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時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる17

 のしのし歩くハチさんに担がれて揺れる金髪を眺める。今日はハチさんが背中にぐったりした鹿を背負っているので、ますます獲物感が増していた。


「あ、ごめん」


 グッと押される感覚があって、フコの幹を掴む腕に力を込めた。私が幹を引っ張り、ニャニが根っこの方を背中に乗せて押すという共同作業中なのである。


 あの後、森で狩りをしていたハチさんが私の叫びを聞きつけてやってきた。再び意識をなくしてぐったりするルルさんを不思議そうに見るハチさんにお願いして、また村長の家まで運んでもらうことにしたのである。


 ルルさんをハチさんに担いで貰い、私は急いで着替えをして、オオカミに追われながらも対岸から持ってきたフコの木を村まで運ぶ。正直疲労困憊だけれども、野生のオオカミが出るとわかっていてもここにフコの木を置いておく勇気は私にはなかった。

 オオカミ出没の恐怖と戦いながら歌うより、誰かに聴かれるリスクに怯えつつ歌う方がずっといい。究極の選択だけども。


「……」


 疲れてフコを離しそうになる腕に気を付けつつ、ハチさんの後ろを歩く。


 ルルさんにしがみつかれて叫んだあと、それがルルさんだとわかり私は慌ててルルさんの体を受け止めた。今まで目を覚まさなかったのに、いきなりこんなところまで歩いて大丈夫だったのか。

 ルルさんの無事を確かめようと何度かその名を呼んでいると、ルルさんが私の濡れたワンピースを掴んでわずかに口を動かした。


「ゆ……」と。


 ゆ……ゆ……ゆるさない……?

 やっぱり許さないが続くの? ゆべし食べたいじゃなくて?

 許さないって、私に対してなの?


「ニャニ……」


 そっと小声で呼ぶと、根っこが頭にかかって若干カツラっぽくなっているニャニの目がこっちを向いた気がした。


「ルルさん、やっぱり怒ってると思う? 私のことめっちゃ怒ってると思う?」


 短い手足を交互に動かして進むニャニは、ニタァ……とわずかに口を開けた。


「ルルさん……謝ったら許してくれるタイプだと思う……?」


 ニャニは静かに口を閉じた。


「え、ダメってこと? 望みはあるよね? ねえニャニ、なんでこっち見ないのねえ」


 ニャニは荷運びに専念し、それ以上私に対して反応することはなかった。




 フクロウのお医者さんによると、ルルさんは一時的に意識が回復したのでは、ということだった。


「まだ回復していなかったのに動いたからこの状態に戻ってしまったのかもしれないね」

「どこも悪くなってないですか」

「そうは見えないから心配しなくていい。このまま回復するかはまだわからないから、安心してもいいとは言えないけどね」


 ゆっくり体を休ませ、いきなり無理をすることがないように気をつけること。そうアドバイスしてくれたフクロウのお医者さんにお礼を言う。お医者さんは、フコを見つけてきたという私を労うように肩を叩いてから帰っていった。フクロウの羽、ファサッとなって気持ちよかった。


 ルルさんの顔色は相変わらず悪く、なんだか窶れたように見える。その手はひんやりしていて握っても握り返されることがなかった。

 状況はあまり変わっていないけれど、それでもルルさんが一度起き上がって歩いたのだという事実は私に希望を与えてくれた。


「ルルさん……」


 そっと呼びかけても返事はない。


「ルルさん……なんかごめんなさい……許してください……怒らないでね……怒ってもマイルドに怒ってね……心安らかに療養に専念してね……いや怒ってない……あなたは怒ってないよ……」


 ルルさんの無意識に働きかけようと囁きかけていると、ニャニがそっと私の足に自分の前足を乗せた。たむ、たむ、と二回乗せたのは、私を慰めているつもりなのかもしれない。

 私はしゃがみこんでニャニとの距離を縮めた。


「ニャニ……もしもの時はルルさんから私を守ってね。今日の勇姿はすごいかっこよかったから。いざとなったらあんな感じで。よろしくね」


 ルルさんが怒ったら、対抗できるのはニャニくらいしかいない。ニャニもまあワニなので見た目が怖いけれど、怒ったルルさんと脳内で比較してみると、どっちかというとルルさんの方が怖かった。


「ニャニだけが頼りだよ。頑張ろうね。今日も私の部屋で寝なね」


 ざらざらの頭を撫でつつニャニの尻尾が揺れるまで言い聞かせてから立ち上がる。ルルさんにまた来るねと言ってから、フコを増やすために村長の家を後にした。






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