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お時間終了5分前のコール音が大きくてビクッてなる2

 パタパタと葉っぱを叩く雨音がたくさん重なって、ホワイトノイズのようになっている。


「リオ、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」


 上がってきた息を落ち付けようと深呼吸していると、前を歩いていたルルさんが振り向いて私を見る。繋いだ手にぎゅっと力を込めると、ルルさんは心配そうな顔をしながらも再び歩き出した。


 ハチさんたちの村を出てから、雨が降るのは今日で二度目。

 前は霧雨のようなものが短時間降っただけだったのでそのまま舟に乗ってたけれど、今日の雨脚はそこそこ強い。

 ルルさんは雨が降り始める前にそれを察知して、舟をいつも以上にしっかりと木に結び、それから荷物を担いで川から離れると言った。


 この森は、数分歩くだけなら特に気にならない程度の緩やかな傾斜がついている。降り始めた雨を気にしつつどんどん進んでいくと、流石に疲れてきた。


「リオ、荷物を持ちましょう」

「平気平気」


 荷物といっても、私とルルさんの衣類やブランケットだけだ。まとめて包み、ルルさんが紐を使ってうまいこと背負えるようにしてくれたので邪魔にもなっていない。上からフード付きのマントをカッパ代わりに来ているので、シルエットが膨らんだてるてる坊主になっている。


 対してルルさんは大荷物である。武器、保存食、食器、細々した道具にテントの革布。背負ったりぶら下げたりしてそれらを身に付け、片手には舟を漕ぐための棒、そして反対の手には私も連れている。まさかあの荷物を全部持ち歩けるとは思わなかった。

 上から羽織ったマントも背負った荷物でかなり丈が短くなっている。そんな状況の人にちょっと疲れたから荷物持ってとはとても言えなかった。


 ちなみにニャニは両手鍋をひとつ背中にくくって後ろをついてきていた。鍋底に当たってトンテンポンと金属っぽい音を立てていた雨音は、今はそこそこ水が溜まってポチャポチャ音に変わっている。短い手足が歩くたびにチャプチャプと波立っているけれど、ニャニは特に重さを苦にしてはいないようだ。


「リオ、あそこまで歩けますか?」

「うん」


 ルルさんが示したのは、森がひらけた場所。何かの作業場のようだった。

 土の上にピンポン球程度の丸っこい石が敷き詰められ、その上に四畳より少し狭いくらいのサイズで床板のようなものが載っている。それをふた回りほどの余裕を持って囲うように、四方は2メートルほどの高さがある木製のポールのようなものが立っていた。ルルさんはそこへテントを掛け始める。二箇所をポールの一番上の方で結ぶと、もう二箇所はそれより少し低い位置で結んでいる。大粒の雨が降っては斜めになったテントを滑り落ちていった。


「お待たせしました。リオ、中へ」

「ありがとう、ルルさん」


 マントを敷いた床板の上に、着替えや荷物を置いていく。ルルさんは荷物の中から炭と枝と干し草みたいなものを取り出して、敷き詰められた石の上で小さいかまどを作っていた。遅れてテントに入ってきたニャニを労ってからその背中の鍋を下ろし、大きくなり始めた火の上にそのまま掛けた。溜まった雨水を利用するために背負ってもらっていたようだ。


「リオ、寒くありませんか? どうぞ火のそばに」

「今歩いたせいでちょっと暑いくらいだから大丈夫。ルルさん、ここって何? なんでこんな柱が立ってるの?」

「おそらく、簡単な小屋か何かの跡地ではないかと。板は新しいので、誰かが私たちのように再利用しているようですね。そこに火を焚いた跡がありますから」

「ほんとだ」


 ニャニがくつろいでいる向こう側の石に、黒く煤けた色が付いていた。

 周囲に朽ちた材木のようなものもあったことから、ルルさんはここに小屋があったようだと推測したらしい。

 森の中では狩りの際に寝泊まりしたり、作業をするための小屋を建てることがある。柱を立てればあとは屋根を組んで葉っぱを乗せれば十分に使えるとルルさんが教えてくれた。ここは石が敷き詰められているので、誰かが長く使用していたようだけれど、その使用者がいなくなって屋根が朽ち、跡地を簡単な作業場として誰かが利用しているのだろう、ということらしい。


「かまども作られているとありがたかったのですが、これでも明日までなら充分に雨をしのげるでしょう」

「そうだねえ」


 雨はだんだん強くなり、風がない分真っ直ぐに落ちてきている。白っぽくなった景色を見ながら、私は濡れてしまった靴を脱いで足を床板の上に乗せた。


「ニャニ、しっぽ濡れてるよ」


 指摘すると、三分の一ほどテントからはみ出ていたニャニがゆっくりと中へ入ってくる。床板は狭いので遠慮したのか、石の上を歩いて私の横に並んで伏せた。ゴツゴツした鱗は布と違って水を吸わないので、濡れていても大丈夫だったかもしれない。


「リオは本当に神獣ニャニと仲良くなりましたね」

「いや仲良くはなってないよ。ねえ」


 話を振ると、ニャニは体を起こして片手を上げる。そしてその手を私の足の甲に乗せようとした。

 避けると、タムと青い手が床板を踏む。ニャニはゆっくりと横に平行移動して、また手を挙げた。私が足を持ち上げたので、またタムと床板を踏んでいる。


「いや、触らなくていいから。ジッとして」

「やはり仲良しですね」

「だから別に仲良くはないから」


 微笑ましそうに言うルルさんに反論していると、ニャニがぽんと私の足の甲に手を乗せた。そしてニタァ……と口を開ける。

 やたらとフレンドリーな態度にちょっとムカついたので、とりあえずニャニを転がして仰向けにしておいた。






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