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時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる24

 もともと何でもこなす人だとは思っていたけれども。


「リオ、その辺りは石が多いですから気を付けて」

「あ、ハイ」


 竹っぽい木を切りながら、ルルさんが私に注意をした。その通り、私の足元にはいくつかゴツゴツした石が転がっている。

 距離間100メートルでそんなのわかるものなのだろうか。


「リオそれちがうー」

「ちがうやつー」

「おやつたべる?」


 私が摘んだ葉っぱをフンフンと嗅いだ子ネコたちが、口々に指摘してくる。言う通り嗅いでみると、確かに私が探しているハーブの匂いがしなかった。


「ほんとだ。教えてくれてありがとう」

「これねー形がチクチク」

「カイモは形がギザギザ」

「ジザジザ」

「そ、そっか……ちょっと難しいねえ……」


 チクチクした形って何だろう。ギザギザとどう違うんだろう。

 間違って取った葉と正しいものを並べてみても、残念ながら私にはイマイチ違いがわからなかった。ニャニが私の靴の上にポンと右前脚を置いた。


 ルルさんが意識を取り戻してから、早5日。

 眠っていたときの窶れていた様子からは想像もできないような八面六臂の活躍を見せ、今では私だけではなく村に住むラーラーの民たちにもありがたがられている。


 改めて村長と顔を合わせたルルさんがまず提案したのは、私と一緒に住まわせてほしいということだった。

 私がハチさん預かりとなっているし、ハチさんに2人も面倒は見れないと断られると、面倒を掛けるどころか役に立つところを実際に見せて納得させてしまう。

 それだけではなく、周辺に危険な動物がいないかの見回り、大型野獣の狩り、家や家具の修理、そして住民の希望によって小さな小屋まで建て始めていた。


 小屋はちょっとした物置となる予定らしい。

 住宅を建ててくれないかと頼まれたけれど、ルルさんは旅装が整い次第帰りたいからと断ったそうだ。

 もしかして、期間の問題がなければ建てられたのだろうか。 

 やっぱり建築技術はこの世界の人の基礎知識なのだろうか。


「リオ」


 私が目の届かないところに行きそうになると、ルルさんは目ざとく呼び止める。

 ルルさんが木材を切り出している間、私は料理に重宝されるハーブを摘んでいるのだけれど、どっちかというと仕事というよりもルルさんの目が届く範囲に私を置きたいという理由からなので、ある意味ルルさんの仕事の一環である。


 子ネコたちと同じく子守される立場になってしまった。

 ルルさんは前にも増して私を近くに置いておくようになった。特に川の近くでは、手の届く距離でないと不安なようだ。

 過保護っぷりが見てとれるからか、村の人の多くが私とルルさんを親子だと思っている始末である。

 一応社会人だったというのにこの有様。せめて自立した振る舞いをと思っても、ルルさんの世話焼き能力が高すぎて完全に甘やかされてしまっていた。


「休憩しましょう。足は痛くありませんか?」

「大丈夫」


 大お母さんのハーブ入りクッキーをみんなで食べながらも、ルルさんは私を気遣っていた。


「ハーブも集まったようですから、あとは座って待っていてください」

「全然集まってないじゃん! 籠半分じゃん!」

「株に対して葉の少ない種ですから、それ以上集めるなら場所を移動しないといけなくなりますし」


 ルルさんがゴリゴリスコーンと木材を切ったり割ったりしまくっている間、私が集めたのは小さい籠も満たせないほどのハーブである。作業効率の差が辛い。

 でもここで無理を言った結果ルルさんの仕事が増えてしまうと良くないので、私は言われた通りに作業をするルルさんの近くで過ごすことにした。

 大きめの切り株に座って、石を磨く。アクセサリーにするための石を磨く方法もルルさんが教えてくれたものだ。


「ルルさん、大人気だね。村長も、ルルさんが頑張ってくれてるから旅に必要な道具を遠くから取り寄せてくれるって言ってたし」

「感謝はしても、彼らはあまり長居をするのを好まないでしょうから。冬が来る前にマキルカへ戻らないと、旅程が厳しくなりますし」

「あ、そうか。もう夏のピークも過ぎたもんね」


 この村では、迷った人間や立ち寄ったエルフに働き口を提供し、その対価として食事や旅に必要なものを揃えてくれる。私1人の労働力では全て揃えるのがいつになるかわからなかったけれど、ルルさんが来てからは具体的にマントや地図などがもう揃い始めていた。


「マキルカまですごく遠いの? 前にハチさんが、この大陸の神殿からここまで三ヶ月くらいだって言ってたけど」

「それは徒歩で進む日程だからですね。我々の旅路は、まず水路を考えています」

「え? そうなの?」

「はい。あの川が南方へ流れているようなので、大陸の端近くまでは舟で行こうかと。神殿も川沿いにあるとこの前連絡がありました」

「連絡?」


 ルルさん、この大陸にいるエルフの神殿騎士と連絡を取ったらしい。

 村長のツテで伝書鳩みたいなのを飛ばしてもらい、そこからアドバイスを貰ったそうだ。もう私は仮にルルさんが三つ子で仕事を分担してこなしていたとかでも驚かない。


「時間はかからなくなりますが、村伝いに移動しない分食料を自力で調達する必要があります。そのハーブも半分は保存用に乾かしましょう。あとでやり方をお教えします」

「うん」


 千手観音なのかなってレベルであれこれ仕事をしているルルさんだけれど、こうして私にいくつか仕事を振り分けてくれている。旅に必要な調味料や布小物の製作などが主で、私は慣れないながらも力になろうと頑張っていた。


 多分、ルルさん一人でこなした方が効率がいいのかもしれないけれど、仕事を任せてくれたり、あとどんなことをする予定だと話してくれることが嬉しかった。

 まだ出発には時間がかかるけれど、確実に、私たちは帰る準備を進めている。


「リオ、ルルサン、運んだ」

「あ、ハチさんお疲れさまー」

「ハチもどうぞ休憩を。もう少し手伝ってもらいますから」

「ハチ、できる」


 木材を運ぶ手伝いをしてくれていたハチさんが何もむすんでいないロープを担いで戻ってきたので、ルルさんがお菓子を勧めていた。ハチさんは嬉しそうにクッキーをかじっている。


 目下の心配事といえば、ハチさんを見るルルさんの目がたまにあやしいことくらいである。ハチさんは食材じゃないと念を押しているけど、ルルさんとハチさんが話しているのを見るたびに、なぜか前にルルさんが言っていた「熊は美味い」という言葉がたびたび思い出されて私は微妙にヒヤヒヤするのだった。






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