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時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる7

 ハチさんによると、傷薬となる葉っぱは優しく揉んでから患部に貼っておくといいそうだ。沸かした水を少し分けてもらって足を洗い。傷をチェックしつつ貼ってこれまた分けてもらった布を巻く。

 ちょっとやりづらい作業だったのは慣れない作業だからというだけではない。子ネコが3人並んで至近距離で私の手元を観察し、その後ろからハチさんまでもがじっと見ていたからである。ついでに横にはニャニもいた。


「ハチ、ケガ軽いと思った。リオ、足痛い?」

「えーっと、ちょっとだけ」

「いたいねー」

「血だね」

「毛ないね」

「うん。毛はね、あんまり生えてないね」


 全身脱毛したから特にね。とは言いづらいので、私は不思議がる子ネコの視線を受け止めながら頷いておいた。


 血の匂いがちょっとしかしなかったから気付かなかった、と言ったのはハチさんである。やっぱりクマの長い鼻だと嗅覚はいいらしい。

 確かに血が出ているのは、葉っぱか何かで切ったと思しき2センチくらいの傷が数箇所あるだけだった。どれもうっすらと線が入っているように見えるくらいの、ごく少ない出血である。


 どちらかというと、出血していない箇所のほうが我が足ながら痛々しかった。

 靴を履いたままだった右足は、踵と足の裏に靴擦れの水膨れができている。破れてはいないけれど、足の裏の方は結構大きくなっていた。水膨れを見たことのないらしい子ネコが固まってピャーと怯えていた。

 靴がなくなっていた方の足は、石やなんやでぶつけたところがアザになっている。慣れない森歩きをしたせいか何度か躓いたので、両足ともスネの方にまでアザができていたし、アザまでいかないところは赤くなっていた。


 この世界にきてからというもの、大体中央神殿に引きこもっていたツケが足に出た感がすごい。

 マキルカの靴が合わなかったので、裸足でいたり柔らかい特製のものを使っていたためか、私の足は甘やかされまくっていた。

 基本的に平らで障害物も何もないところしか歩いていないし、そもそも歩く距離も奥神殿との往復くらいで10分もないくらいだ。カラオケルームで踊り狂いつつ歌っていなかったら足の筋肉はもっと衰えていただろう。

 ふくらはぎも明日筋肉痛になりそうな気がする。


「毛がない、大変。ハチ、気をつける」

「あ、ほんとにそのうち治るので……あの、よかったら靴をいただけると嬉しいんですけども……片方落としちゃったみたいで」

「くつ」


 焦げ茶のクマが可愛く首を傾げたので、私は履いていた片方だけの靴を指した。どうやらここの人たちは靴を履く習慣がないようで、これを履いて歩けばケガが少ないと言うとハチさんたちはほうほうと頷いていた。


「ハチ、履くひと知ってる。履くやつ、これと違う」

「違う……サンダルとか?」

「こういう形。硬いのでつくる」


 そうハチさんが爪を動かして示したのは、Uの字の開いてる部分がやや狭まったような形だった。

 うん。馬蹄だそれ。ここ草食系の人もいるんだな。


「ハチ、明日きく。チョウロウ、なんでも教える」

「ありがとうございます」

「おおおかあさんも!」

「なんでも知ってる!」

「いっぱい強い!」

「そうなんだ。今度紹介してね。葉っぱのお礼も言いたいから」


 ウンウンウンと頷く子ネコたち、めっちゃ撫でたい。

 大お母さんというのは、物理的に大きいのだろうか。大きいネコとトラはどちらの方が強いのだろう。ちょっと気になった。

 ニャーニャー鳴くように大お母さんの凄さをアピールする子ネコたちに頷いていると、ハチさんがじっと私を見ていた。


「リオ、子ネコと簡単に話す。リオ、ハチとも簡単に話す」

「簡単にって……?」

「ハチ、難しい言葉難しい。リオの言葉、ときどき難しい」


 敬語のことのようだ。

 話し言葉が流暢でないように、ハチさんは聞くのもあまり得意ではないのかもしれない。私も敬語はそんなに得意な方ではないので、その方がありがたかった。


「わかった。よろしくね」

「よろしく」


 頷いたハチさんにならうように、子ネコたちもよろしくーと声を揃えた。ニャニも手を上げた。ニャニはさっきからちょいちょい子ネコの尻尾が鼻先に当たったり、背中を足で踏まれたりしている。ものすごく羨ましい。


 ハチさんは湧いたお湯を木製のカップで汲んで、そのままワイルドに私たちに出してくれた。大きなテーブルを囲んで子ネコやハチさんも椅子に座る。カフェオレボウルのようなカップはまだ湯気が出ていて、ハチさんは普通に飲んでいたけれど子ネコは湯気をじっと見つめるだけで、貰ったジャーキーを先に食べていた。

 お湯を飲み、一息ついてから私はハチさんを見る。


「ハチさん。色々訊きたいんだけど、いいかな」

「ハチ、知ってること答える」

「ありがとう。えっと」


 硬いジャーキーをバキバキ噛んで割っているハチさんが気軽に頷いてくれたので、私はホッとした。

 今まで想定外なことがいっぱいあったせいで流されがちだったけれど、ようやく頭が働いてきたようだ。

 訊きたいことは色々あった。






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