時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる25
家に帰り、ハチさんとルルさんと3人で食卓を囲む。
「ルルサン、ごはん上手。ハチ、嬉しい」
「ありがとう」
今日のメインは、ルルさんがなんか泥で包んで焚き火で焼いていたお肉である。虫除けの草を燃やすから、ついでにとルルさんは言っていたけれど、私は内心それ料理なの? と思いながら見ていた。焚き火をごうごう燃やして硬くなった粘土を割り、皿に盛られたものを実際食べてみると、お肉は蒸されてものすごく美味しくなっていたのだからびっくりである。
「このお芋ものすごく美味しいね」
「ハチ、芋好き」
「リオもハチも、まだおかわりがありますよ」
お肉に包まれるようにしてじっくりと加熱された根菜類は、ハーブの香りとお肉の旨味を吸って驚愕の美味しさになっていた。ヌーちゃんも夢中である。いつもは貰うがままに食べるだけのニャニも、根菜を口に入れてあげてしばらくするとそっと手を上げつつ口を開けて待っていた。
ルルさんが時折あやしい目をする以外には、ルルさんとハチさんの関係はそう悪いものではないようだ。ハチさんが狩りに便利なエリアを教えると、ルルさんがハチさんの知らない狩りの方法を教える。食事も私が用意していたドシンプル料理よりも豪華になったのでとても満足そうである。
ルルさんはよく、ハチさんにラーラーの民の習慣や村のことについて訊いていた。
「ラーラーの客をひろったら、拾った者が必ず世話をするのですか?」
「そう。世話する人、ラーラー決める。難しいとき、みんなで助ける」
「性別は考慮されないのですか? リオは女性ですし、あなたは男性でしょう」
「えっそうなの?」
私が思わず口を挟むと、ハチさんはお肉を美味しそうに飲み込んでからコックリと頷いた。
ハチ、オス。
全然知らなかった……というか、ビジュアルがクマという時点でインパクトが強過ぎて他のことについては特に気になっていなかった。
前にルルさんに教えてもらった時には猫耳的な想像をしていたけれど、ラーラーの民は割とガッツリ獣である。最初動物が人間の真似をしているように見えたので性別についてなんて特に意識していなかった。
「リオ、メス? 人間、難しい。違い、わからない」
「メスだよー。私もハチさんの見た目でわからなかった」
「ハチ、ラーラーの民、匂いでわかる」
「へえ、そうなんだ。私鼻がいい訳ではないからねえ」
匂いでわかるというのは、私にはハードルが高過ぎる。鳥の姿をした住民は、カラフルな人がオスなんだろうなあとはなんとなく思ったけれど、男女差が見た目に出ない人たちはさっぱりだ。大お母さんはお母さん呼びされているので女の人だとは思うけれど、子ネコたちはわからないし。
「マキルカは、異性を家で保護するというのはあまり行われません。不便なこともあるからです。そういったことは考慮しないのですか?」
「ハチ、不便ない。リオ、仕事する。ハチ、助かる」
ハチさんが茶色い顔を傾げて答えた。
「ルルさん、私も不便なこととか感じたことないよ。ラーラーの民の人はみんな親切だし、安心していられたし」
「しかし、親切にされているうちに男女の関係になることもあるのでは?」
「男女の関係て」
ルルさん、流石に勘繰り過ぎでしょ。
そうツッコミを入れると、実際に大陸の境目にある街ではエルフとラーラーの民の夫婦がいたりするらしい。
「そうなんだ!」
「はい」
「ハチ、まだ3歳。メス、いらない」
「ええええ3歳?!」
よりビックリする事実が出てきた。
ハチさん、3歳。
一応確認してみたけれど、一年の数え方は大体同じで、今は生まれて4年目。正真正銘の3歳である。
3歳児、デカい。そしてしっかりしている。
ハチさんがカタコトなのは、3歳だったからなのだろうか。
そして私、3歳に生活の面倒を見てもらっていたのか……
衝撃のまま夕食を終え、部屋に帰る。
体を拭いて寝る準備を済ませてからベッドに座る。裸足の下ですかさず仰向けになったニャニのお腹をタムタムしつつハチさんに想いを馳せた。
「3歳なのにしっかりしてるねえ……」
「気になりますか?」
「気になるというか、すごいというか。文化が色々ちがうなあと」
外で体を拭いてきたルルさんが、近寄ってきてじっと私の目を見る。それからヒョイっと私をベッドの奥側に寄せ、裏返しになっているニャニを元にひっくり返して、自分もベッドに乗ってきた。
ベッドはそもそもシングルよりちょっと幅があるかな程度の大きさなので、狭い。でもルルさんは頑なに私と違う部屋では寝ようとせず、なんなら床や椅子で寝るとか言い出すのでぎゅーぎゅーで寝ているのだった。
マキルカより涼しいとはいえ夏なので地味に暑いのも気になるけれど、ルルさんが心配そうな顔で「寝ている間にリオがいなくなると思うと」と懇願してくるので、前科ある私は無碍にできないのである。
「リオはハチについてどう思っていますか?」
「すごい親切な人だなって……あとは、クマって意外につぶらな目をしてるなあとか?」
眠そうなヌーちゃんを撫でながら枕の近くに寝かせていると、ルルさんがぎゅっと私を抱きしめてきた。
「ルルさん、暑い」
「すみません」
「謝罪に行動が伴ってない」
「すみません」
あんまりすまなそうに見えないルルさんが、目を細めつつ私をそっと寝かせて髪をすく。
この瞬間、なんかものすごく照れてしまうので、私はいつも壁の方を向いてヌーちゃんのお腹を眺めるのだった。ふかふかのお腹が上下するのを見ていると、すぐに眠くなる。バクの効果がありがたかった。
村の人と話したり、ルルさんの仕事を手伝ったり、子ネコたちの遊び相手をしたり。
そうこうしているうちに日が経って、ある日の朝、ルルさんはそろそろ荷造りを始めましょうと私に言った。




