フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう24
並んで座ってもぐもぐ食べる。限りなくトルティーヤみたいな薄くて柔らかい生地にお肉やら野菜やらを巻いた食べ物は、持つ部分に葉っぱがまかれていてそれがなんとなくかわいい。
祈りの間の前に並べて置かれた椅子は、シュイさんたちがアマンダさんを護衛していたときに置いたものらしい。三つ置かれたその椅子の右から私、ルルさん、食事を持ってきたバスケットが置かれていた。ちなみに私とルルさんの間にはヌーちゃんが挟まっておこぼれをもらっている。
「いよいよ最終日だねえ」
「リオ、お茶のおかわりはいかがですか?」
「もらう」
おちょこみたいな小さな土器に、まだ湯気の立つお茶が注がれた。ヌーちゃんが背伸びして嗅いだので、ルルさんはもうひとつ茶器を取り出してお茶を注ぐ。
日中は篭って歌い、サカサヒカゲソウとフコの量産に着手して5日目。
朝食と夕食の席でしか会わないけれどアマンダさんも元気で、帰還のための魔術陣も順調に描かれているらしい。
魔術陣は、結局中央神殿の屋上で描かれることになったようだ。
日中アマンダさんと私が歌っているので、この五日間はずっと雨が降っている。サカサヒカゲソウを干せないので屋上には警備の神殿騎士しかおらず、また大量に作られるサカサヒカゲソウを干す作業を神殿全体でやってもらっているのでふらっと近付く人もいない。
シュイさんたち三姉妹によると、アマンダさんの歌が聞こえる場所で作業しているせいか疲労も少なく、当初の予定よりはやや早めに記述できているそうだ。
雨だとインクが流されそうだと思ったけれど、そういうので流されるものじゃないらしい。私を召喚した魔術陣もシーリースからここへ運んだとか言っていたし、ただのペンキなどではないようだ。
「先程リーリールイが報告に来たところによると、本日の夕方頃に陣が完成するそうです。そのままアマンダ様をお送りできるようですから、今日は早めに夕食を摂りましょう。日暮れ前にお送りした方が良いでしょうから」
「わかった。そっか、もうアマンダさん帰っちゃうのか……」
いいことだけど、寂しい。
3ヶ月にも満たないほどの短い間だったし、その間もずっと一緒というわけではなかったけど、アマンダさんとの暮らしは楽しかった。食べ物の説明をしたり、アマンダさんの疑問をルルさんたちに訊いたり、神獣たちと仲良くしたり。
特にニャニは可愛がってもらえていたので、お別れが寂しいだろうな。
「いやルルさん、ナチュラルに私が帰らない前提だったよね」
「はい」
「はいって」
「私は帰らないでくださいと懇願しましたし、リオはそれを撥ね退けて帰ることはないと信じています」
相変わらず自信満々だ。ルルさんが慌てたり不安になってるとこなんてほとんど見たことないしな。
まあ正直、私もそんなに悩んでいるわけではない。アマンダさんを見送ろうとした瞬間に猛烈なホームシックにかかってしまわない限り、多分この世界にいることになるだろう。
残ることを決めたというよりは、どっちでもいいという感じかもしれない。
どっちでもいいけど、こっちにはルルさんがいて、残ってほしいと言ってくれている。だから天秤がこっちに傾いている感じだ。
隣を見上げると、ルルさんがいつものように微笑んでいた。
「リオがもし帰るなら、私も連れていってもらうだけですから大丈夫ですよ」
「う……うん……」
相変わらず真剣で言ってる感がすごい。
ルルさんが日本に来るよりは、ここで一緒に暮らした方が絶対に色々と楽そうだ。
「そういえばリオ、先日行った店の菓子が届きました」
「えっほんとに? もう無理かなと思ってたけど」
ミニチュアなお菓子を作るあのカフェは、疫病に罹ったお客さんがいたせいか店員さんにも罹患者が出てしまい、しばらく店を閉じているということだった。なのでアマンダさんともう一度行くこともお菓子を買うこともできないだろうと思っていたけれど、ルルさんが手を回してくれたらしい。
「東の方にも同じ店がありまして、訊いてみるとぜひにと届けてくれました」
「わー、ありがたいねえ」
地球に異世界土産として持っていってもらってもいいかもしれない。歌っては寝る日々でろくに会話もできないままお別れすることになりそうで寂しかったけれど、いい餞別になりそうだ。
「ありがとう、ルルさん。あともうちょっと頑張ろうね」
「はい」
あと数時間。できるだけたくさん歌って、それからアマンダさんを送り出そう。
お茶を飲み終わって、私は立ち上がった。




