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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる16

「神獣ニャニが仰向けになっているところを初めて見ました……」


 私の髪の毛を乾かして梳かし、足に傷がないことを確認したルルさんは、くれぐれもどこかへ行かないようにと念を押し、ジュシスカさんにもよくよく頼んでから自分もお風呂に入った。

 テーブルや椅子に片側の手足を掛け、私の足元で上手いことひっくり返ったニャニを見ながら、ジュシスカさんは呟く。


「……なぜリオ様の足元へと近付いているのでしょう」

「タムタムしてほしいんじゃない?」

「タムタム……?」


 お風呂上がりに靴履くのってなんかイヤで、裸足のままでいた足をニャニのお腹に乗せ、足の裏でタムタムと軽く叩く。仰向けながらどうにかこうにか動こうともがいていたニャニは、それで大人しくなった。


「これは…………」

「ニャニ、こうやって叩かれるのが好きみたい。かなり変だよね」

「それは……なんとも……」


 ジュシスカさんはお茶のおかわりを注いだり食べ物を勧めてくれながらも、珍しく困惑した顔をしていた。まあ、凶悪な風貌のニャニが仰向けでカフーとか言ってたら戸惑うのはわかる。


「そんなことより、あれからルイドーくん大丈夫だった? 神殿はどんな感じ?」

「ルイドーは怪我も完治し、元気に鍛錬していますよ。共にここへ付いてきたがっていました。リオ様にお会いしたら、意訳すると『自分のせいで危険な目に遭わせて申し訳なく思う、心配だ』というようなことを伝えろと言っていました」

「意訳?」

「罵倒語がふんだんに使われていたので、お聞かせできるものではないかと」

「罵倒語……」


 最後に会ったときの様子から、私を罵るルイドーくんが目に浮かぶようだった。腕に自信があるのに人質にされてしまい、更に戦闘力3くらいの私に助けられたのが屈辱だったのだろう。寝食も惜しんで鍛錬に励んでいるらしい。


「フィデジアさんは? ピスクさんとか三姉妹とか」

「お腹の子共々元気にやっていますよ。辺境で部隊を率いていた経験を生かして、東大陸側の捜索指示や神殿内の取り締まりに力を入れていました。元々、このような非常時によく力を発揮する騎士でしたので……ピスクも相変わらずです」

「よかったー」


 ジュシスカさんはピスクさんと共にアマンダさんの帰還を見送ったあと、暴徒を心配して私たちがいる方へと駆けつけていた。


 奥神殿へ続く渡り廊下の上から私とルルさんが泉に向かってダイブした後、あの場はしばらく時が止まったように静まり、みんなが水面を注視していたそうだ。

 水が眩く光り、いくら待っても私たちが浮上してこない。下へ降りて捜させろと騒ぐ暴徒たちを怒声で制したのはルイドーくんだったとジュシスカさんは言った。


 押し通ろうとした暴徒へルイドーくんが短剣ひとつで切り掛かったので、暴徒を挟み撃ちする形でジュシスカさんたちが剣を抜いた人々を制圧した。もっとも攻撃の意思があったのは数人で、首謀者っぽいシーリース人のおじさんはたちまち姿を消してしまったのだそうだ。

 私の言葉もあったので、シーリースへと向かう人たちについて追いかけて拘束することもなかった。けれど逃亡も投降の意思もない暴徒たちについては、神殿を掻き乱し聖域を侵そうとしたとして拘束され、神殿に仕えている内部の情報提供者などについても取り調べがされているらしい。


「三姉妹はしばらく落ち込んでいましたが、このようなときこそリオ様に代わり祈るべきだと神官や巫女に呼びかけ、神殿内の混乱もほぼ収まっています」

「そっか。あのときはもう色々ありすぎて何が何だかって感じだったもんね」

「リオ様が心配なさることにはなっていません。アマンダ様も、無事にお還りになりました」

「そっか……」


 胸元につけているブローチを触る。その場で見送ってくれたジュシスカさんがそういうのだから、きっとアマンダさんは今頃地球へと帰っているのだろう。


「リオ? 大丈夫ですか?」

「あ、ルルさんおかえりー」

「ジュシスカ、余計なことは言うなと言っておいた筈だが」


 しんみりしていたからか、ルルさんが心配そうに私の背中を撫でてジュシスカさんを睨んだ。別に落ち込んでいたわけではないと説明すると、ルルさんは渋々頷いて食事の準備を始める。


 この辺では小エビがよく採れるようで、素揚げにスープにと久しぶりの豪華な料理を堪能した。いや、野宿も豪華だったけれど、鳥の丸焼きとか、そういうワイルド系の豪華さだったし。

 テーブルで食べる華やかな料理が懐かしく感じる。久しぶりにジュシスカさんとも一緒に食事ができたし、和気藹々としてすごく贅沢な時間を過ごすことができた。



 夜、ジュシスカさんは神殿の方で休むと言って家から出てしまい、私とルルさん、あとヌーちゃんとかニャニとかだけで寝る準備を進める。


「明日からは馬に乗りますから足は楽になるでしょうが、馬は馬でまた別の疲れがありますから。橋を渡ることになりますし。ゆっくり休んでください」

「ジュシスカさんも一緒に帰るの?」

「いえ、ジュシスカは鳥で先に中央神殿へ。リオの無事を伝え帰路の安全を確保しなければいけませんので」

「鳥だと早いだろうねえ……落ちそうで怖いけども」


 長い橋を渡るのも大変そうだけど、鳥で空を飛ぶのはもっと大変そうだ。あの鳥怖いし。

 ジュシスカさんの旅路を心配しつつ、なぜか当然のように隣に入ってきたルルさんと共に私はこの大陸最後の夜を過ごした。






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