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喉休め 明日に架ける箸

 この世界について、もうちょっと意識的に考えてみよう。

 そう思っていちばん手っ取り早い対象は、やっぱり料理だろう。


「これはなんていう料理?」

「トンタキルタです。人間の国の郷土料理で、2種の魚と5種の野菜を刻んで蒸し焼きにします」

「へえー。この魚、皮が黄色っぽいね」

「泳いでいる姿は緑色ですよ。これはこの国でよく見られる魚で、人間の国では別の魚で作っていましたね。これは魚卵ですが食べますか?」

「食べる食べる」


 ありがたいことに、この世界の食材は味付けが大体地球と似ている。魚は魚っぽい味、お肉はお肉っぽい味、野菜は野菜っぽい味。地球の神様と知り合いの神様が作ったからだろうか。とてもありがたい。たまによくわからない食材もあるけど。


「このツルッとしたのは何?」

「モンヌです。卵胎生の植物の卵ですね」

「卵胎生……植物なのに……?」


 本当によくわかんないものだった。味はなんかこう……ややあっさりした黄身みたいな感じで、美味しいので深く考えずに食べることにする。


「もう少し育って中に芽が出たものは、蒸し焼きにして塩で食べると食感が良いですよ」

「へぇ。こっちのお肉は?」

「ランキデルダという鳥ですね、大きさはこれくらいです」

「でかっ!!」


 これくらい、でルルさんが示したのは、彼の長い手をほぼ広げた大きさ。首が長いので、頭はルルさんの身長を超す位置にあるらしい。スゴイ。


「いっぱいお肉が取れそうだね」

「ええ、今日は多くのものがこの料理を食べていると思いますよ」


 ランキデルダのくちばしを使った料理は、かなりクセのある珍味になるらしい。ニオイがすごいのでルルさんは好きじゃないそうだ。食べてみたいような、食べなくていいような。

 お肉はとりもも肉って感じの味だった。ちょっとハーブのような香りがあって美味しいけれど、味付けのせいかもしれない。


「このような大きな鳥肉は初めてですか?」

「うん。私のいたとこではね、あ、日本っていうんだけど、普段食べる鳥肉はこれくらいの大きさの鶏か、鴨くらいだったよ」

「ここでも家畜としては同じような鳥がいますね。多くは渡り鳥を狩って食べますが」

「へえそうなんだ! 狩りかー!」


 このランキデルダも渡り鳥らしい。このサイズを狩るってすごい。どうやって狩るんだろう。網破れそう。

 この国では食べ物を狩りで調達することは珍しくないらしい。ここ数十年は牧草を満足に確保できないところも多かったので、家畜はとても少ないということだった。今は牧草ももりもり生えてきているらしいので、数年のうちに家畜も増える見込みとのこと。品種改良したお肉は美味しいので頑張って育てていただきたい。


「ルルさんも狩りできるの?」

「ええ、私は旅をしていた時期もありますから、一通りのことは」

「どのくらい?」

「5年ほどですね」

「えっ本気のやつじゃん」


 ルルさんは、神殿騎士としてあちこちにある神殿を見て回ったり、人間の国へも行ったことがあるらしい。


「野宿とかもしたの? 大変じゃない?」

「街道沿いであれば人家の軒を借りることが多い旅でしたが、森を通るときなどはしました。一人ですから慣れればどうにでもなるものです」


 いきなりルルさんがたくましく見えてきた。森で野宿ってすごくないか。私は子供の頃のキャンプでも泣いていたというのに。アブ怖い。


「なんか……すごいね。生命力というかなんというか……」


 いきなり森の中に置き去りにされたとしたら、ルルさんは食事もしながら普通に生きて帰ってこれるのだろう。私は自力で出れるかどうかもわからない。

 一人暮らしで自分のことは自分でできると思ってたけど、あれこれインフラあった上でのことである。毎日あれだけこなしていた仕事だって、会社が消えたらそれで終わりだ。私は今まで何を学んで生きてきたんだろう。


「ルルさん、今までの人生何だったんだって虚しくなったことある?」

「あります」

「ルルさんほどの人でもあるのか……」


 じゃあしょうがないな。色々知っていて色々できるルルさんでも思うんだもんな。


「力及ばず我が身を悔やむのは、生きているのであれば仕方のないことなのかもしれません」

「つらいねえ」

「しかし、そう思うということは、まだ成長の余地があるということではないでしょうか。そういう気持ちが人を突き動かすこともあるでしょうし」


 ルルさん、めっちゃポジティブ。でも一理ある気がしてきた。


「そっか。そうかも」

「そうですよ」

「そっかー」


 蒸し野菜のサラダを食べる。クタクタになった葉物野菜の上にカリカリのナッツが砕いてあって美味しい。

 私はこの野菜の名前も知らない。でも、知らないからこそ知ることができるのだ。そう考えると自分が可能性の塊のように感じてきた。今なら何にでもなれる気がする。


「いつか、私も森で生きていけるくらいの強い人間になりたいです」

「リオ、それは私が心配になりますので……では今度、中庭で寝てみましょうか?」

「それ野宿と言わなくない?」


 人はそれをキャンプというのではないだろうか。でも、色とりどりの花や草木に囲まれて夜空を見上げるのも楽しそうだ。この世界にも星座はあるのだろうか。月や蛍やオバケも。

 異世界のキャンプを想像しながら、私は名前もわからないスープを飲み干した。






タイトル元ネタ:

「明日に架ける橋」

Bridge Over Troubled Water

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