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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる3

 雨は勢いを増して、周囲には草が生えているのに水溜りになっているところもある。けれど私たちが座っている床板は、石が敷き詰めてあるおかげか浸水の心配は今の所なさそうだった。激しい勢いで降り注ぐ雨粒が斜めに張られたテントを伝い、ジャバジャバと端から落ちてヌーちゃんに当たっている。

 おやつのクッキーを食べに出てきたヌーちゃんは、水を飲もうとしたのかテントの端に行き、そこで絶え間なく落ちてくる水を背中に浴びた。なぜかそれを気に入ったらしく、のんびりと寝そべりながら打たせ湯のように雨水を体で受け続けている。謎。


「リオ、どうぞ」

「ありがとう」


 私は火のそばに座り、ニャニのお腹を足でタムタムしながらルルさんの準備する食事を待っていた。体育座りでタムタムしようとすると足を上げることになり、腹筋がつらい。カフーと息を吐いているニャニを押し退けて腹筋の負荷をやわらげ、手渡された干し肉を噛んだ。

 カチカチに干された干し肉は、炙りながら細く裂くと柔らかくなって食べやすい。干し肉は、そのまま食べるときに噛み切りやすいよう繊維に対して直角に切って干すことが多いのだけれど、こうして炙ったり、水で戻してスープにするときに食べ応えが出るように繊維に沿って切る人もいる。

 ハチさんの作ってくれた干し肉は両方のものが混ざっていたとルルさんは言った。手間をかけて作ってくれたものだということがわかって嬉しい。


「干し肉って味付けが濃いものが多いよね。スープに入れたりするから調味料がわり?」

「それもありますね。喉が渇いていて水が少ないときなどに歩きながら食べれば、濃い味付けとよく噛むことによって口が潤います」

「へー!」


 木の器に盛られたお粥は、フコと穀物の粉を煮たものだ。ここに干し肉を入れると塩っぱさとスパイシーさが合わさって、フコのもったりした甘さを食べやすくしてくれる。干し肉万能説。


 ルルさんは空いているボウルを水汲みのために雨が当たる場所に置き、ついでに空を覗き込んでいた。


「ダメですね。明日も止むかどうか」

「舟が無事だといいねえ」


 荷物は全部持ってきているので心配はなく、野宿するという点ではいつも通りなのだけれど、この雨、トイレが地味につらい。マントのフードをしっかり被っていても、穴を掘ったり埋めたりするにどうしても手や顔が濡れてしまうのだ。天然の消音機能だとポジティブに捉えてももうちょっとお手柔らかに降ってほしい。


 でもまあ、天気はどうしようもない。何か問題が起きてもルルさんがいるし。ニャニもいるし。

 お粥のおかわりをしながら呑気にそう考える私とは反対に、ルルさんは憂い顔だった。


「ルルさん、心配事? 雨で土砂崩れとか起きそう?」

「いえ、この辺りの木は根が深いのでその不安はありませんが」


 ルルさんはそこで言葉を切ってから、笑顔を作って私に微笑んだ。


「マキルカに帰る日が遠のいてしまうな、と」

「あー」


 ルルさんはオオカミの村長や村の人たち、そして神殿とも連絡を取り、あれこれと地図を手に入れたり旅程を練ったりしていた。食料もマキルカに着くまでの日程もある程度計算して荷造りしたはずなので、それが心配なのかもしれない。


「でもまだ何日もかかるんでしょ? 1日2日くらい増えてもあんまり変わらないんじゃないかな。食べ物がなくなったら、実がなる植物見つけたらなんとかなるし」


 これまでにも早めに舟を下りて、ルルさんが狩ったお肉を食べながら野宿したこともあったし、ニャニはニャニでたまにでかい魚を咥えてくる。香辛料は多く持ってきてはいないけれど、ルルさんがハーブを見つけて適宜使ったり持ち歩きのために干したりしている。

 移動は舟なのでさほど疲労も感じないし、寝床が硬い、風呂がない、トイレが自分で掘る方式という欠点はあるものの、旅が立ちいかなくなるようなことは早々なさそうに思える。

 だから多少の遅れは気にしなくていいのでは、と言うと、ルルさんは頭を振った。


「そういった心配は、私もしていません。ただ、マキルカに少しでも早く着きたいと思っているので」

「そなの? 神殿が心配だから?」

「少しでも早くリオと酒を交わすためですよ」


 心外なと言わんばかりに告げたルルさんに、私は思わず噎せてしまった。すかさず差し出されたハーブティーを飲む。危ない、お粥を吹き出して火を消してしまうところだった。


 てっきり疫病とか、神殿の様子とか、ルイドー君たちのことが気になってるのかと思って私も急がないといけないのかなと不安になったというのに。

 いやこの人、なんの心配をしているのか。

 ヌーちゃんと並んでちょっと滝行していてほしい。






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