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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる5

「じゅうばい……じゅうばいってことは……850歳まで生きる……?」

「人にもよりますが、何事もなく生きていれば600年以上は確実に。神殿の長老などは1200歳ほどかと」

「せんにひゃく」


 10倍どころの話じゃない。

 千年って、日本でいうと平安から生きてるのでは。生きる歴史の教科書やん。

 スケールが違う。

 じっと私を見ているルルさんも、私が生まれるずっと前からこうして暮らしていて、そして私が死んでからもずっと生きていくのだろうか。


「わ、私、ルルさんと結婚できない」

「リオ!」


 私が首を振ると、ルルさんが顔を歪めた。私の手を握っているルルさんの手が震えている。


「だって、私がこれから100年生きたとしても、それはルルさんにとってたった10年分くらいの長さでしかないんでしょ?」

「違います」

「違わないよ! あと10年経ったら、私絶対ルルさんより歳上に見えるようになるよ。私はどんどん老けてくのに、今とそんなに変わらないルルさんと一緒にいるなんてできないよ」


 二十代半ばくらいに見えるルルさんと、よぼよぼになった私。ルルさんはどんな姿になっても私を大事にしてくれるかもしれない。だけど、だからこそ、私は絶対に辛くなるだろう。自分の老いとルルさんの若さを比べて。もうルルさんと一緒にいられなくなることを考えて。ルルさんが他の若い女の人に目を奪われないかと怯えて。


 想像するだけで涙が出るほど辛いのに、結婚なんてできるわけない。

 なんでこの世界を創った神様は、こんなに寿命の違う生き物の姿を似せて創ったのか。


「リオ」


 ルルさんが私の腕を引っ張って抱きしめた。ルルさんの胸に鼻がぶつかって、涙が服に染み込んでいく。


「ルルさんにおばあさん扱いされるなんて嫌。私が死んだ後に誰かと恋するのも嫌。私と過ごした時間があっという間だったって思われるのも嫌」

「リオ……」

「も、もっと先に説明してよ……そしたら絶対、」


 ルルさんのことを好きにならないようにしたのに。


 ギュッと抱きしめられたせいで、その言葉はもごもごと服に吸収されてしまった。

 温かい腕、筋肉があって硬さを感じる胸、私を優しく撫でる指。リオと呼ぶ優しい声。

 知る前だったら、ちゃんと好きにならなかったのに。


「リオ、聞いてください」

「やだ」

「顔を上げて」


 もはや涙も鼻水も全部擦り付ける勢いで、ルルさんにしがみついたまま首を振る。

 けどまあ、無理である。ルルさんの筋力に勝つなんてことは。

 脇に手を入れられて抱き上げられ、ルルさんの膝の上に乗せられた。大きな手が私の涙を掬うので、掴まえてペッと外す。ルルさんの手はルルさん本体と繋がっているだけあって執念深く私の頬に戻ってきた。


「リオ、どうか教えてください。私と結婚したくないのは、自分だけが歳を取るからですか?」

「それ以外にないでしょ! ルルさんバカなの!」

「私と共に歳を取れるなら、ずっと一緒にいてくださいますか?」

「なんでそんなひどいこと言うの? 絶対無理なのに」


 私は人間だ。悲しいくらいに人間そのものだ。髪も黒だし耳もとんがってない。こうやって人間として生きてるんだから、エルフになれるわけない。

 なのにそんなこと言うなんて、暗に私を責めてるのだろうか。ひどい。

 ルルさんなんか嫌い、バーカ、長生きしろと罵りながら逃げようとするけれど、ルルさんの腕力は相変わらず強かった。仰向けのままなニャニも助けてくれそうにない。


「リオ、聞いて」

「聞かない」

「お願いですから聞いてください。あなたと私が酒を交わせば、あなたが先に死ぬことはありません。あなたが先に歳を取ることもありません」

「……どゆこと?」


 酒盛りしただけで何が変わるんだろう。

 暴れなくなった私をルルさんが抱きしめ直して、ハンカチをくれた。ぐしゃぐしゃになってしまった顔をそれで拭きつつ、ルルさんの説明を聞く。


「酒を交わすというのは、厳密には結婚と同義ではありません。酒を交わしても結婚しないこともできるし、反対に結婚しても酒を交わさないこともできます」

「……」

「酒を交わすというのは古くから伝えられる儀式で、お互いに魂を捧げるというものです。魂を捧げ合えば、あなたと私の命が混ざり合い、寿命も年の取り方も同じになります」

「……よくわかんない」

「簡単に言えば、あなたがあと100年、私があと700年生きるとしたら、酒を交わすことによって二人ともおよそ400年生きるようになる」


 何その超常現象。


「ルルさん寿命縮んでるじゃん!!」

「私はあなたのいない世界で600年悲しむより、あなたと400年生きて死にたい。リオはどうですか? 普通の人では生きられないほど長く生きることは、恐ろしくありませんか?」


 400年生きたら、地球は激変してそうだ。下手したら温暖化やらなんやらで人類が滅亡しかねないほどの長さである。長すぎてあんまり想像できない。

 でも、ルルさんが一緒にいる。


「そのほうがいい……」


 ギネス更新しそうな長生きでも、ルルさんの寿命が減ったとしても、ルルさんと一緒に生きて一緒に歳を取りたい。

 そう言うと、ルルさんは私を強く抱きしめた。胸に顔を押し付けられる寸前に見えたその顔は、ちょっと泣きそうな顔をしていた。






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