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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる21

 馬車の旅は快適で、そして色々な場所を見て回れるのはとても楽しかった。


「ルルさん見て、あっちのほう、また村がある!」


 ラーラーの大陸では、見てきた大体が森だった。落ちている石がカラフルだったりしたのでそれはそれで面白かったけれど、こっちに戻ってきてからは明らかに人の手が入った風景に変わったのでもっと面白かった。

 今は等間隔に植えられた木や苗が続く緩やかな丘が続いていた。よく知らないけど、フランスの農村って感じの光景だ。その中にぽつぽつと作業している人影が見える。たまに手を振ると、顔を上げてこちらに振り返してくれたりして楽しかった。


「この辺りは農業をしている小さな村が多いので、もうしばらく進んで大きな街で宿を取りましょう」

「うん」

「疲れてはいませんか? 眠ってしまっても構いませんよ」

「平気平気」


 お昼休憩で神殿の人たちが持たせてくれた肉まん的なお弁当を食べたあと、ルルさんは後ろの荷台に乗ってみてはどうかと提案した。

 せっかく藁を布で包んだベッドがあるので座り心地でも確かめてみたらということだったけれど、私が疲れていないか気遣ってのことだろう。

 たしかに板の長椅子に座っているような運転席はそろそろお尻が痛かったので、言葉に甘えて寛ぐことにしたのである。

 藁ベッドはお尻に負担が掛からないし、荷物に手が届くのでおやつが食べ放題。ニャニが仰向けのままじわじわ近寄ってくるので、それを定期的に端へ追いやる作業が必要なこと以外にはとても快適な空間だった。


「ルルさんは疲れてない? お尻痛くない?」

「鍛えていますから」


 お尻を鍛えるためにトレーニングをしているルルさんを思い浮かべつつ、私はそっと飲み物とオヤツを前の座席に差し入れした。尻トレも爽やかにこなしそうな笑顔でお礼を言われた。


 のどかな風景を楽しみつつ、私とルルさんは特に何のトラブルもなく大きな街に着いた。というか、着いてからが若干トラブルだった。


「あのさあルルさん」

「はい」


 夕方、宿を見つけたあと。

 荷台から持ってきた着替えやら何やらをテキパキ確認しながら返事をしたルルさんに、私はさっきから感じていた疑問をぶつける。


「この宿ね」

「はい」

「ベッド2つある部屋があるのでは?」


 到着した街は、かなり賑やかだった。人がたくさん賑わい、お店が並んでいて、宿もいくつかあった。その中でも最も高そうな宿に決めたルルさんは、ベッドやテーブルを点検し、テーブルと椅子の間に挟まれていたニャニを助け出しながらあっさりと頷いた。


「もちろんあります」

「じゃあそっちにしたらよかったんでは?!」


 2人部屋と言って借りていただけあって、この部屋のベッドは大きい。2人で寝ても支障はないくらいには大きい。けれど1つしかない。なんならもう一個ベッドが置けそうな部屋なのに1つしかないのである。

 今までの野宿だからとかベッドが1つしかないからとかそういう理由を吹き飛ばせるほどの宿なのに、なぜ。


「何故?」

「そうなぜ……えっなぜ?」

「何故わざわざ別に眠る必要が?」

「えっ……なぜって……なぜって……」


 風通しのために開けていた窓を閉め、私の前にやってきてルルさんはそう言った。

 心底わからないと言いたげに訊かれるとこっちが困る。私が変なことを言っているように感じてしまうではないか。


「リオ。夫婦は通常、1つのベッドで眠るものですよ。ご存知ありませんか?」

「え、そうなの? でも私たちはほら夫婦じゃないし」

「将来を誓い合った仲ではありませんか。リオはそれを反故にする気なんですか?」

「いやそういうわけじゃないけども」

「儀式を重視して私との関係を蔑ろにすると?」

「えっそんなつもりじゃ」

「一日中馭者をして疲れた私を癒そうとも思わないと」

「だからそんなこと言ってないから!」


 ルルさんは口が上手い。

 どういうトリックを使ったのか、最終的に、一緒に寝ることについてなぜか私も同意しているという結論になってしまっていた。ほんとなぜ。


「リオが照れるのもわかりますが、そろそろ慣れていただかなくては」

「そろそろって何?」

「今はまだリオの成人も祝っていませんからね。酒の準備には時間もかかりますし」

「時間かかるなら少しずつ慣れてもいいのでは?」


 物憂げな表情もイケメンなルルさんは、一緒に寝てると割と心臓に悪いのである。完全に慣れる日とか永遠に来なさそうな気もするので、せめて少しずつ慣らしてほしい。

 そう思っていると、ルルさんはハッと深刻そうな顔になった。


「リオ、もしかしてご存知ないのですか?」

「えっ何が」

「夫婦が共に寝るというのは、文字通り眠るだけではないのですよ」

「いやそんなの知ってるから!! そんな真剣な顔で心配しなくていいから!!」


 お伽話は架空の出来事であり……と語り始めようとしたルルさんを私はとても微妙な気持ちで止めることになった。

 ちなみにこの世界のお伽話では、神獣であるバクやニャニが子供を連れてくるらしい。青ワニの背中に乗って川からやってくる子供を拾うとか、普通に難易度高そうである。


 地球ではキャベツ畑に落ちてたりする話があるという話題へ持っていってなんとかその話は終わったけれど、よくよく考えたらルルさんは「イチャイチャしますよ」と遠回しに言っていたのでは、と思ってあとで赤面した。

 一連の流れを仰向けの置物になって聞いていたニャニには落書きを増やしておいた。






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