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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる9

 雨は3日目には止み、私たちは4日目に旅を再開することができた。


「すっごい晴れたねえ!」


 雲ひとつなく、濃い青空が眩しい。一昨日雨水で洗った洋服も昨日のうちに乾いて、準備万端だ。まだ地面が柔らかいところもあるけれど格段に歩きやすいし、川までは緩やかな下り坂なのでそれほど疲れも感じなかった。


「リオ、先に乗ってください。今日は足元が見えず危ないので」

「はーい」


 川はまだ少し濁っていたけれど、水面は穏やかだった。舟はやや揺れるもののスイスイ進み、私は日除けにタオルを被りながら変わっていく景色を眺める。


「……で、ルルさん」

「はい」

「結局ルルさんは何歳なの?」


 一番後方に立って棒で舟を操るルルさんを振り返ると、ルルさんは微笑み顔のまますっと視線を私から外した。

 二日間ずっとこの反応である。いい感じに話をそらしたり、雨でもできる旅の準備を教えてきたり、この世界のトリビアを教えたりとルルさんは頑なにその秘密を明かそうとはしなかった。


「教えてよー! 私の年齢は知ってるのに!」

「すみません、人からするとかなりの年嵩になるので、リオに嫌がられないかと不安で」

「もう十分びっくりしたし気にしないよ。100歳? 200歳? 300歳?」


 エルフの人たちは、青年期と壮年期がかなり長いらしい。うらやましい限り。

 反応を見ながら百年単位で聞いてみたけれど、ルルさんはどの年代に反応するでもなく眉尻を下げた。


「近いうちに教えますから、心の準備をさせてください」

「できるだけ早く準備してね」

「努力します」


 フクザツなオトコゴコロというやつらしい。

 ルルさんは年齢差や寿命がエルフと人間の破局原因第1位というのをかなり気にしているようなので、私はそれ以上問い詰めないことにした。意外に弱気なところがあると知れたし。結婚するとなると書類を神殿に提出したりするので、多分そのときにはわかるだろうし。 


 たむ、と私の足の甲を踏んだのはニャニの右手である。ちっちゃいパーみたいな手でまたたむたむと足の甲を叩き、ニャニは鼻先をゆっくり左右に振った。

 まるで「察してやれ」と言いたげな態度である。たむたむと踏みしめてくるのでとりあえずひっくり返しておいた。水色のお腹が空と似ている。


「ニャニは幾つなのかな?」

「さあ、神獣に寿命はないそうですから……ニャニは、私が物心ついた頃には既に同じ姿でいましたね」

「このニャニと同じやつ? ヌーちゃんは他のバクとあんまり見分け付かなかったけど、ニャニって見分けつく?」

「ニャニは唯一無二の神獣ですよ」

「えっそうなの?!」


 神獣もいくつか種類があるけれど、ニャニはその中でも唯一、1匹しかいないといわれている神獣なのだそうだ。神獣は神出鬼没というか、いつでも姿を消したり好きなところに現れたりするので断言はできないけれど、昔手形や特徴を記録して調べた人がいるらしい。

 バクや他の神獣については同時に複数目撃されることもあったけれど、ニャニは単独行動のみ。そしてこのニャニ以外のニャニは未だに見つけられていないらしい。


「へー。ぼっち神獣なんだね、ニャニ」


 靴を脱いで裸足になり、タムタムタムタムとニャニの腹太鼓を叩きながらそう話しかけると、ニャニはカフーと息を吐く。ルルさんはそれを見て苦笑した。


「一応、数が少ない神獣ほど力が高位だといわれているのですが……」

「そうなの?」

「はい」


 お腹をタムタムされるのが何より好きなこのニャニが、神獣の中でもレベル高い生き物だったとは。そういえば、あったかバリアとか張ってたもんな。あれもレベル高いからこそできる技なのかもしれない。私は感心しつつタムタムした。ニャニはカフフゥと満足げな息を吐いた。


 ルルさんが知っている限りでは、最古のものといわれる文献にもニャニらしき姿が描かれているのだそうだ。国の成り立ちを記したのではないかといわれ研究されている文献、そこに描かれた挿絵、の端っこで見切れるように描かれているニャニ。文献は数千年も遡るといわれているとか。

 私は尊敬の意を込めてタムタムした。ニャニはカフカフ息を吐きながら尻尾を揺らした。



 カフカフ満足げなニャニ、タムタムする私、おやつを盗み食いしようと試みるヌーちゃん、苦笑するルルさんを乗せて舟は進んでいく。

 私たちが水上の旅を終えたのは、それから何日もあとのことだった。






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