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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる13

 大きな鳥の背から降りてきた二人のうちの一人は、見覚えのある男性だった。

 ただし、私をシーリースに連れていこうとしていたおじさんではない。紺色の髪、紺色の目に誠実そうな表情。


「えーっと、あの、サカサヒカゲソウの……?」

「初めてご挨拶申し上げます、救世主殿。私はライルスと申します」


 きっちりと礼をしたのは、いつぞや祭りの日に街を練り歩いていたとき、コンタクトを図ってきたシーリース人の男性だった。


 シーリース国内で、疫病が流行り始めている。だからその治療薬となる薬草サカサヒカゲソウを増やしてほしいと頼んできた人だ。

 救世主である私が薬草量産に携わっているというのを表沙汰にしないため、私と彼はあの日遠目で目が合った他には会う機会もなかった。けれど、サカサヒカゲソウの受け渡しでルルさんやジュシスカさんたちが彼と定期的にあっているらしいということは聞いていた。


 故郷で苦しむ人たちのために大陸を跨いで薬草を探し、そして状態の良くないシーリースを変えるために革命を試みている人だったか何だったか、そんな感じの立派そうな人だったと思う。


「え、ていうか何でここに?」

「マキルカ中央神殿で起きた暴動の一件を知り逃亡した暴徒を捕縛して聞いてみれば、どうやら救世主様が神の御心に従ってシーリースへお飛びになったとのこと。あちこちに網を張って情報を探っていたところ、中央神殿から神鳥の飛ぶ影有りとのことで追いかけ、夜闇に乗じて先んじました」

「えーっとつまり、ジュシスカさんが謎の移動をし始めたからピンときてついてきたと」

「はい。救世主様がここにいらっしゃることを考えると、どうやら神はシーリースを見放したようですね」

「それはちょっとどうかわかんないですけども」


 泉にドボンして謎の瞬間移動を遂げたのは事実だけども、そこに神の意思があったのかどうかは謎だ。たまたまかもしれないので、私の居場所で勝手に神の心を決めつけないでいただきたい。

 というのを正直に言うわけにもいかないので私が言葉を濁していると、ルルさんが「リオ」と窘めるように私を呼んだ。剣を握っているルルさんは隙なくシーリース人2人を見据えているので、あまり気を許しすぎないようにという意味かもしれない。


 私が気を許そうが許すまいが、私自身はこの人たちに勝てるような力はないと思う。でも頼もしい戦力であるルルさんがいるし、2人と私たちの間にニャニがシャーしてるし、逆にこの状況で私に近付ける人がいたらすごいと思う。

 ニャニのシャーなんか、シャーというかシャアアアァッだもん。狼を水中に引きずり込んだときと同じ声だもん。超怖い。鍋背負ってるのに。


「それ以上近寄るな。どういう意図であれ、我々はもはやシーリースと関わる気はない。無理を通すのなら相応の覚悟をしろ」


 ニャニと同じくらいルルさんも警戒モードである。左手で私の腕をがっつり握ったまま剣を構えているし、顔見えない位置にいても怖い。警戒する気持ちはわかるけども。


「剣を交える気はない。我々は彼女の無事を確かめ、同郷の者の無礼を詫びに来ただけだ。ずっと伝えられなかった薬草の礼も、この場を借りて言わせてもらいたい」

「詫びや礼と言うならば、軽々しい言葉でなく行動で示してはどうか。こちらに関わらず、不届き者を二度と出さぬようにしてもらおうか」


 る、ルルさんのトゲトゲ態度がマックスになっている。わざわざ心配して探しに来た挙句こんなこと言われたら私なら心折れるな。

 でもまあ、シーリースに対しての気持ちなら大体私もルルさんと同じだ。お詫びとかお礼とかいらないから、あのおじさん捕まえて二度と変なことさせないでほしい。

 ルルさんの影から頷きまくって同意を示すと、ライルスさんという男性は一瞬苦笑した後に真面目な顔になって頷いた。


「勿論だ。我々は現在、祖国を膿ませる上層部を制圧する作戦の最中だ。救世主殿を召喚した者たちも含め、多くが我々の拘束下にある。長く蔓延ってきた者を駆逐するためにしばらくは争いが絶えないだろうが、我々国民は必ずや正義を勝ち取るだろう」

「ではここで暇を潰している場合ではないだろう。俺が知る限り、部下にだけ血を流させている指導者は概ね失脚しているが」


 数百年生きるエルフであるルルさんが言うと信憑性がハンパないな。そして痛烈。

 俺呼びでちょっとワイルドさが増しているルルさんはさらに言葉を続ける。


「まあ、わざわざ詫びるためだけにここへ来たのではないだろう。王族側が血眼で探す救世主を連れていき抵抗を弱め、民衆の支持を強めようというところか」

「エッそうなの?! 絶対行かないけど?!」


 土下座されても、お金もらっても、行かなきゃ殺すって言われても絶対行かないけど?

 思わずそう力説してしまうと、ライルスさんは表情を変えなかったものの、一緒にいた男性は顔を顰めていた。ルルさんがすかさず「そこから動けば剣を交える意思があるとみなす」と制したので、男性は何も言わず何もしなかったけれど。


「救世主殿、どうか力を貸してもらうことはできないだろうか。国民のほとんどは、圧政に抗う力もないほどに疲弊している。救世主が心を砕いているという事実だけでも奮い立つ者は多いはずだ。このままでいれば、シーリースは焦土と化す。1人でも多く民を救いたい」

「いや、わかるんだけども、それはすごい頑張ってほしいんだけども……ごめん、無理です」

「頼む、民を救うことに手を貸していただけないか」


 ライルスさんともう1人の男性が、膝をついて頭を下げる。自分が冷血になった気がして胸が痛んだけれど、ルルさんは逆に更に怒ったようだった。


「どのつらを下げて頼むのか! そもそも王城の連中が禁術を用いてリオを呼び出すこと自体、止めようと思えば止められたはずだ。それを我が身惜しさに見て見ぬ振りをし、挙げ句の果てに憐憫を誘って言うことが腐った連中の敵意を一身に受けろ? 厚顔にも程がある」

「ま、まあまあルルさん」

「か弱い娘ひとりに頼まねば失敗するような革命ならばやめておけばいい。焦土と化せばシーリースの災いも消えるだろう」

「ルルさん、まーまー、落ち着いてまーまーまー」


 ちょっとニャニ、どうにかしてよ。

 ルルさんをなだめつつそう願いながら青い背中を見つめると、ニャニがシャーの口を閉じてぐるっと方向転換した。ルルさんの足の甲に右手を乗せ、たむたむと落ち着かせるように叩いている。

 しかしルルさんは自然にそのたむたむを避けた。ニャニ、失敗。






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