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時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる23

 ぷち、すー、ぷち、すー。

 なんか変わった音が聞こえて、私はパチっと目を開けた。


 ルルさんが椅子に座り、右の足首を左の膝に乗せるように足を組んでいる。そこを作業台にするようにして、何かを作っていた。それを見ていると、すぐに青い目がこちらに向いた。


「リオ、おはようございます」

「おはようルルさん」

「もう少し待って頂けますか? 今、飲み物を持ってきますから」


 何かを椅子の上に置いて、ルルさんが部屋を出ていく。私は起き上がってベッドから両足を降ろし、そこに横たわるワニ皮製クッションを両足でフニフニした。


「ニャニー! 裏切り者! シャーしてって言ったのにー!!」


 裏切った自覚があるのか、昨日とは違ってベッド側に寝転んでいるものの、ニャニは仰向けで水色のお腹を上にしている。ちょうど足を下ろす位置にいるので、私は遠慮なくそこに足を付けたのである。あんまり力を込めるとグニっといきそうで怖いので、足首のスナップを利かせて軽く叩く。タムタム音がした。

 ……お腹側の鱗、スベスベして気持ちいいな……


「すみません、あと少しで出来上がるので待っていてください」


 裸足でニャニの腹太鼓をリズミカルにタムタム演奏していると、ルルさんがカップを渡してくれた。少し冷めたそれはただのお湯ではなく、何かハーブの香りがする。摘みたてのもので淹れたスッキリした味わいだった。

 タムりながらハーブティーを味わう。うん。悪くない朝かもしれない。


「何を待つの?」

「これです」


 ルルさんが見せたのは、茶色い靴。

 正確にいうと、昨日までは私が靴代わりにしていた革袋、それが靴の形に切られて縫われたものである。片方はすでに出来上がっていて、もう片方もそろそろ縫いあがりそうだった。厚い革に太めの針を刺すたびにぷち、と音がして、糸がすーと音を立てて通っていく。


「えっ靴作ってるの? すごくない?」

「間に合わせのものですが、袋のまま使うよりは歩きやすいかと。不恰好で申し訳ありません」

「全然不恰好じゃないけど? なんだったらちょっといいセレクトショップにありそうだけど?」


 私がタムタムしている間にも見る見るうちに縫い目が増えていく。細かい。私が間に合わせで作ったワンピースなんて縫い目が5センチくらいあったというのに。それでも倍以上時間がかかっていたというのに。


「できました。どうぞ」


 カフーと息を吐くニャニのお腹に乗っていた私の足を、ルルさんがそっと捕まえた。履かせてくれた靴はゆとりあるサイズだったけれど、いい感じに私にフィットしている。

 靴は底面、甲の部分、踵の部分と3つのパーツを縫い合わせただけのものだったけれど、それでもしっかり靴の形をしている。底は革が重ねられていて、外でも平気そうだ。


「うわー! 完全に靴! ルルさんすごいねえ!」

「靴擦れが起こるかもしれませんから、違和感があれば様子を見て脱いでください。中敷も少し工夫した方がいいでしょうね」

「いやこれすごいよ! ルルさんありがとう」


 ニャニを飛び越して床に立つと、履き心地も悪くない。

 ちょっと柔らかい靴という感じで、履き続けているとしっくり足に馴染みそうな感じがした。


「ものすごい器用だね。靴作ったことあるの?」

「見様見真似のものですが、何度かは。旅の間には靴が壊れることもあったので」

「すごいねえ」


 できたての靴を履いて朝の準備を済ませ、テーブルに着く。そこにはすでに朝食が揃っていた。


「豪華だ……」

「神殿で出されるものには負けますが、どうぞ熱いうちに」


 こんがり焼けたチキンっぽいもの、葉物野菜とタケノコらしきものを湯がいたサラダ。そして干し肉の出汁が効いたスープには根菜とキノコも入っている。分厚いおせんべいみたいな形のパンも焼きたてのようだ。


 鳥肉の味付けも、サラダにかかっているドレッシングも塩じゃなくちゃんと調味料の味がする。美味しい。なんかオシャレ。美味しい。

 焼いた肉(塩味)とか煮た肉(塩味)とかじゃない。料理とはこういうものなのだとどのお皿も主張していた。


「お、お肉柔らかい! 鳥肉が柔らかいよルルさん!」

「おかわりもありますよ」


 スープに使った干し肉は家にあったものだけれど、鳥肉やハーブ類はその辺でとってきたらしい。開けっ放しの玄関からは、七面鳥くらいのサイズの鳥肉が、まだ半分くらい残って吊られてあるのが見えた。ハーブはまだわかるけど鳥肉ってそんな気楽に獲れるものなの。怖い。美味い。


「リオはどうやら栄養に偏りがある食事をしていたようなので。どうぞ沢山食べてください」

「窶れてるルルさんに言われたくないけどありがとう美味しいよルルさん! ルルさんもいっぱい食べて!」


 朝からボリューミーな食事をルルさんと一緒にモリモリ食べ、ニャニやヌーちゃんも美味しそうにおこぼれを食べた。ついでにいつのまにか入り込んでテーブルに顎を並べ、目をまん丸にしてよだれを垂らさんばかりの子ネコたちもモリモリ食べる。


「おいしいー!」

「エルフすごいー!」

「もっとー!」


 大きな鳥肉は、ハチさんのためのモモ肉を残して綺麗になくなってしまった。鳥の骨を煮込んで新たに作られたスープも美味しく、私と子ネコたちはお腹が苦しくなるまで食べてしまった。


「ルルさんすごいねえ」

「ねー!」

「ルルサンすごいー」

「もっと!」


 ルルさんは食べ盛りな子ネコたちの心と胃袋をギュッと掴むことに成功し、キラキラした目で見られていた。わかる。なんかやたら美味しかった。


 食べ終わってから私の仕事を手伝ったルルさんはあっという間に木の実の渋皮剥きも終わらせ、さらに空いた時間で木を削って弓矢っぽいものも自作してしまう。狩りをするときに便利と言っていたけれど、弓矢って不便だなー的な気軽さで作れるものなの。

 そしてそのついでに木でお箸も作る器用さ。


「ルルさんすごいねえ」

「そうですか?」

「数時間で飛躍的に生活が豪華になってるよ……」


 子ネコたちと共にその姿を見つめながらそう言うと、ルルさんは目を細めて微笑んだ。


「便利でしょう? どうぞどこへ行くにも連れていってくださいね」

「ウッ……も、もうしません……」


 お説教を寝落ちして話は終わったと思っていたけれど、ルルさんは割と根に持つタイプのようだ。

 釘を刺さなくてももうするつもりもないから許してほしい。


「ではこれから夕食の材料を取りに行きましょうか」

「いくー!!!」

「リオ、お手をどうぞ。夜はもう少し手間をかけたものを作りますよ」


 わーいわーいと踊る子ネコたちとニャニは、もう夕食を楽しみにしているようだ。

 かくいう私も例外ではない。食事は大事だ。


 今度どこか行くことになったときは絶対にルルさんと一緒に行こう。

 そう決心しながら、私は差し出された手を握った。






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