさんも、ルルさんだしなあ……みたいなことを言って視線を外し、食事を再開した。
なにこの空気。どうすればいいの。
「良かったですねリオ、皆祝福してくれていますよ」
「祝福……?」
そうですよねとルルさんが話を振ると、口々におめでとうの言葉が返ってくる。
これちゃんと祝福されてる? みんな知ってた感出してたし陥落とか言われてたけど祝福されてるでいいのかな?
「リオ、料理が冷めますよ」
「うん……」
微妙ないたたまれなさを感じながら食べたけれど、中央神殿の料理はやっぱり美味しかった。




