お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる14
私を守ることにかける情熱については、ルルさんの右に出るものはいないと言われている(私調べ)。
普段は温厚なルルさんも、シーリースに対してはかなり厳しい。それもそのはずだ、奥神殿前まで襲撃してきたり、祭りの時にも襲撃してきたり、暴徒を引き連れて襲撃してきたりしたんだから。襲撃しすぎ。
加えて私たちがこの大陸にいることも、まあシーリースのせいといえるだろう。私のせいもあるけども。泉に飛び込んだルルさんは、私だけでなく、自分自身の身も危険に晒したことになるし、そりゃ激おこにもなる。
「あのー、シーリースの人たち、もう帰ってほしいんですけど……」
ルルさん怒ると怖いし……地味に私を握ってる手も力入ってるし……足つぼされると超痛いし……。
「確かおじさんにも言ったと思うんですけど、私がシーリースに行っても、シーリースの災いがなくなるとかそういうのはないですよ。神様もどうにもできないって言ってたから」
「……神はもはやシーリースを許すことはないと?」
「いやだからそれはどうかわかんないですけど、とにかく私ができることはないの。シーリースに行きたくないし、革命したい人たちの前に行っても何もしないし、言うとしても『無理やり連れてこられましたので何もやりたくありません』って言っちゃうからね」
この世界の大地は枯れ、滅びそうになっていた。
実情はぶっちゃけ創造神と交代して面倒見ていた神様の力がうまく伝わってなかったせいだったけれど、地球出身の私やアマンダさんがコネクターとなっていい感じに回復している。
それなのにシーリースだけは他と比べても回復が遅いらしく、その理由はなんか災い的な、シーリースの人たちが良くないことをしたせいで土地がアレ的な、そんなアレでアレらしい。
この世界にあの神様の力が行き渡っていけばじわじわ回復していくらしいけれど、私がシーリースに行ってもそれが早まることはない。むしろ一番神様に私の波動? 歌? が伝わりやすい奥神殿にいた方がマシだと思う。
「他の異世界人を呼んでも同じだよ。できることないからね。これからもシーリースで生きていくなら、シーリースの土地の災いはすぐ消えるものじゃないって、もう覚悟してやっていくしかないと思うよ」
きっと、シーリースの土地がそんな風になったことについて、直接関わっていた人というのはそれほど多くないのかもしれない。もしかしたら、その人たちはもう死んでたりするのかも。だから、残されたシーリースの人たちが負の遺産で苦しむのは理不尽だし可哀想だとは思う。
「私はこれからも奥神殿で祈るし、サカサヒカゲソウも増やそうと思う。でも、それ以上のことはシーリースにしたくない」
「……」
「私の後に召喚された女の子、知ってる?」
少し難しい表情で顔を伏せたライルスさんが、「情報だけは」と短く返事をした。
「アマンダさんって言うんだよ。イギリス人で、イギリスや家族が大好きで、彼氏も大好きで、優しいし歌も上手いし動物好きな良い子だよ。知らない人たちがいても、必死に頑張ってたよ」
彼女の綺麗な歌声は、今でも耳に残っている。リーオとちょっと伸ばして私を呼ぶところや、メルヘンを上手に乗りこなしていたところ、ニャニとも触れ合ってたところ。
「アマンダさん、マキルカに連れてこられたとき、すごく泣いてたよ。シーリースで何があったか、一言も言わなかったけど、しばらくずっと怯えてたよ。……だから、私はシーリースのことあんま好きじゃない」
きっと、辛い気持ちはすぐになくなったりはしなかっただろう。けれどアマンダさんは、少しずつその気持ちを見せないように、懸命に毎日を過ごしていた。その強さはアマンダさんの素敵なところだと思うし、その思いがあったからこそ地球へと帰る準備が進んだのかもしれない。けれど、何の罪もないアマンダさんがそんな風に扱われたのは、どう考えてもおかしいことだ。
「アマンダさんに酷いことしたような人たちをどうにかするために革命を起こすのは、すごくいいことだと思う。頑張ってほしい。でも、私はシーリースにはもう関わりたくない。もし他の異世界人を召喚しようとしたら、サカサヒカゲソウも祈りもやめる」
救世主とか呼ばれてるからには、シーリースにいる罪もない人たちのために頑張ったほうがいいのかもしれない。でも無理。絶対無理。奥神殿で歌って神様とこの世界との繋がりになること、あとはサカサヒカゲソウを増やすこと。これが私のシーリースのためにできる最大限のことだ。
私の言葉を聞いたライルスさんは、暫く考えるように沈黙していた。それから、私たちに向かって深々と頭を下げる。
「救世主殿、あなたの慈悲に感謝する。我々の国のことに巻き込んで申し訳なかった。貴女の力でも、神の御力でも災いが消えぬというのであれば、それはシーリースの民が負うべき試練なのだろう。我々は、少しでも償うために力を尽くしたい」
「あ、はい。頑張ってください」
「もうお一方に対しても、王城側に代わって心から謝罪を申し上げたい。私の名において、二度とあのようなことはさせないと誓おう」
「アマンダさん帰っちゃったけど、また機会があれば伝えておきます」
頭を上げたライルスさんは、どこかスッキリしたような、開き直ったような風に見えた。彼もシーリースをどうにかしたい一心で希望に縋りたかったのかもしれない。ただ私を希望とみなしたのが間違いだったよね。
「我々が償いを終えシーリースが輝かしい国になれば、また改めてあなた方を招待したい。いつになるかはわからないが」
「うん、頑張ってね」
改めて礼をしてから、ライルスさんともう1人はまた鳥に乗って飛び立っていった。話が通じるシーリース人で本当に良かった。
やれやれ。
ため息を吐き、足の甲をたむたむしてくるニャニを避けていると、ルルさんがじっと私を見ていた。
「リオ……あれほどのことをされて『あまり好きではない』程度なのですか?」
「え、いや結構嫌いだよ、でも直接そんなこと言うの角が立つじゃん!」
「言ってやればよかったのに」
「いや……もう終わったことだし……ほら剣もしまって。早く行こ」
ルルさん的にはやや不満が残ったらしい。渋々剣をしまってから、私の手を握りなおした。
「しかし、リオがあれほどはっきり拒絶してくださってよかった」
「でしょ」
「ええ、非常に頼もしかったです。嫌いと言ってやればよかったとは思いますが」
「わかったから。はい。歩いて。ニャニも」
ルルさん、わりかし物騒だよなあ……。
私の言葉だけで帰ってくれて本当に良かった、としみじみしながら、私は再び歩き始めた。




