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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる12

 歩く旅では、舟に乗っての旅の何倍もの疲労がかかることがわかった。

 いや、うん。頭ではわかっていたけれども。

 水ぶくれを潰してしまった2日目、回復のために休んだ3日目を経て、ようやく私は旅をしているといえる距離を歩けるようになったのだった。


「ハチさんの村からずっと歩いてたら心折れてたね。舟作ってくれてありがとうルルさん」

「陸路は馬を使えばそれほど辛くはありませんが、この大陸で馬はあまり見かけませんからね。悪路だとかえって疲れることもありますし」


 マキルカでは大きな街道沿いは大体石畳で舗装されてるため、馬や馬車に乗ってそこそこ快適に旅ができるらしい。大陸を渡ればもっと移動距離が伸びるとルルさんは言った。


「ニャニもずっとついてきてるけど、大丈夫かな? 足短いし、歩きにくいのに」

「神獣ですし、倒れるようなことはないと思いますよ。リオを励ましているのかもしれませんね」


 振り向くと、ニャニがニタァ……と牙を見せて片手を上げた。

 一歩一歩はさほど大きくはないのに、毎日頑張って私たちについてきている。たまに距離が離れるとダバダバと走ってきたりするし、沼があると魚を咥えてきたりするので疲労困憊というわけではなさそうだ。

 それでも、夜テントを張るとすぐに目を瞑って寝ているっぽい状態に入るので、いつもよりは疲れているのだろう。

 ニャニはどこにでも現れる能力があるので無理に歩いてついてくる必要はないのに、毎朝私たちが出発の準備を始めるころになると、鍋を背中に載せようとしているのだ。たまに失敗して頭から鍋をかぶっている光景はちょっと可愛い、かもしれない。


 ちなみにヌーちゃんはいつも通り食べ物の気配を感じたら出てくる以外は、大体どこかに行っていた。休憩の時にニャニが背負っている鍋に入っていることもあるけれど、どちらにしろ歩くつもりはないらしい。可愛い。


「夜風が冷えるときなど、ニャニがリオを守ってくれるのでとても助かります」

「アレあったかいもんね。風邪引く心配ないのは確かにありがたいかも」

「ええ。リオがニャニにこれほど好かれる魅力的な女性でよかった」

「なんかあんま褒められてる感ないなそれは」


 ニャニの謎神力によって半径2メートルほどを快適な気温に保つ「あったかバリア」については、ルルさんはその能力を知らなかったらしい。特に文献にも残っていない隠し技のようだった。

 たまにニャニは川で溺れた子供などを助けることがあるらしいけれど、こうして保温して生存率を上げているのかもしれないとルルさんは感心していた。ニャニが割と良いことしてることに私はびっくりした。


「リオ、少し道ができてきましたね」

「本当だ。なんか草が少なくなってる」


 森を歩いているうちに、木を切っただけの草まみれな道から、短い草が生える道になり、そして地面の色が見えるようになってきた。


「目指している村が近くなってきたようです。リオ、疲れていませんか?」

「平気。最初に比べると随分歩きやすいし」


 ラーラーの民は大体、狩りをして生活している。村の住民がこの辺りまで歩いてから森に入るのでこんな道になっているのだろうとルルさんに教えてもらった。


 今日は村で夜を過ごせそうだと思うと、余計に頑張れる。

 何しろ最近は毎晩、ルルさんがやたらを私を抱きしめて眠りたがるのでかなり居心地の悪い眠りになっていたのだ。

 いや、あったかくてよく眠れたんだけども。地獄マッサージも毎晩施されてぐっすり安眠だったんだけれども。気持ち的には全然落ち着かなかった。


 ベッドがあればそんな眠りからは解放される。

 私はいつになく意気込んでモリモリ歩いた。


「あっ、なんか大きい鳥飛んでる?」


 両側に迫る森の木々が随分と幅広くなり、荷台も通れそうなほどの道ができて、ルルさんのニコニコした圧しに負けて手を繋ぎながら並んで歩きはじめてしばらくしたころ。

 私は進行方向先の空に2つの影を見つけた。

 羽ばたく姿が少しずつ大きくなっているので、こちらへ向かっているのがわかる。


「ルルさんルルさん、あれもしかしてジュシスカさんだったりする? 手紙来たって言ってたもんね」

「いえ」


 私の右手と繋いでいるルルさんの左手に、ぎゅっと力が込められる。繋いだままのその手を少し動かして剣の鞘に触れ、ルルさんは右手にその柄を握った。


「るるるるるさん、何どうしたのいきなり物騒な」

「ジュシスカではありません。おそらく、シーリースの者でしょう」

「えっ」


 ルルさんが剣の感触を確かめるように振ったのと同時にニャニがシャーッと空に向かって威嚇した。

 私たちの後ろにいるので、私が威嚇されたのかと思ってかなりビビってしまった。前でやって、前で。


 鍋を載せている点について除くと、どんな動物も怯ませそうな獰猛ニャニを先に歩かせ、私たちもそれに続く。

 人を背に乗せた大きな鳥は、それから間も無く私たちの前に降り立った。






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