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フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう29

 人質って、ドラマくらいでしか見たことないけれど、これで合ってるんだろうか。

 ルルさんに背を向けてくっつくような形で立ちつつちょっと疑問に思った。


「あ、刃物いるか。ルルさん、剣をこう……なんかこうやって私の首にあてて」

「リオ、あなたは……」


 ルルさんが飲み込んだ「バカなのですか?」という声は、なんか心の声的に聞こえてきた。これだけ一緒にいると言われたことのない言葉でもスルッと脳内再生できてしまうものなのである。


「向こうも救世主目当てなら、私が人質になってたら変な真似できないでしょ。ほら早く」

「ほらじゃありません。護衛する側である私がリオを人質に取ったところで、危害を加える気はないことなど相手もすぐにわかる筈です。そんなこと言ってないで奥神殿へ」

「だから剣でグわー!!」


 私が動く気がないとわかると、ルルさんは片眉を上げた後、ふっと屈んでひょいと私を担ぎ上げた。

 抱き上げたのではない。担ぎ上げたのである。ルルさんの腕が私の足を抱え、肩に私のお腹が、背中の方に私の上半身が来るように担いだ。そしてそのままスタスタと歩き始める。


「私、俵、違う!!」

「お腹に力を入れて静かにしていてください。気分が悪くなりにくいですよ」

「そんな担ぎ上げられる際のライフハックいらないからー! おろしてー!」


 ルルさんの背中をバシバシ叩いて抗議するけれど、全然聞いてない。そして効いてない。

 あと力を抜くと本当に肩がお腹を圧迫して辛い。かなり筋肉を使うけど、ぐっと背中とお腹に力を入れて上体を上げているのが一番辛くない体勢だった。何このいらない知識。


「ちょっとー! ルルさん!!」

「……」

「シカトー! 誰かー! ルイドー君ー!! 暴徒の皆さんー!! こっちですよー!」

「リオ、お静かに」

「やだー!!」


 私が叫び出すと、ルルさんがますます足を早めた。

 完全にデパートとかにいる駄々捏ねまくった子供とそれを回収する親の構図になっているけれど、私はこのまま奥神殿に放り込まれるわけにはいかない。足掻いてみるけれど、担がれている状態だと叫ぶことくらいしかできることがなかった。


「みんなー!! こっちに救世主がいまーす!! 救世主を担いでる人もいますー!!」


 アマンダさんと別れた階段とそれに続く廊下、もう一つの階段を挟んで、私たちが暮らす部屋がある廊下。遠ざかっていくそれらに向けて声を投げかけまくった。


 奥神殿へ続く渡り廊下へと出て扉を閉めると、ルルさんが舌打ちをして私を下ろした。担がれてルルさんの動きに揺られていたせいで足元がふわっふわしている。


「おぉう……」

「リオ、恨みますよ。奴らが来た」


 閉じられた両開きの扉、その境目に手を当ててから、ルルさんはスラッと腰の剣を抜いた。それから私の腰を左腕で抱えるようにしながら、後ずさるように渡り廊下を渡る。沈む前の眩い太陽で染められて、白い石でできた渡り廊下もその周囲もオレンジ色に光っているようだった。


「このまま奥神殿へと逃げ込むか、ここで私があなたを守るために人々と斬り結ぶところを見るか、覚悟を決めてください」

「究極の選択過ぎる」


 ふわふわした足取りで後ろ歩きは辛い。ズリズリ引き摺られるように下がりながら、私はルルさんの腰にしがみついた。

 どっちも選びたくない。


「ちなみに私はあなたにしがみつかれたままでも人を殺すことはできます。返り血を浴びますよ」

「さすが剣の達人だけあるねえ!」


 返り血は嫌だ。

 もう大人しく奥神殿に入った方がいいのか。でも、私が逃げ込んだところで、ルルさんがここで防衛線を張ることに変わりはない。ルルさんがおそらく剣を使うことも、ルイドー君が人質に取られていることも変わらない。

 全部が終わるまで引き篭もってることは簡単だけども、もしここで私にできることがあるなら、それは選びたくない。


 ルルさんにしがみつきながらズリズリと奥神殿へ近付いてると、ふっと何かがフラッシュのように光ったような気がした。視線を向けると、また弱い光が。

 それは今しがた通ってきた、渡り廊下と中央神殿を繋ぐ扉から発せられていた。何度かの明滅の後に、ガラスが割れるような大きな音がして扉が開かれる。

 ルルさんが後ずさる足を止めて、剣を構え直した。左手で私をぐっと背後へと押しやる。


「ここは聖域だ! 何人なんぴとたりともそれを穢すことは許されない!」


 ルルさんが声を上げた先、開かれた扉の向こうで、引き摺られるルイドー君と目が合った。






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