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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる19

 歌は、何もなくても歌える。どんな状況でも、どんな気持ちでも歌える。世界中にたった1人になったとしても寄り添ってくれるのが歌なのだ。

 最新の音響設備だとかヒットチャートだとか、誰かより上手いとか下手とかそんなのは後付けなのだ。歌は歌えばただそこにある。

 考えてみたら当たり前のことだけれど、ラーラーの大陸まで流されたことで改めて気付けた。そういう意味でも今回のことはとても貴重な体験だったと思う。


 とはいえ、私の未熟なメンタルにはやっぱりヒトカラが合っている。

 マイクもカラオケ機材もないけれど、防音空間があるというだけで最高だった。


「ふいー歌った歌った」


 熱唱に次ぐ熱唱。アカペラでこんなに歌いまくったのは初めてではないだろうか。

 小さな神殿で用意された部屋は、いつもは食料庫として使われているところらしい。ルルさんがリクエストした、入り口以外の三面プラス上下に一切出入りする余地がないという条件を満たしている部屋がここしかなかったようだ。

 四畳半程度の空間なので踊るには手狭だったけれど、内側から「ルルさん今すぐ入ってきてー!!」と絶叫してもルルさんは入ってこなかったので防音は完璧だった。


 こもった空間だと自分の声が反響して聴きやすく、音程が意識しやすかった。

 練習するためにはこのくらいの方がいいかもしれないと思いながらドアを開けると、正面に置かれた椅子にルルさんが座っていた。


 居眠りしてる。


 少し開いた足の両膝に剣を横たわらせ、ゆるく腕を組んで、首はやや横に俯いていた。金色の髪も傾いた方に流れて、顔の片側がよく見える。

 ルルさんの貴重な睡眠シーン。


 足音を立てないようにそっと歩いて近付く。

 ハチさんたちの村で目覚めてから、ルルさんとしては気の休まる暇もない暮らしだったのだろう。中央神殿のように守られたエリアではなく、食事も自分で用意する必要があって、さらに村では働かないといけない。

 旅に出てからは更に私の体調や安全の確保、向かう方向まで常に気にしていただろうし、危険なことにならなかったとはいえシーリース人との遭遇もあった。極め付けにほぼ不眠不休での橋渡り。


 ルルさん、たくさん無理してたんだろうなぁ。

 なんでもこなしてしまうし、いつも余裕そうに見えるだけに、元気なのか疲れてるのかの違いも見分けにくい。

 基本お世話されて負担になってる立場から「無理しないで」とお願いしても、オメーが言うな感が強いだろうなあ。


 それにしてもよく寝ている。

 ピクリとも動かないまつげ、深くて長い呼吸、無防備な頬。造形がいけめんなので、そのまま絵画になりそうである。起きているときよりもちょっと幼く見えるかもしれない。

 薄い色の唇は、少しだけ開いている。ほっぺが羨ましいほどスベスベ。撫でたい。

 プニプニしたい。でもやったら絶対起きるだろうな。


「……」


 もうちょっと歌って時間潰そう。

 そう思って向きを変えた瞬間、右腕が掴まれて引っ張られた。


「どこへ?」

「あれ、ルルさん起きたの?」


 ヨタヨタと後ろに引っ張られるまま辿り着いたのはルルさんの膝である。乗っていた剣はいつのまにかルルさんの手が掴み、椅子の横に立てかけようとしていた。


「どこに行くんですか?」

「イヤ別に、もうちょっと歌っとこうかなって……ルルさん寝てたし」

「寝ていません。体を休めてはいましたが」


 それは寝てるというのでは、と思ったけれど、護衛の立場で居眠りはしないとルルさんは言い切った。確かに、寝起きにしてはやけに喋り方もハッキリしてるし膝に座った私もしっかり支えてるし、ただ目を瞑っていただけなのかもしれない。

 ていうかなんで私は膝の上に抱えられてるんだ。


「あの、起きてるなら、広間のほうに戻ったらいいのでは」

「口付けはしてくださらないのですか?」

「ハァッ?!」


 いきなりなんなのこの人は。

 やっぱり寝ぼけてるのかなと見つめているとルルさんが首を傾げた。


「じっと見つめていたので、口付けてくださるのかと待っていたのに」

「気付いてたんかい!! なんで起きなかったの!」

「リオがじっと見つめてくるので」


 さっきまで瞼の布団をかぶっていた青い目が、楽しそうに私を見ている。


「てかそんなこと思ってないよ! ほっぺプニプニしたいと思っただけ!」

「それは残念ですが、どうぞしていただいて構いませんよ」

「ほっぺプニプニを?」

「口付けも」


 毎秒10回のペースでプニプニしておいた。ルルさんのほっぺは、見た目通り憎らしいほどすべすべだった。


「よし。もう行こう。そろそろ夕食の時間かもしれないし」

「もう少しここでゆっくりしませんか?」

「しない!」


 やたらと名残惜しそうにするルルさんの膝の上でエビのように暴れてようやく下ろして貰うと、3メートル先にニャニがいた。

 ニタァ……と口を開けると、ススススとそのまま後ろ歩きで物陰へと消えていく。


 なんなんだあの青ワニ。もしかして一連の流れを見ていたのか。

 私はヤツが今度出てきたらお腹に落書きをしてやろうと決めた。






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― 新着の感想 ―
[良い点]  ニャニと仲良くなって良きかな!!!
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