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フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう8

 祭りの際に襲撃した人たちは、時期を見てシーリースへと送り返す予定だったらしい。けれどあの代表の人が力を強めているということが判明して、その時期は伸ばされることになった。最低でも地球に送還する儀式が終わるまでは、彼らは留置される。


「シーリース、今どうなってるのかなあ。最近アマンダさんと一緒に頑張ってるし、シーリースもちょっとは良くなってるといいけど」

「今も僅かずつですが良くはなっていると思いますよ。ただ、仮に他の地と同じように神の御力が満ちたとして、リオを狙わなくなるという確証はありません」

「えっなんで?」


 私たち異世界人は、神様とこの世界を繋ぐパイプ役になれるので救世主様とか呼ばれているけれど、私たちが祈れば祈るほど確実にこの世界が豊かになるというわけではない。人も自然も無限に豊かになるなんてことはありえないからだ。例えば水だってなければみんな死ぬけど、ありすぎても当然死ぬ。


 この世界が滅びかけていたから、今は元の状態に戻りつつあることでかなり豊かになっているように感じる。けれど、みんなが余裕を持って暮らせるような世界になれば、多分私がどれだけ祈ろうともそれ以上良くなることはない。

 だからそうなった時点で私は救世主としての価値がなくなるも同然なんだけれど、シーリースは何を目的に狙うというのだろうか。無駄飯ぐらいを養ってくれるほど優しくはなさそうだけども。


「現在、リオを狙うのは主に王宮側の人間ですが、豊かになれば今度は民があなたを狙うでしょう」

「どゆこと」

「救世主という名は響きがいい。革命を求める指導者にとっては、是非とも味方に付けたい存在になる筈です」


 この世界を救ってくれた救世主サマが、なななんと! 我々を支持しているのですー!! どうです皆さん、王政廃止に一口乗ってみませんか。

 みたいな感じか。


「えええー……、私何もできないけど。馬もまだ全然乗れないし」

「むしろその方が好都合でしょうね。目立つ駒としては是非とも欲しがるでしょうが、自ら動く本物の救世主となれば、むしろ目障りだと思うでしょうし」

「怖っ!! それ始末されるやつじゃない?」

「その可能性も高いでしょう。利用することを考えて人を求める者は、価値がない者に対しては非人道的なことをしかねません」


 どうやらシーリースがめちゃくちゃ豊かになり、革命が起きたりなんかして良い感じの政治が行われるようになるまで、私が彼の地に旅行に行ける日は来ないようだ。

 旅行そんなに好きでもないんで別に困らないけども。


「ともかく今、我々は確実に、安全にアマンダ様をお戻しするために力を尽くしています。リオもどうか警戒を怠りませんよう」

「はーい」


 私が良い子のお返事をすると、部屋の隅にいたニャニがさりげなく同じタイミングで手を挙げていた。私は見ないふりをすることにした。いつものことである。


「ねえルルさん」

「はい」

「私が帰ることを可能性に入れずに喋ってるよね」

「ええ、帰らないでほしいですから」


 食い気味に頷かれた。


「もし、もしの話なんだけど」

「もしもクソもありません」

「クソ?!」


 ルルさんの口からとんでもない単語が出た。


「仮に、仮にね? 私が帰ったらどうする?」

「共に行きます」

「え?!」


 当然のことのようにあっさりとルルさんが言う。

 いや、全然知らない世界に自分から行くってすごくない? もしもの話だとしてもそんなに迷いないスピードで、曇りなきまなこで言い切るのがすごい。そしてルルさんならやりそうと思わせる潔さもすごい。


「私はこの場所ではあなたを幸せにする自信がありますからその選択はあまりしたくありませんが、リオがどうしても元の世界へ戻りたいと言うのであれば、私も勿論付いていきます」

「いやでも結構大変だよ? ここみたいに衣食住保障してくれるところなんてないし、働かないといけないだろうけど、戸籍ないと色々難しいだろうし」

「何とでもなるでしょう。どんなことでもあなたと離れるよりましです」

「……」


 物凄い豪速球ストレートである。

 私も女子のはしくれとして、そんなことを言われて嬉しくないはずはない。

 けれど、そこまで言い切れるほどの気持ちを私はルルさんに対して持てていないと思う。だから何となく気後れするというか、申し訳ないというか。


「大丈夫ですよ。リオが帰らなければ良い話です」

「いやまあそれはそうなんだけど」


 この直球さを持ってすれば、地球での求職活動もさほど難しくはないかもしれないなと思ってしまった。ルルさん熊狩れるしな。最近猟師とか人手不足らしいし。


「えーと、ともかく色々気を付けながら頑張るということで」

「はい。アマンダ様を無事に送り帰すまで、共に頑張りましょうね」


 にっこりと笑ったルルさんが、立ち上がって私を抱きしめてから寝る準備を始めた。






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