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フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう30

 暴徒というと街にいるような人が来ているのかなと思ったけれど、多くの人が鎧を着て武器を持っていた。ひときわ屈強な人たちに囲まれているのがルイドー君だ。

 後ろ手に縛られ、両側の人物に引き摺られるようにしてやってくるルイドー君は、捕まる際にやられたのか頬や額が赤く腫れ、右側から鼻血が出ていた。ギラギラした目で私を見る。


「おいお前!! 何こんなとこでぼーっとしてる! さっさと逃げろバカ!!」


 元気そうで何よりである。

 叫んだことによって両側の人から押されて転んでいたけれど、顔を起こしたルイドー君は「穢らわしい手で触れるんじゃねえ」と威嚇して殴られていた。

 元気なのは何よりだけど、もうちょっと大人しくしたほうがいいと思う。


 普段ならすかさずシャーッとしに来るニャニも、この混乱のせいかやって来ない。アマンダさんの見送りに行っているのかもしれないなと思った。


「リオ、下がってください」


 ちょうど渡り廊下の真ん中くらいにいた私をさらに奥神殿に近付けるように、ルルさんが正面を睨みながら私に言った。けれどルイドー君を人質に取った人たちも、距離を詰めるように渡り廊下をこちらへ向かって進んでくる。


 武器を持った集団に詰め寄られると流石に怖い。

 後退りながら彼らを見て、私は気が付いた。


「ルルさん、あの人、」

「はい。どうやら脱走したようですね」


 ルルさんに対して武器を構える一列目の3人、その後ろでルイドー君と並ぶ位置にいる人物に見覚えがあった。

 お祭りの時に私を襲撃し、捕縛されたシーリース人のうちのひとり。代表として、情報を与える代わりに私との会話を望んだ人物。

 この中央神殿の地下で拘置された後、西の小神殿へ移送されていたはずだ。


「どうやって……」

「救世主の導きによって力を得たのち、正義を実行した。力を与えたもうた救世主に感謝し、我が国へお招きする」


 紺色の目を細め、その男性が口を開いた。周囲の人間の中にも賛同するような声を上げている人がいることから、シーリース人が少なからず混ざっていることがわかる。


「いや、別にあなたを導いたわけじゃないから」

「シーリース人である私の力が増えたのは、神とやらがそれをお望みだということだろう。疫病がマルギルカを襲ったのも、神が正義を下すためだ。救世主を正当な召喚国から盗み出した罪を償わぬ限り病は消えないだろう」


 その言葉には、賛同のほかにこちらへ投げかけられる声が続いた。

 災いを呼び込んだのは神殿だ、薬草を寄越せ、救世主をシーリースへ渡せ。金髪碧眼の人物がいることから、なじっている人の中にはエルフもいる。


「勝手に嘘言わないで! この疫病は神様がやったんじゃない! てかあの神様はそんなことするタイプの人じゃないから!」


 居酒屋スタイルを好む神様は、正義だの罰だのと言うようなタイプではない。疫病に罹った人が増えたのは、単純に空気感染するタイプのウィルスだからだ。どれだけ祈ったって神様が許したって、サカサヒカゲソウの服用と感染症対策をしなければ患者は減らなかっただろう。


 リオ、と小さく呼んだルルさんが腕の後ろ側で私を下がるよう押す。その腕を掴みつつ、私は迫ってくる人たちを睨んだ。


「……そもそも、今まで流行らなかった病気が、なんでシーリースの山奥にしかなかった病気がマキルカで流行るの?」

「それこそ神の意志だろう」

「あなた達の意志じゃないの?」


 不敵に笑う男を睨む。

 シーリースや他の国がある人間の大陸と、このマキルカがあるエルフの大陸の間には大きな溝がある。文字通り深い深い溝は、両大陸に渡された細長い橋を渡らないと歩いてこちらへは来られない。そして、大陸に面した場所からこの中央神殿がある街までもさらに距離がある。

 仮にシーリースで感染した人がこの大陸へウイルスを持ち込んだのだとしたら、真っ先に大陸の淵にある街で感染が広がるはずだ。けれど、国境の街で酷い被害が出たという報告は聞いていない。


 証拠がないのに断定するわけにはいかない。

 けれど、シーリースは、特に今不敵に笑っているあの人は怪しい部分が多すぎる。


「神様や私を言い訳に使わないで、悪いことするのはやめて帰って。こんなことをしてもシーリースが良くなるわけじゃないと思う」

「言っただろう、やってみなければわからぬことだと。さあ救世主、どうする? このマルギルカを見捨ててまで我らの申し出を断るか?」


 ルイドー君が「俺のことは気にせずにさっさと行け」と叫び、口を塞がれていた。そしてその首元に剣が当てられる。それと同時にルルさんが剣を握り直し、私を庇うようにしていた腕を引いて柄に添えた。


「リオ、お願いします。どうぞ祈りの間へ。あなたに戦うところは見せたくない」


 後退りしていたルルさんがその足を止め、一歩踏み出したことで、暴徒の人たちも武器を構えた。ルイドー君は猿轡をされてもまだ私を睨んで何か唸っている。

 その全てをみやって、私は決心した。


「わかった」






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