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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる20

 しっかりと休息を取り思いっきり歌いまくって、橋を渡ることで食らった心身のダメージを癒し、私たちはまた中央神殿へ向けて出発した。


「わーすごい! 馬車だ!」

「なにぶん辺境の小神殿でして、ただの荷馬車で申し訳ないのですが……幌付きなので、日差しが強くても雨でも不便がないかと。せめて楽にお座りいただけるよう藁も積みました」

「すごい豪華じゃん!! 見てルルさん! 移動しながら昼寝ができるよ!!」

「そうですね」


 エメちゃんの代わりに陸を進むのに向いている大きめの馬が、私たちが乗るのを待っている。パステルオレンジの馬が牽いているのは軽トラの荷台と同じくらいの荷車で、四方に柱が付いていて分厚い革布が乗せられていた。四方に垂らすことができる布は、今は丸めて結んである。そこから見える荷台の上には、私たちの荷物の他にもあれこれと品物が載っていた。


 大陸の一番端に位置する神殿の人たちは、とても親切だった。

 ルルさんによると、私がカラオケルームに篭ると例の雨が降るので、ヤベー本物の救世主様だスゴイ!! 的な感じで感動してくれていたらしい。お陰で食事も豪華だったし、着替えやら替えのマントやら、あれこれとお土産も持たせてくれたのである。

 昼食にとバスケットも持たせてくれた。しっかりと布に包まれている食べ物は熱々らしく、お昼頃にはいい温度になっているだろうとのこと。

 いい人たちだ。


「こんなに色々してくれて、ありがとうございます」

「大陸の端にいる我々ですが、リオ様のご威光が初めてこの世に降り注いだときのことは皆が覚えています。我々こそ、この世をお救いいただきありがとうございました。どうぞご無事で、また機会があればお寄りください」

「ぜひ! 大陸はもう二度と渡りたくないけど、またいつか遊びに来ます!」

「神官、騎士一同お待ちしております」


 総出で見送ってくれた神殿の人たちは、私たちの姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。振り返した私の手が筋肉の使いすぎで疲れたほどである。


「いい人たちだったねー。救世主、めっちゃ有り難がられてたねえ」

「奥神殿に近い辺りならまだしも、この辺りは荒廃がかなり進んでいた筈ですからね。土地も人も長く飢えていたのがこの数ヶ月であれほどまでに潤ったのですから、リオはまさしく救世主でしょう」

「そっか、荒れてたんだねこの辺も。全然わからなかった」

「それだけあなたが祈りを捧げてくれたからです」


 中央神殿と奥神殿を往復する生活をしていたのと、最初の頃は特にカラオケルームに引きこもりっぱなしだったこともあって、私はこの世界が滅びそうなレベルで荒れていたころの状況をよく知らない。今見た感じでも特にそんな雰囲気も残っていなくて、木も草も生い茂っていたので実感が湧かないのだ。

 しかも厳密にいうと私の力ではなく、神様のおかげだし。


「ハチたちの住んでいた大陸は、もっと荒廃していたと思いますよ」

「そうなの? あんなに森ワッサーってしてたのに?」

「はい。彼らは信仰が違うのでリオに対して崇拝をするわけではありませんでしたが、ラーラーの恩恵として、潤いを取り戻した森への感謝の気持ちは誰もが持っていました」


 ハチさんたちは、ラーラーと呼ぶ森や自然の意のままに暮らしているので、神殿や救世主などにはあまり興味がない。けれどとても優しくていい人たちなので、ハチさんたちが喜んでくれるようなことをしていたのだと思うと嬉しくなった。


「ちょうどあの村と中央神殿までの距離が、シーリースと中央神殿までの距離と同じくらいです」

「そうなんだ」

「はい。ですから、人間の住む大陸も災厄のない土地は同様に潤っています。シーリースが未だ満たされないのは、リオのせいではありません」

「そこに着地するとは……」


 普通に暮らす分には十二分なほどこの世界は回復している。なので、シーリースの民への同情はしないように、とルルさんは念を押してきた。


「いやルルさん、そんなに言わなくても私はシーリースに同情とかしてないから。てかもう関わらないって言ったの聞いてたでしょ!」

「すみません。リオは優しいので、絆されないか心配で」

「ルルさんはちょっと心配性すぎるよね。あとべつに優しくはないと思う」


 私とルルさんが座っている運転席部分、その背後にある荷台。その荷物の間に仰向けになっているニャニのお腹に『ニャニはワニでなくデバガメです(亀の絵)』と落ちにくい顔料で書いたのは私だというのに。嬉々として書いている私をルルさんは眺めていた筈なのに、どこから優しい判定がでたのだろうか。ニャニが自慢げに見せているからだろうか。


「まあとにかく馬車もゲットしたし、これからは楽に帰れるね!」

「ええ。この地方の詳細な地図も貰いましたから、もう野宿でリオに苦労させることもありませんし」

「えっ……野宿、しないの?」


 せっかくこんなに立派な馬車貰ったのに?

 屋根付き壁付きでイチからテント張らなくてもいいのに?


 私がそう言い募ると、ルルさんはちょっと呆れた顔をした。


「街も宿もあるのですから、わざわざ不便をしなくてもいいかと」

「そっか……街あるんだもんね……その方がルルさんもいいよね」

「野宿がしたいのですか?」

「いや、そんなにやりたいわけじゃないんだけど、ずっとそうだったし……なんだかんだいって楽しかったなって」


 薪拾いをしたりお風呂がなかったり、大変なことも色々あったけれど、ルルさんと力を合わせて頑張るのは楽しかった。まあ主に頑張ってたのはルルさんだけども。

 そういうと、ルルさんは目を細めて、手綱を持っていない方の手で私の手を握った。


「時間は沢山あるのですから、またいつでも旅に出られますよ。今度はきちんと安全な旅をしましょう」

「うん」

「熊も食べなければ」

「う……うーん……!!!」


 墓穴。

 ルルさんがとても楽しみに旅の計画を語り始めたので、私はさりげなく「やっぱりアーバンライフもいいと思う」と主張しまくることになった。






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