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大体お店出てから歌いたい曲を思い出す1

「リオ、そろそろ起きませんか?」

「……んー」


 寝返りを打ちながら掛け布団を巻き込んで潜る。

 消極的な返事はルルさんには届かなかったようで、肩の辺りをゆさゆさと小さく揺さぶられた。モゾモゾと枕元を回り込んできたヌーちゃんが、布団を求めて私の腕の辺りに鼻先を押し付けた。


「そろそろ朝食ができあがる頃ですよ。温かいうちに食べましょう」

「んー……」

「リオの好物を作ると言っていましたよ」


 好物かー……。

 それは食べたい。


「今日は奥神殿へ行くと言っていたではありませんか。起きるのが遅くなると、歌う時間も短くなりますよ」

「……おきるー」


 そうだ。中央神殿に帰ってきたんだった。そしてそれはつまりカラオケし放題ということで。

 目が覚めてきたので、仰向けに寝転がる。するとルルさんが腕を引いて起こしてくれた。ヌーちゃんがキッと文句を言うと、ルルさんが腕を伸ばして掛け布団をかけてあげたのが音と雰囲気でなんとなくわかる。

 起こされたままの状態で座っていると、笑い混じりの声が降ってきた。


「一段と無防備なのは、久々に慣れた場所で眠ったからでしょうか」

「ねむい」

「もう旅は終わりましたから、お好きなだけのんびり過ごしてください」

「うん」


 手櫛で私の髪を整え、生え際にそっと唇を落としたルルさんは「お茶を淹れてきます」と微笑んで部屋を出ていった。

 目がしょぼしょぼ過ぎて開かないのでしばらくそのままぼーっとしてから、ようやく伸びをして肺の空気を入れ替えた。

 中央神殿のベッド、やっぱいいもの使ってるんだなあ。


 昨日、久々に大きなお風呂でじっくり体を温めることができた。

 フィデジアさんとおしゃべりしながら髪も体もゆっくり洗い、ついでにヌーちゃんも洗っていると、疲れが出たのか猛烈に眠くなったのである。髪を乾かして部屋に戻った頃にはもう頭の中が眠いに支配されていて、再開されたルイドーくんの説教の途中から記憶が途切れていた。

 一度起こされてスープを食べたのは覚えているけれど、それからまた眠すぎていくらもしないうちに二度寝。そして今に至る。


 適度な硬さのあるベッド、そしてふわふわで薄いのに温かい羽毛の掛け布団。シーツはすべすべだし、枕に顔を埋めるとほんのりいい香りがする。静かでひんやりした空気と沢山のクッションに囲まれていると、ものすごくよく眠れるのだった。

 救世主っておいしい仕事だなあ。


 ベッドの縁から足を下ろすと、足の裏がひんやりした水色のおなかに着地した。

 旅の間にちゃっかりタムタムされることを日課にしたニャニが、ドヤ顔でお腹を見せている。いや仰向けだから顔見えないけど。でも絶対ドヤ顔。


「あれ、ニャニ落書き消えてるじゃん」


 変に付いてこられてテーブルの下でまで仰向けになられても困るので適当にタムタムして、しばらくしてから気が付いた。ほとんど薄れていなかった落書きが綺麗に消え、平たい鱗がピカピカに光っている。きっとピスクさんが根気よく落としたのだろう。


 鮮やかに輝くニャニの鱗、きちんと調えられた家具、それをふんわりと照らす明かりと白い壁。半分だけ垂らされてベッドに影を作っている分厚いカーテン。


 この世界に来たころは、今までの部屋と違い過ぎて落ち着かないと思っていた。今はもうここが自分の部屋だと感じるし、きっと前の部屋よりもリラックスして過ごせるし、またここに帰ってくることができて嬉しい。


 もし本当にテレポートしちゃうとわかってたら、絶対泉に飛び込まなかったな。

 アマンダさんもちゃんと帰って、ルイドーくんも助けられて、シーリースの人たちも国に戻っていった。だから飛び込んだことについて後悔はしていないけど、もう一度同じ状況になったら飛び込むかっていわれると無理っぽい。今思うとよくあんなことできたなと思うくらいである。


 まあ、帰ってこれたしいいか。


「よかったねニャニ。もうデバガメしないでね」


 最後に左足でタムタムしてからニャニを避けて立ち上がると、ニャニは短い手足を忙しなく動かしてジタバタしていた。






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