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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる6

 排気ガスなんて家の暖炉から出る煙くらいしかないこの世界、おまけに今日は土砂降り。

 泣きすぎてショボショボになった顔を拭くための濡れタオルは無限に作れた。

 というか雨が強すぎる。雨の下にタオルを出さなくても、テントの端によれば激しい雨が霧状になったものでしっとりと濡れるレベルだった。

 雨だれで滝行したまま全然動かないヌーちゃんを持ち上げ、手で押さえるようにして水を絞ったあと、うつ伏せに戻るよう転がしたニャニの上で乾かす。ヌーちゃん、スヤスヤ寝てた。あの状況で肝の太いことである。


 それから私とルルさんは冷めかけたお粥をもそもそ食べた。ルルさんはお茶を淹れ直し、私に持たせてから四方の柱に使っていないテントの布を張る。ただでさえ雲に遮られていた日の光が張られた布の上下に空けられた隙間からしか入らなくなったので、周囲は一気に暗くなる。けれど代わりに随分寒さがマシになって驚いた。どうやら霧状になった雨によってそこそこ体温を奪われていたらしい。


「リオ、服も湿っていますから着替えたほうが温かいですよ」

「う、うん……」


 作業で濡れたルルさんが、自分の着替えも出しながら私の分を渡してくれた。お互いなんとなく離れ、背を向けて着替える。ふと下を見るとニャニがニタァ……と笑ったので、濡れヌーちゃんで金色の目玉を隠しておいた。石も何個か背中に乗せといた。


 着ていた服は、ルルさんが吊ったロープに干しておく。インナーはそのままだけれど、着替える前に濡れタオルで体を拭いたのでさっぱりしている。ルルさんがブランケットを広げて私の肩に掛け、自分ももう一枚を羽織って私を抱き込むように座る。


「少し体が冷えましたね。夏の旅なのでと、薄い毛布しか持ってこなかったのは失敗かもしれません」

「充分あったかいよ」


 野宿はどちらかというと暑い夜のほうが寝にくい。暑いからってブランケットを蹴飛ばすと、今度は虫に刺されるし。暑いから無意識に手を伸ばすと、ニャニがいつのまにか近くにいてお腹を触らせようとするし。


「えっと……雨すごいね」

「そうですね。この分だと、増水が収まるまで時間がかかりそうです」


 川下りの旅は、雨が止んだらホイ出発というわけにはいけないらしい。

 沢山降った雨は、周囲の地面に吸収されてゆっくりと川へ排出される。なので雨が止んでも川の増水は続いたりするらしい。増水すると水が濁って流れが速くなるので危険が増す。澄んだ水でもルルさんは泳げないし、舟が壊れても嫌なので当然足止めになるのだった。


「もし雨が数日続くようでしたら、近くの村を探して軒を借りましょう」

「うん」


 この小屋跡があるということは近くに誰かが住んでいるはず、だから村を探すのもそう難しくはない。

 そうルルさんが言ったけれど、ルルさんだからこそそう思うのであって、私一人だと多分辿り着かないだろうなと思った。「そう遠くない」の範囲が数キロだったりするしな。

 でもまあ、ルルさんがいるので大丈夫だろう。


「そういえば、魂を混ぜるって具体的にどういうことなの? オカルト?」

「ご説明しますが……」

「が?」


 言葉を濁したルルさんは、私の手の中のカップを取ってかまどの近くに置いた。それからよいしょと小さく声を出しつつ、私ごとマントを敷いた床板の上に寝転がる。


「リオがすごく眠そうな顔をしていますから、起きてからのほうがいいかと」

「そんな眠くないよ。これは泣きすぎて腫れただけ」

「私のために泣いてくださってありがとうございます」

「別にルルさんのためじゃないから!」


 そうでしたか、と嬉しそうに返事をしたルルさん、絶対そう思ってない。

 硬い寝床ですみませんと謝りつつ、ルルさんは自分の頭を着替えで作った枕に置き、私の頭を自らの腕の上に置いた。


「腕枕って、腕の神経が痺れたりするらしいよ」

「そうですか」

「いや聞いてる? 私の枕は?」

「大丈夫ですよ」

「聞いてないよね?」


 ルルさんが適当な相槌を打ちつつ、私をしっかりと抱き寄せる。この人、たまに適当に返事してるな。

 床板はやや冷えていたけれど、ブランケット、ルルさんの腕、さらにブランケットという状態で包まれているので寒くはなかった。


「リオ、今日は疲れたでしょうから、ゆっくり休んでください」

「いやだからまだ眠くないって」


 暗いといっても、まだ外はかすかに明るいくらいの時間である。

 抗議してルルさんに「タマシイ」とやらの説明をしてもらったけれど、結局話の半分も理解しないうちに、ルルさんの優しい声に負けてすっかり眠ってしまったのだった。

 無念。






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