フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう7
「リオたちの祈りによりこの世界には神の御力が満ち、神官など力の強い者もその影響を受けています」
地球に帰る準備をするために、私とアマンダさんは日々頑張って奥神殿で祈りというかカラオケをしている。私が来てから三ヶ月くらいも結構歌いまくっていたのでそれで7割くらいは持ち直していたけれど、アマンダさんが来てからは枯れかけていたこの世界はますます潤いを取り戻し、大部分は元の状態へと戻りつつあるらしい。
地球に戻るために必要なのは、そうやって回復した世界と、「力」を十分に蓄えた人。魔術とかを使うために必要な「力」を多く持っている人は、このマキルカでは大体神殿に仕えていて、特に強い人は神官になる。だから神官に手伝ってもらうことで地球へと帰る準備が整うのだ。
よくわからないけれど、「力」というのは何というか体力っぽい感じで、いつも通りに過ごしていればほとんど変化はなく、使った分はそれだけ減る。もし使って減ったとしてももしばらく休養すればある程度は元に戻るらしい。そして修練を積むことによって、今よりもっと多くの「力」を蓄えられるようになったりするらしい。
修練は時間をかけてもほんの少し力を増やすくらいらしいのだけれど、私たちがいる中央神殿に勤めている神官は最近、修練以上に特に力が体に溜まっていくのを実感しているそうだ。
「この世界が滅びに向かうにつれ、使える力が減っているという説もありました。神の御力が満ちたために、その分が戻っているのかもしれません」
「へえ」
食べ物が少ない状態だったので体力回復にも限界があったけれど、いっぱい食べられる今では全快できるようになったという感じだろうか。
「力は使い過ぎると体調に影響を及ぼしたり、最悪の場合には死に至ることもあります。そのためできるだけ影響が少ないように、アマンダ様の帰還を手助けする者を神官から選出している最中です」
サラッと私が帰らない前提で話したルルさんであった。
神官は力が多いけれど、最近は神様のおかげでもっと増えている。伸び代は人によって違うので、元の力の多さだけではなく成長度合いも見つつ選ぶことにしているようだ。
「リオを呼び寄せた際に力を貸したのは、長い時間をかけて修練を積んだ長老たちです。多くの力を使ったためまだ回復途中ですが、彼らが力を取り戻すよりも、若い神官が力を伸ばす速度の方が早い。ですから、恐らくは若い神官が帰還を手助けすることになるでしょう」
「お年寄りに頑張ってもらうより安心だもんねえ」
使い過ぎると死ぬようなものなので、できるだけ元気な人にやってもらった方がこっちとしても安心できる。もし地球に帰れたとしても、帰してくれた人たちが死んだとなると全然喜べないだろうし。
「特に力を得ている者の中に、シュイたち三姉妹も入っています」
「えっ、そうなの?」
「はい。元はさほど多くはなかったのですが、リオがいらしてから力が強くなり、神官としての資格を得ることができました。アマンダ様について奥神殿へ入ることができるようになった今、順調に力を伸ばしているようです」
シュイさんたちはただアマンダさんの護衛として選ばれたのではなく、地球へ送還するための神官候補も兼ねていたらしい。彼女らは若く、そして三つ子のためか力も同調しやすい。力をしっかり蓄えられることができたら、この上ない適役なんだそうだ。
いつも楽しそうに笑っているけれど、実はすごい三姉妹である。刺繍もうまいし。
「もちろん、様々な状況を考えて多くの者が候補となっています。神の御力により多くの者が影響を受けていますから」
「頼もしいねえ」
「はい。しかし、御力の影響を受けているのは我々だけではありません」
明るい話から一転、ルルさんが真面目な顔に戻った。
「捕らえたシーリース人のうち、リオと話した者がいましたね」
「うん、アマンダさんを喚ぶって教えてくれた人ね」
「彼は人間ですが、どうやら御力の影響を強く受ける性質のようで、その身に多くの力を蓄え始めたと報告がありました」
一般に、人間はルルさんたちエルフよりも力が少ない人が多い。けれど稀に多い人もいて、そういう人の中にはマキルカの神殿に仕えて巫女になっている人もいた。
「彼は救世主をシーリースに迎えたがっている。アマンダ様の帰還を阻止しようとする可能性があります。そのため、彼が影響を受けにくいよう、この中央神殿から移送することにしました」
「そうだったんだ」
マキルカで保護してもらっていた私を攫おうとしたり、脅してシーリースに行かせようとした人である。現在二人いる救世主のうちのひとり、もしくは両方がこの世界から去るとなったら、何をしでかすかわからない。
私たちの邪魔をするかもしれないし、溜まった力でまた新しく異世界人を召喚しようとするかもしれないのだ。シーリースの人たちはあまり力を溜めて欲しくはないなと思うけれども、才能というのは言動の善悪に関係なくもたらされるものらしかった。




