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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる24

 ルルさんが簡単なセーターを2着ほど編み上げ、私がマフラーと名付けられた長雑巾を創り出したころ、馬車は中央神殿のある街へと着いた。


「馬車、早かったねー」

「あまり冷えると旅には向きませんからね」


 私たちを牽いてくれている馬は、途中から一頭増えて二頭立ての荷馬車になった。ルルさんが買い物しすぎたせいである。というのは半分冗談で、今年はちょっと冷えるのが早いそうだ。

 緑化したので本来の気候に戻ったともいえるけれど、雨も多くなったのでちょっとスピードアップして帰ってきたのである。


 並列した馬を操りつつセーターを編み上げたルルさん、何者なんや。

 私は編み物といえば二本の棒を使うアレを思い浮かべていたけれど、ルルさんは例のクシみたいな棒を使ってなんか上手いこと編み上げてしまった。半身ずつ編み上げて後から縫い合わせる方法だったけれど、襟ぐりとか袖口とかちょっとよくわからない。人間の技じゃなかった。いやルルさんは人間じゃなくエルフだけども。


「騎士はよく服を破くので、誂えものは得意なんですよ」

「そういうものなの……? 男の人なのに」

「私の知る限り、マキルカでは男のほうがよく編み物をしますね」

「そうなの?!」


 黙々と作業できるし、きちきちに編み上げるときは力もいる。だから編み物は男に向いているとルルさんが言っていて衝撃的だった。

 この世界、編み物は女子力じゃなく男子力だったのか。


 よかった。私は安心してルルさんの作ったふわふわセーターを着よう。

 言い訳すると、私も壊滅的な不器用というわけではない。多分。

 私が作業していると、ヌーちゃんが毛糸に頭を突っ込んでお昼寝を始めるので編みにくいし、ニャニがじっと覗き込んでくるので気が散るし、あと編み目とか言われても見分けがつかないしなぜか杭から毛糸が外れる。いや不器用だなこれは。


 でもまあ暇つぶしとしての役目は果たしてくれたし、それでいいんじゃないかな。

 そう思いながら絡まった糸をほぐしていると、白い石で造られた大きな建物が見えてきた。


「おおー、中央神殿、こう見ると大きいねー」

「ちょうど迎えが来たようです」

「あ、ほんとだ」


 疫病はもう沈静化傾向にあるとジュシスカさんは言っていたけれど、ルルさんは念のためと街の端、中央神殿の裏側へと回り込むようにして街へと近付いた。私たちの姿が見えたのか、馬が何頭か走ってくる。


「パステルとメルヘンだ!」


 まず躍るように近付いてきたのは、パステルカラーでピンクとムラサキの馬だった。背中には何も乗せず、イヒヒーンと嬉しそうな声を上げている。その後ろに走ってきている赤い馬の上には、フィデジアさんが乗っていた。後ろには部下らしき人たちもついてきている。手を振ると、大きく振り返してくれた。


「フィデジアさん、あんなに馬走らせて大丈夫かな? 赤ちゃんびっくりしないかな」

「よほどリオが心配だったのでしょうね。フィデジアは乗馬も上手いので無茶な乗り方はしないはずですが、心配なら後ろに乗せましょう」


 ルルさんが荷馬車のスピードを緩めて私を下ろしてくれると、まずパステルとメルヘンが駆け寄ってきた。ルルさんの馬であるパステルは尻尾を揺らしながらルルさんに近寄って、嬉しそうに顔を擦り付けている。メルヘンは馬車の周りを2周してから見慣れない馬に挨拶したあと、ウヒヒヒと鳴きながら私の頬をベロンと舐めた。


「メルちゃんー! 覚えててくれたんだねーただいまー」


 濃ゆいイチゴスメルも笑うみたいな鳴き声も懐かしい。


「リオ様!!」

「あ、フィデジアさん」


 馬からジャンプするように下りてきたフィデジアさんが駆け寄ってくる。

 お腹も目立つようになってきているので慌てて私も近付くと、少し屈んだフィデジアさんの力強い腕にぎゅっと抱きしめられた。それから両肩を掴まれ、全身をペタペタジロジロとチェックされた。


「お怪我はありませんか?」

「あ、ないない。大丈夫」

「よくぞご無事で……本当に、よくぞお戻りくださいました」


 背が高くキリッとした印象で、性格もハキハキしたタイプなフィデジアさんが目を潤ませている。泣き出してしまいそうに歪んだ顔も、少しやつれてしまったように見えた。


「心配掛けてごめんなさい」

「話を聞いたときは心臓が止まるかと……フィアルルーが追ったと聞いて無事だとは信じておりましたが、便りが届くまではみな案じておりました」


 フィデジアさんは、私を守る騎士の1人だった。護衛対象がいなくなってしまって大変だっただろうし、フィデジアさんは優しいからすごく心配してくれたのだろう。

 赤ちゃんもいる大事な時期なのに負担をかけてしまったのだと今更ながらに胸が痛んだ。


「フィデジアさんも無事でよかった」

「リオ様……」


 ぎゅっと抱きつくと、フィデジアさんがもう一度抱きしめてくれた。


「リオ、フィデジア、その辺で。まずは神殿へ入りましょう」

「うん」


 ルルさんに言われて、私とフィデジアさんは荷台に乗る。藁のベッドに並んで座って、足元に伏せるニャニの尻尾を追うように後ろからメルヘンがついてきていた。パステルはルルさんと会えたのが嬉しいのか、ぴったり横について並走していた。


「編み物は私も不得手ですね。ピスクのほうがよほどましなものを作ります」

「仲間……!」

「人前で着られるほどになるのは時間がかかりますから、フィアルルーに編ませておけばいいかと」

「だよね!」


 私が着ているふわふわセーターを褒めつつ同意してくれたフィデジアさんと手を取り合っていると、ルルさんが振り向いて「余計なことを」とフィデジアさんを睨んでいた。パステルが首を伸ばして擦り寄ろうとしている。


「リオ様のお部屋のための冬支度も少しずつ始めております」

「ほんと? 楽しみだなー」

「一同、到着を心待ちにしておりますよ。今日は宴となるでしょう」


 かつてない規模で心待ちにされている。

 救世主だからというのもあるだろうけれど、私を待っててくれた人がいるというのは嬉しかった。

 へへへと笑うと、ニャニがゴロンと仰向けになってカフーと息を吐く。

 そのお腹の落書きを発見して、フィデジアさんは私をやんわり説教した。ごめんなさい。






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