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時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる30

「リオ、ルルサンとふーふ?」

「おおおかあさんとおなじ?」

「こどもいっぱいできる?」

「なんで知ってんねん」


 翌日、開口一番に訊いてきた子ネコ三兄弟に、私はついツッコミを入れてしまった。

 小さい村で噂が早いとはいえ、私はまだ今日は一度も外に出てすらいないというのに。


「まだ夫婦ではありませんよ。マキルカへ帰って、酒を飲み交わしてからです。けれど、私とリオは相思相愛ですから、あとは形だけですね」

「いや何教えてんねん」


 子ネコたちにスープを配りながら優しく説明しているルルさん。こいつが犯人だと私は確信した。どうせ早起きして朝食の準備とかするついでにあった人に色々吹き込んだのだろう。


「ルルさん、軽々しくそういう話をするのはどうかと思うなー?」

「すみません、浮かれてつい」

「浮かれてたら何してもいいってもんじゃないんだぞ!」


 高校で進路指導をしていた先生の口癖がこんなところで出てくるとは。先生、あなたの志、立派に受け継ぎました。


「大体そんな、お酒……とか……そんな話全然してない!」

「まさか断るおつもりですか? あれほど私を弄んでおいて?」

「なんで誤解を招くような表現をしてんねん」


 何もない。ルルさんと私何もない。

 そりゃまあ、その、キスくらいはしてしまった。昨夜は雰囲気に流されて。浮かれルルさんに流されて。生活指導の先生ごめんなさい。

 しかしそれだけで、裏切られたと傷付かれるのはなんだか納得いかない。というかルルさんの顔が演技くさい。


「なるべく早く帰って、準備をしなければ。フィデジアたちもきっと喜びます」

「いや、聞いてた? 私の話聞いてた?」

「道中でゆっくりと聞きますよ」


 お肉を切り分けたルルさんが、それぞれのお皿に載せて私や子ネコたちに配りつつ、ついでのように私のおでこにちゅっとした。並んで座っていた子ネコが、それぞれふかふかした手をほっぺに当てておぉ〜と声を上げる。ニャニは鼻先をテーブルの下に隠した。ヌーちゃんは肉に食いついた。

 誰かルルさんを正気に戻してほしい。




 結局ルルさんは正気に戻ることなく、にこにこしながら今までよりも沢山仕事をこなすようになり、あっという間に私たちの旅の準備は終わってしまった。

 見送りに来てくれたのは、ハチさん、子ネコたち、村長、そしてネコの大お母さん。完成した舟をみんなで川岸まで運んで、荷物をそこへ乗せた。


「リオ、気をつける。お守り、ラーラーが守る」

「ありがとうハチさん」


 この村の人たちが付けている、石で作ったネックレス。ハチさんがそれを餞別に渡してくれた。ハチさんたちは、石を沢山ぶら下げた長いネックレスを体に巻くように付けているけれど、これはひとつだけ、首からぶら下げられるように紐も調整されている。

 キラキラ光るように磨かれたネックレスは、川の近くにある崖と同じアメジスト色だった。首にかけると、アマンダさんがくれたブローチの隣で輝く。


「ハチさん、本当に今までありがとう。ハチさんに助けてもらって嬉しかった」

「ハチ、楽しかった。ハチ、忘れない」

「うん、私も」


 大きなクマの手と握手をする。大きな黒い爪に、ザラザラした肉球。

 いや肉球でかい。もっと早めにプニプニさせて貰えばよかった。

 名残惜しくニギニギと握手をしていると、子ネコたちが集まってくる。


「リオ、さみしい」

「ネコたちもうさみしい」

「さみしい」


 さっきまでキャーキャー走り回っていた子ネコたちが、うるうるした目で見上げながら私の腕にきゅっと肉球を押し付けた。


「私も寂しいー!! アカ、アオ、オワリ、今までありがとうー!」

「ネコたち、リオとまた会いたい」

「私も会いたいよー!」

「ネコたち会いにいってもいい?」

「ネコつよくなるね」

「うん、大きくなったら、マキルカに会いにきてね。手紙も出すね」


 しゃがんでぎゅうぎゅうに抱きしめ合う。ふわふわの毛並みともお別れなのはかなり辛かった。子ネコたちにペタペタ触られまくり、子ネコたちをわしわし撫でまくっているのを大お母さんが黙認してくれているのが、この子たちと仲良しであると認めてくれたようで嬉しい。

 その大お母さんは、沢山のクッキーをプレゼントしてくれた。いろんな種類のものが入った豪華版である。ルルさんによると、固くて保存に向く種類のものらしい。

 私がお礼を言ったら、ごああぁ〜ん、と初めて言葉を掛けられた。猫の鳴き声にしか聞こえなかったけれど、細められた目とゴロゴロなっている喉の音で優しい気持ちを込めてくれたのだとわかる。


「リオ、そろそろ乗ってください」


 ルルさんに手伝ってもらいながら、舟の上へと乗る。半分ほど川へと押してから、ルルさんが乗り、あとはハチさんたちが押してくれた。底に敷いた丸太と石の擦れるぐらぐらした揺れが、ある時からふわふわした揺れに変わる。ルルさんが長い棒で器用に方向を変え、舟は穏やかな流れに従って進み始めた。


「リオいかないで」

「リオさみしい」

「リオー!!」

「子ネコたち、ありがとうー!! 大好きだよー!! 元気でね!」


 お別れの間際ですんすんと泣き始めてしまった子ネコたちを、大お母さんが抱えている。ハチさんも村長も、ずっと手を振って見送ってくれた。棒を使って舟を進めるルルさん越しに、私もそれに手を振り返す。


「みんなありがとうー! さようならー!!」


 色鮮やかな石の敷き詰められた河原、アメジストの崖、いろんな姿をしたラーラーの民。緩やかなカーブでその姿が見えなくなるまで私は手を振り続けた。


 最初はびっくりしたし、生活も慣れないことが沢山あったけれど。

 ここへ来てよかった。ここの人たちと会えてよかったと、私は心から思った。






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