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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる17

「じゃあジュシスカさん、気をつけてね」

「リオ様も。どうぞご無事でお戻りください」

「はーい」


 村の中央にある広場。ジュシスカさんは丁寧にお辞儀をしたあと、もはや吠えているという形容が似合うほど鳴いている鳥に跨って出発した。もう1羽に襲われそうになりつつも、本人はのんびりとこちらに手を振り返している。


「ジュシスカさん……ちゃんと中央神殿まで着くかなぁ……」

「大丈夫でしょう、さあ、リオも準備を」


 相変わらず、ルルさんはジュシスカさんに対してドライである。あれこれとこれからの旅路についてなのか2人で話し合ったりしていたので仲は悪くないだろうけれども。

 鳥から落ちませんように……と願いつつ飛んでいく影を見つめていると、たむたむとニャニに慰められた。見下ろすと、ニタァ……とこちらを見ている。ひっくり返しておいた。


「馬に乗るんだよね? パステルがいるの?」

「いえ、橋を渡るのに向いている種の馬です。可愛いですよ」


 荷物を持って、神殿の裏に回る。

 イチゴっぽい香り漂う小さな厩舎があって、そこには小型の馬が一頭だけ、モリモリと山盛りの草を食べていた。

 毛はエメラルドのような鮮やかな緑色で、たてがみはヒスイのような薄い緑。耳と目が大きく鼻筋はやや短めで、胴体は樽のように大きく丸みがある。そこから生えるずんぐりと太い四肢は、先にいくにつれてより太くなっているのに目がいった。普通の馬よりは小さく、ポニーよりは少し大きいくらいのサイズだ。

 馬はゆっくりと顔を上げ、モッシャモッシャと草を口の中に引っ張り込みながらこっちを見つめた。


「かわいい!!」

「お気に召してよかった。非常にのんびりした性格ですから、撫でても構いませんよ」

「触っていいの? かわいいねえー!」


 そっと手を差し出すと、柔らかな曲線の鼻筋がそっと近付いてきた。撫でると茶色い目を細めてじっとしている。尻尾は揺れていたけれど、私に撫でられていてもルルさんに鞍や荷物を付けられていても身じろぎすることなく立っていた。


「落ち着いてるねえ」

「ワタリウマという種は、その名の通り橋を渡るための種ですから。橋の上で足を踏み外しかけても暴れることが少ない、かなり温厚な馬ですよ」

「そうなんだ、肝が座ってるんだねえ、かわいいねえ」


 太く表面積の大きな足の裏も、橋から落ちにくく、重い荷物や人を運ぶためのものらしい。

 撫でられるがままにじっとしていて、撫でるのをやめるとほんのちょっとだけ鼻先を寄せてナデナデをねだるのがかわいい。


「名前は?」

「ありませんが、リオが付けても構いませんよ。橋を渡ったところで引き渡すので、それまでの付き合いになりますが」

「じゃあエメラルド色だしエメちゃんね。よろしくねエメちゃん」


 大きな目を覗き込みながら話しかけると、エメちゃんは返事をするようにゆっくりと息を吐いた。


 大陸と大陸の間には、深い深い溝が横たわっている。

 深く大きい溝を渡るために掛けられた橋は途方もなく長く、歩き続けて3日ほど必要なのだそうだ。当然、その間は橋の上で眠り、橋の上でご飯を食べることになる。


 ワタリウマは走ったり戦ったりするには不向きだけれど、体調を整えてあげれば5日ほどは何も食べずに歩き通せる頑丈な馬で、まさに大陸を渡るのにうってつけらしい。


「馬に乗っていくって、なんか旅ーって感じだねえ」


 ちなみに主に乗っていくのは私である。3日も歩き通す自信がないのでエメちゃん頼りだ。

 そもそもエメちゃんは2人くらい乗っても大丈夫らしいけれど、荷物もあるのであまり負担をかけたくないのと、万が一落ちそうになったときのことを考えると同乗はあまりしたくないという理由でルルさんは徒歩である。


 なんか楽しそうだなーと思いながら最後の食事をするエメちゃんを眺めていると、ルルさんが非常に言いにくそうな顔をして口を開いた。


「水を差すようで悪いのですが、あまり期待しない方がいいかと。危険は少ないですが、快適ではありませんから」

「ルルさん、私だってここまで一緒に旅してきたんだよ。そんなに豪華な旅とかは想像してないから安心して」

「リオ、お気付きではありませんか? ……あとで言うのも酷ですから、先に言っておきますが」


 そうして言葉を区切ったルルさんは、少し目線を下げて言った。


「橋を渡るということは、その間すべてを橋の上で過ごすということです。一応、それ用の囲いなどはありますが、その、排泄も橋の上ですることに」

「…………ヤダーーー!!!」


 全く考えてなかった。橋の上でトイレとか、地獄かよ。

 やっぱりジュシスカさんの鳥に乗せてもらえばよかったとか、他に手はないのかとかわめいてみたけれど、ルルさんは首を横に振るのみ。

 ヤダヤダ行きたくないとごねても事態は解決せず、せめてもの抵抗に私は出せるものは出しきってこの村を発つことにした。


 もう、絶対、大陸、越えない。絶対。






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