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時間余るかも〜とか言ってても最終的に歌い足りなくなる5

 お茶菓子は、ザクザクした食感のクッキーだった。

 木の実を数種類混ぜて砕いているようで、甘さは控えめだけど風味があって美味しい。ひとつ味見して、ふたつめをニャニにあげ、みっつめを口に入れたところでヌッと狼の鼻先が近付いてきてむせそうになった。

 見回すと、ハチさん、大きいクマ、トラもじっと私を見ている。


 私の調理方法が決定したのか。そんな恐怖を感じながらクッキーを飲み込むと、ハチさんが焦げ茶の鼻先を上げて口を開いた。


「リオ、仕事する。ハチ、家貸す。ハチの家、広い」

「あ、ありがとうございます。あの、仕事ってどういうのですか?」

「リオ、魚の狩りできる? 人間、魚の狩り上手い。魚、いっぱい採れる」

「できません」


 ハチさんはぐぐうと唸って黙った。

 まさか漁業を提案されるとは。釣りすら一度もやったことがないので、いっぱいどころか1匹も獲れない気がする。教えて貰えばできるかもしれないけれど、私に漁を教えられる人間、または獣の民がいるのだろうか。


 ハチさんが黙ると、他の3人がまたヒソヒソ話をし始めた。私のすぐそばでやっているので声が聞こえてくるけれど、それがどう聞いても人語じゃない。カウカウ、とか、グルル、とか聞こえてくる。

 もしかして、ハチさんが舌ったらずなのは第二言語だからなのだろうか。村の人はどれくらい言葉を話せるのだろうか。


 右隣でクッキーをむしゃむしゃしていたニャニを見る。

 ニャニはこの言葉らしきものがわかるのだろうか。いざとなったら仲介に入ってほしいけれど、そもそも私はニャニの気持ちすら汲めていないしな……。

 とりあえず、ニタァと開いた口の中にもう一つクッキーを入れておいた。バランス崩しそうだから、片手を上げながら食べなくていい。


「リオ、森の生き物狩る?」

「いえ、狩りはやったことないので、多分できないかと」

「じゃあ、リオ、家作る。人間、頑丈な家作る」

「家も作ったことないですすいません」

「……リオ、人間の赤ちゃん? ハチ、赤ちゃん働かせない」

「赤ちゃんではないです……」


 ハチさんが困惑した顔で問いかけ、私は小さく否定した。

 流石に赤ちゃんではない。いや、赤ちゃんだったのかな。スキル的には赤ちゃんかもしれない。

 魚釣りとか家建設とかって、もしかして人として最低限のスキルなのだろうか。中央神殿では話題に出なかっただけで、誰でもやれて当然のことだったのかな。


 働けないなら出ていけとか言われたらどうしよう。ニャニと私、2人で生きていけるのだろうか。


「まあまあ、ハチは人間を見たことがないからな」

 そう宥めるように言ったのは、灰色の毛並みをした狼だった。目が水色で瞳孔が目立ち、いかにも童話で子供を食べる役ですみたいな外見をしているけれど、その話し声は落ち着いていて喋りも流暢だった。


「ラーラーの客人よ、私は村の長老だ」

「リオです。よろしくお願いします」

「リオ。ふむ。見たところ、リオは人間のメスだね」


 灰色の鼻先が近付いてきて、確認するように問う。頷くと、大小のクマとトラがおおお、と感心した声を上げた。


「小さいが、まだ子供かな」

「いえ……えーっと……幼くはないですけど、まだ成人はしていません」


 日本の暦通りに計算するとあと一、二ヶ月で誕生日が来る計算だけれど、まだ未成年なのは確かだ。

 そう答えると、会話を見守る三者はさすがだとかすごいとか声を上げていた。


「そうか、では仕事はしていたのかね」

「あ、はい。あの、前は事務……書類の整理とか、客の応対とかしてました。最近はえーっと、祈りで神様の力を伝えて、土地を潤したりなどを……」


 救世主やってました、って普通に言いづらい。何この人ってなりそうで。

 なのでやんわり伝えると、長老たちはまたカウカウグルグルとしばらくなにか話した。

 私が突出してできることといえば、歌によって神様の伝達係をすることくらいだ。なのでどちらかというと、狩りよりも畑とかその辺に配置してほしい。どう見ても肉食獣のメンバーなので、植物性の食品が必要なのかはわからないけれども。


 雨とか降らせますとアピールすべきか迷っていると、ヒソヒソが終わって長老がまた口を開いた。


「紙の仕事はここではほとんどない。だからリオは他のことをやってもらうことになるね。リオはまだ大人でないから、できる仕事を少しずつ探しておこう」

「あっ、はい」

「足もケガしているようだし、今日はもうハチの家で休みなさい」


 靴が片方脱げたままで森を歩いたからか、片方が若干ヒリヒリしていて、靴を履いていた方も靴擦れを起こしていた。それに気付いていたようで、長老は優しくそう言って犬と似た形の手で私の肩を叩いた。

 ハチさんが頷いて、こっちだと案内するように家を出ていく。


「ありがとうございました」

「また明日会おう」

「はい」


 私は頭を下げてハチさんの後を追い、ニャニもそれに続いた。とりあえず長老も私をこの村においてくれる気らしい。

 それはありがたいんだけど、なんか今私のスキルについて軽ーくスルーされたな。

 この近辺では救世主的な存在は重要視されていないのだろうか。


 救世主を狙うシーリース人のことを考えると、変に関心を持たれるよりは気にされないレベルの方がいいのかもしれない。

 けれど、それは同時に私の唯一の取り柄がないも同然となることも意味しているわけで。事務もないとなれば、未経験の仕事しかないわけで。


 大丈夫かな。

 若干の不安を抱きつつ、私とニャニはハチさんの後をついていった。






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