フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう14
一夜明け、私もルルさんもルイドー君もピンピンしていたので感染ってはいなかったみたいだと判断し、私は昼食を挟みつつ夕方までゆったりめにカラオケをして過ごした。
アマンダさんはまだ風邪は引いているものの、熱はちょっと下がったらしい。
その代わりに発熱したと報告されたのがジュシスカさんだった。
「しばらく護衛を外れることになり、申し訳ないと言っていたようです」
「いやそんなの全然気にしないでくれていいんだけど、大丈夫かな。薬とか飲んだって?」
「熱冷ましは飲んだようですね。咳止めの薬草は眠気を強く催すため騎士はあまり好みませんので、飲んではいないのではないかと」
ジュシスカさんは今、西の小神殿にいるらしい。
昨日のカフェの一件のあと、中央神殿で間違っても感染拡大させないようにとそちらへ身を寄せていたので、そのままそこで休んでいるそうだ。前に仕えていた神殿でもあるので知り合いが多く、看病も割と手厚くされているらしい。
ジュシスカさんの伝言を小神殿の巫女さんが届け、ルイドー君を挟んでルルさんが受け取り、そして私に報告された。隔離体制がすごい。
「そっか……早く治るといいね。フコ食べるかな? いっぱいできたから届けて貰えると嬉しいんだけど」
「伝言した者がまだ休んでいるでしょうから、言付けておきましょう」
栄養の多いフコは、アボカドをもうちょっともったりさせたような食感なので割と食べやすい果物である。味が甘ったるくてクドいところがあるけれど、すりつぶして乾燥させたものを粉にすれば保存がきくし、それに水や牛乳を加えてそのまま飲んだり、固めに練って焼いたりと食べ方のバリエーションも豊富だ。
アマンダさんに栄養取ってもらおうと奥神殿にいっぱい持ち込んだので運搬が大変だったけれど、ジュシスカさんもいっぱい食べて早めに元気になってほしい。
「伝言してくれた巫女さんって女の人かな? 流石に籠満杯に渡したら重いよね……看病も大変だろうしみんなで食べてほしいけど、小神殿って何人くらい住んでるの?」
荷車いっぱいに運んでもらったら逆に迷惑だろうか。でも少量を何度も運んでもらうのも手間だし。
悩みつつ顔を見上げると、ルルさんは何か考え込んでいるようだった。
「すみませんリオ、もう一度言っていただけますか?」
「フコを小神殿のみんなにあげたいなって……ジュシスカさん、そんなに体調悪いの?」
ルイドー君経由で報告を受けてからというもの、ルルさんの表情が晴れない。
普段は割とドライな感じだけどルルさんとジュシスカさんは同じ小神殿の出身だし、やっぱり心配なのかもしれない。
訊ねると、ルルさんは安心させるように私に微笑んだ。
「いえ、今のところは少し重い風邪くらいのようです」
「しかし?」
「……しかし、体を鍛え力も多い者にしては、症状が出たのが早く、治りも遅いなと」
厳しい鍛錬を欠かさない神殿騎士は、風邪知らずみたいな人が多いらしい。真冬に川に飛び込むような羽目になって風邪を引いたとしても、一日経てば大体治りかけるような猛者が多いそうだ。スゴイ世界である。
症状を自覚したころがピークで、あとは大体治っていくことが多いにもかかわらず、ジュシスカさんは一日経って悪化した。同じ神殿騎士として長く知っているルルさんでも、そんなに長くジュシスカさんが寝込んだところを見るのは今回が初めてなのだそうだ。
長くっていってもまだ二日目だし、普通の人間からするとそんなに心配するレベルではないと思うけれど、神殿騎士の超健康さを知ると確かに心配になる。
「ひどい風邪なのかな。アマンダさんは良くなってるみたいだから、別のやつなのかも」
「ええ、リオや我々が無事なのがせめてもの幸いですが、街で流行るようであれば外出を少し控えたほうがいいかもしれません」
昨日見た限りでは街に病気の人は多くはなさそうだったけれど、裏通りを通ったしお店も個室に通してもらったのでよくわからない。
私が普段過ごしている場所とは区画が離れているけれど、中央神殿には普通の人も参拝に来る。もし街でその重い風邪が流行ったらそこも制限するかもしれないとルルさんは言った。
アマンダさんが元気になったら一緒に街へ出掛けたかったけれど、もしかしたら延期になるかもしれない。
「もう街中にフコを配りまくって人々の抵抗力をあげるべきなのでは……!!」
「素晴らしい考えではありますが、そのためにリオが頑張り過ぎて体調を崩されることのありませんよう、くれぐれも気をつけましょう」
「あ、ハイ」
今日はもう結構歌ったので、ルルさん判断でストップ。
収穫したフコをアマンダさんと西の小神殿に配るように手配をしてもらって、私は夕食を食べることになった。




