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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる22

「……暑いっ! あごめん」

「いえ……」


 じんわり汗をかくような暑さで寝ていられずブランケットを体から押し剥がすと、腕が何かに当たった。何かというか、ルルさんである。

 ルルさんがいくら頑丈人間、いや頑丈エルフだからって起きて早々裏拳はない。私が寝ぼけ眼で謝ると、既に起きていたらしいルルさんはなぜか押し殺すように笑っていた。


「……なんで笑ってるの?」

「すみません。夜中の冷える頃にもリオが手足を出して眠ろうとしたので、何度か毛布をかけ直したのですが、それを蹴りやる姿が幼い頃のルイドーたちとそっくりで」


 だって暑かったんだもん。という言葉を私は拳に乗せてルルさんにお見舞いしておいた。

 ルルさんが選んだ良い宿だけあって、ベッドもブランケットも良いものが使われていた。良いものはしっかり保温して、つまりまだ夏の暑さが残るこの時期には暑かった。

 今思えば中央神殿でも高級品を使っていたけれど、私のベッドは分厚い石の壁をくり抜いた作りだったので全体的にひんやりしていたのである。ここは普通のベッドなのでそのひんやり感がなく、おまけにちょっと蒸した夜で、その上ルルさんと一緒に寝ていたのである。というかルルさんに抱きしめられながら寝たのだ。


「正直、ルルさんが暑かったなって」 

「それはすみません。早く冬になるといいですね」

「改善する気ないじゃん……」


 一応ルルさんが弁明したところによると、寝てる間に私が嫌がったのでちょっと距離をとって寝ていたそうだ。寝言で「あっちいって」とか言ってしまっていたらしく、全然覚えてないけどちょっと申し訳ない。


「ごめんね。なんか……蒸した夜だったよね」

「もうそろそろ涼しくなってくる頃ですよ」


 ハチさんの村を旅立ってから、そこそこ経った。夏の盛りは過ぎたとルルさんは言っているけれど毎日旅をしてきたせいか暑く感じていた。久しぶりに日焼けをしてしまったし。せっかく幌付きの馬車で帰れることになったのだから、これからは涼しく過ごしたい。



 身支度を整えて宿の一階で食事をとる。具沢山なピリ辛スープと硬いパンは、食べたことのない味付けで美味しかった。舌にピリッとくるような、中華料理でいうと「マー」な辛さがお肉の臭みをうまいこと風味に変えていて、朝からまた汗をかいてしまった。


「リオ、少し買い物をしてから出発しましょう。次に大きな街へ着くのは数日後になりますし、今日の宿までは距離が短いので」

「わかったー」


 宿に馬車を置いてもらったまま、私とルルさんは街を歩く。

 この街は交通の要所でもあるらしく人が多い。中央神殿がある街ほど人が多いわけではないけれど、賑わっている市場ではさまざまな商品が売られていて、そこに沢山の人が行き交っていて活気があった。踏まれそうなのでニャニにはついてこないようにと言ったくらいである。

 ルルさんと同じ金髪碧眼のエルフが多いけれど、さまざまな髪色をした人間の姿も珍しくなかったし、一度だけラーラーの民ともすれ違った。


「リオ、はぐれないよう気をつけてください」

「うん」


 差し出された手と、自分の手を繋ぐ。ルルさんは微笑んで、人混みを避けながら歩き始めた。

 よくわからない香辛料が並んだ軒や、甘い揚げ物の匂い。木製の道具が置かれているお店に入って、ルルさんが店主と何やら話をしている。


 なんかちょっとデートみたい。


 商品を受け取っているルルさんを眺めながらそう思っていると、ルルさんが微笑んでまた手を繋いでくれた。

 ルルさんもそう思ってるかな。そうだと嬉しいな。


「リオ、何か欲しいものはありますか?」

「うーん、特にないけど、もうちょっと見て回りたい」


 青い目が細められて、ルルさんが頷く。

 ちょっとの照れくささと、ウキウキした気持ちでその隣に並んだ。


 通りに戻ると、子供たちに囲まれたニャニが誇らしげに仰向けになって落書きを見せびらかしていた。

 見なかったことにした。






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