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時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる27

 ひび割れができるほど乾いたフコを砕いて粉にして、軽くる。

 パッサパサの粉になったものは、半分はそのまま袋に入れて、半分は蒸した数種類の穀物を乾かして砕いたものと混ぜる。穀物と混ぜたものは、水と炊いて甘いお粥のようにして食べるのだそうだ。


 今日、ルルさんは朝から頼まれて近所の屋根修理に出かけている。子ネコたちも付いていったので、今日はなんだか静かだった。

 硬く乾いた穀物の塊をゴリゴリと潰すのはハチさんだ。黒い爪の生えた大きな手で石の擂り粉木を持ち、足の間に挟んだすり鉢に力強く擦り付けている。あっという間にサラサラの粉になるので、その度に私は革袋でそれを受け止めた。


「ハチさんも少し食べる? これ、すごく日持ちするらしいよ」

「ハチ、食べたい。リオたち、いらないだけ食べる」

「うん」


 大きな革袋の中で混ぜたフコと穀物を、半分ほど別の袋に分ける。ハチさんは甘いものが好きらしく、フコの実を食べている時もどことなく嬉しそうなのできっとこのお粥も気にいるだろう。家の裏に植えさせてもらったフコの木も随分ガッシリ根を張っているので、これからは折々に収穫して楽しんでもらえそうだ。


 袋詰めをしていると、ハチさんが立ち上がって棚をごそごそ探った。それから大きい袋を持って戻ってくる。カチャカチャと音のするそれを、ハチさんは私へと手渡した。


「ハチ、干し肉作った。リオ、持っていく」

「えっ、こんなに沢山? 貰っていいの?」

「ハチ、あげるために作った」


 ハチさんはこっくりと濡れた黒い鼻を上下させる。干し肉は水分が飛んでいるので軽いものだけれど、この袋はずっしりと重さを感じるほど入っている。これだけ作るのは手間だっただろうに、ハチさんは気前よく私たちにくれると言う。


「ハチさん、ありがとう……何から何までお世話になって、本当に助かりました」

「リオ、食事作った。ルルサン、狩り教えた。ハチ、嬉しい」

「ハチさん……」


 ハチさんはあまり喋ったり笑ったりする人ではないけれど、私が来たときも当然のように受け入れてくれた。結局この家に居座ってしまった上に台所を取り仕切ったり狩る動物を指定したりしていたルルさんにも嫌な顔ひとつしなかった。


 ラーラーの客はもてなすのが習慣だといっても、ここの暮らしは貧しくはないけれど裕福というわけでもない。

 私のために狩る量を増やしたり、いちいち物の使い方を教えたりすることは負担だったはずだ。それでも温かくもてなしてくれたハチさんには頭が上がらない。

 私もいつかこんな風に誰かに親切にしてあげられるようになりたいなと思った。


「ハチ、質問ある」

「なになに?」

「ルルサン、リオ、夫婦?」


 唐突すぎて噎せた。穀物の粉がちょっと舞った。近くで目を閉じていたニャニの顔が若干白くなった。


「えっなんでそんな急に?!」

「リオ、言った。ルルサン、リオ、親子違う」

「うん、それは言ったけど」


 動揺する私とは反対に、ハチさんは干した穀物の粒をまたすり鉢に入れてゴリゴリし始める。


「ルルサン、食べ物あげる。寝床一緒。ラーラーの民、同じこと子供か夫婦にする」

「そ、ソウナンダー」

「ルルサン、リオとても大事。言ってた」


 言ってたんかい。何言ってんだあの人。


「ふ、夫婦ではないです……」

「食べ物と寝床、家族じゃない人にもすること?」

「それも違うと思います……」


 くりっとハチさんが首を傾げ、茶色い目もまふまふな耳も斜めになった。

 しばらくゴリゴリとすり鉢の音が響く。


「あの、ルルさんは多分、私のことが好きで」

「ルルサン、求愛してる?」

「キュ……えぇっと……そうなるのかなぁ」

「リオ、ルルサン好き?」


 フコの粉がテーブルに溢れてしまった。

 ハチさんは悪気がない分、質問がどストレート過ぎる。私だけが恥ずかしい。


「……うん、ルルさんのこと好きなんだ」

「ハチ、理解した」

「ルルさんには言わないでね。秘密にしててね」

「ハチ、言わない」


 ゴリゴリと擂り粉木を回しながらハチさんが頷いたので、ホッとして私も頷く。

 実直な性格なのできっと黙っていてくれるだろう。


「ありがとう」

「でもルルサン、聞こえた」

「えっ」


 鼻先が開けっ放しの玄関を指す。するとそこから、ルルさんがスッと入ってきた。

 顔を真っ赤にしたルルさんが。


「………………」

「……すみません、入ろうと思ったら、声が」

「………………」


 私は革袋を置き、椅子から立ち上がる。

 顔の白いニャニを引きずって部屋の真ん中に置くと、ニャニは私の意図を理解して口を開き、ルルさんへシャーと威嚇した。

 そうして通行止めにしてから、私は寝室へと籠城したのだった。






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