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フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう21

 シュイさんのおでこに、手のひらをペタンと付ける。魔術陣が水性インクで描いた落書きのごとくシュイさんのおでこに写り、滲みながら消えていった。


「……」

「え、どう? シュイさん大丈夫?」

「……」


 視線をやや上、虚空を眺めるような目でシュイさんが小さく頷いた。若干口も開いている。痛みがないか、魔術陣が本当に伝わったのか訊くと頷きが返ってくるので聞こえてはいるようだけれど、なんかちょっと怖い。


「リオさま、次はわたくしに」

「私にも」

「いや待ってこれ本当に大丈夫なの? やばいことなってない?」


 急かされてミムさんとリーリールイさんにも手のひらをペタッとしたけど、同じような反応で心配になってきた。脳の書き換えとかされてやばいことになっていないよね。


「リオさま、それでは私めにもお願い致します」


 送還の魔術陣は、中央神殿の神官も兼ねる巫女三姉妹と、長老のうちのひとりであるおじいさんの4人に伝えることになった。

 三姉妹でコレなのに微妙にプルプルしてるおじいさんにやって大丈夫なのだろうか。ルルさんを見るも、大丈夫だと言わんばかりに頷かれただけだった。


 プルプルしている長老のおでこにそっと手のひらを当てる。2秒くらい当ててから手を退けると、おじいさんのプルプルが止まった。

 これは救急車案件では。

 ギョッとしながら見守っていると、おじいさんがしょぼしょぼさせていた目をカッと見開く。


「……ほっほおおおおおおぉ〜!!」

「えっなに怖っ!!」

「なるほどなるほど……!! どうりで記録に残る魔術陣では腑に落ちぬことが……ほほほおおおおお〜〜」


 おじいさん、なんか見えてる。

 ただしそれはお迎えの類ではなく、魔術陣のようだ。頭に浮かんだ魔術陣を解読してあれこれ言っているらしい。ギリ救急車回避案件だった。


「なんなの……魔術陣怖い……」

「複雑な記述を理解するのはかなり難しいと言いますし、帰還の魔術陣は召喚が禁じられたこともあって完全な形で残っているものはありませんから」


 長老と三姉妹が虚空を読み解いているので、ルルさんは私をソファへと座らせた。

 手のひらを見ると、神様が写した魔術陣が薄くなっている。落書きをして日にちが経ったみたいな状態である。まだ消えてはいないので他の人にも伝えられそうだけど、できればこの4人で終わりにしたかった。


 神様パワーだとはわかっていても、自分が手のひらを当てただけで人の様子が変わってしまうところを見ているとなんか怖い。

 普段ほんわかキャッキャしている三姉妹が揃って虚空を見つめているのがなんだか不気味でホラーな感じがするのだ。アマンダさんも不安そうにニャニを膝の上に乗せているし、私としてはその光景も怖い。どっちを怖がればいいのかわからない状態である。


 私は無難にふわかわ癒し系食い意地アニマルであるヌーちゃんを抱っこしつつ見守り、大体30分くらいしてから4人はほぼ普通の状態に戻った。


「我々4人で記述するとなると、早くても5日ほどはかかるでしょうな」


 またぷるぷるし始めた長老の言葉に、三姉妹も頷いている。


「日中のみとしてもかかりきりになりますと、アマンダ様の警備は復帰するジュシスカに任せきりになりますわね」

「人に知らせず行うのでしたら、屋上が一番良いのではないでしょうか」

「そうなると、サカサヒカゲソウの日干しが難しくなりますわ」

「シーリースの襲撃も警戒せねばなりません」


 私がやってきた召喚陣は、シーリースから持ってきたあとこの中央神殿の広間に置かれていたらしい。力を込めたり記述を訂正したりした期間があったのでそこそこの人たちに知られていたらしいけれど、そのときは特に危険もなかったので気付かれても問題はなかった。

 でも今あれこれ話題になっているアマンダさんが帰還するとなると、神殿の中でも歓迎しない人もいるかもしれないし、シーリースの人なら行動に起こしかねない。

 確実にアマンダさんを返すには、可能な限り知られないようにことを進める必要がある。


 あれこれ協議をするのを眺めながら、私はヌーちゃんを撫でつつ神様の言葉を思い出していた。


 どこで暮らすかより自分が何をなすべきか、それが問題だ。


 何をすべきかはわからない。今までそんな責任感のある人生は送ってこなかったし、日本では命令された仕事をこなすのがせいぜいだった。

 この世界ではとりあえずカラオケをして神様の力を伝えるのが使命っちゃ使命だったのだろうけれど、それも危急のものではなくなった。


 じゃあやりたいことはと考えると、今はアマンダさんがいい感じにこの世界を楽しんでくれて何事もなく帰れたらいいなとは思う。でもそのことについて、私ができることはぶっちゃけ何もない。というか、何かするとルルさんたちが私を守るためにあれこれしないといけないので、私は動かないのがベストくらいの勢いである。


 この世界の人たちとも仲良くなりたいとは思っているけれど、ルルさんたち守ってくれている人にまで負担をかけてするほど急いでいることではない。メルヘンやパステルとも遊びたいけれど、今はそういう時間を取れるような状況じゃない。


 今の私は何がしたくて、私には何ができるのだろう。


「Rio」

「はいウワ怖っ!!」


 いつのまにかアマンダさんが近付いてきていて、私を覗き込んだ。

 ニャニを抱っこしたまま。

 いやそれ抱っこするサイズじゃないでしょ。大人しくてもビジュアル的にアウトでしょ。 ニャニもなにご満悦みたいな顔で抱っこされてるのか。尻尾引きずってるし。


「Let it go、アマンダさん」


 私史上一番自然に英語が出た。発音もとてもナチュラルだったせいか、アマンダさんが大人しくニャニを遠ざけてくれた。初めて生きた英語が私の中に根付いた気がする。


 ズルズルとゆっくり歩いていくニャニを見送ってから、アマンダさんは私に奥神殿へ行こうと言った。






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