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フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう6

 アマンダさんがごく軽く、鼻歌のように歌いながらニャニと遊んでいる。遊び歌のようで、お菓子を持った手をくるくると回しながらニャニに近付いていた。ニャニは手足で体を持ち上げた状態で、じっとそれを眺めていた。

 ルイドー君も、三姉妹も、ジュシスカさんも、その歌を息を呑んで聞いている。眩しそうに、圧倒されたように。三姉妹は、何か見えないものを追うように見上げていた。


 アマンダさん、やっぱり歌声そのものが物凄く綺麗だ。歌うのもすごく上手いけれど、声質は天性のものだろう。もっと聴いていたいと思わせる声をしている。その才能を前に圧倒される感覚は、もはや戦慄といってもいいのかもしれない。


 あと、とうとうアマンダさんがニャニの鼻先に触ったのもかなり戦慄する事態である。でかいワニ触る度胸、すごくない? アマンダさんは選ばれし戦士か何かなの?

 ちょんと指で触れて、開けた口にお菓子を入れ、口を閉じたニャニの頭をそろっと撫でている。マジもんの動物好きである。


 アマンダさんが歌うのをやめても、ルイドー君たちはしばらくアマンダさんを見つめたまま動けないようだった。ニャニが上げた手にも触っていたアマンダさんが、静かになった部屋を不思議に思って顔を上げる。


「アマンダさん……ユーアーグレイト」

「Why great?」

「ユアソング、アメージング。アンドユア……ユア、タッチングニャニ。スーパーグレイト」


 相変わらず大雑把すぎて伝わらない英語選手権大会を一人で開催しているけれど、アマンダさんはよくわからないながらもセンキューと笑ってくれた。お菓子をもういくつか取って、またニャニのそばにしゃがみこむ。なんでや。何があんさんをそこまでニャニに駆り立てるんや。いやいいんだけども。

 勇気がぱないって英語でどう言うのかと悩んでいると、ルイドー君がはーっと息を吐いた。ジュシスカさんや三姉妹も溜息を吐いている。


「あれが救世主サマの歌声か……言い伝え通り、本当に眩しいくらいの力だな」

「アマンダさんの歌、すごく綺麗だよね」

「とても素敵な旋律でした……今でも神の御力が舞っているようです」

「あまりにも大きい祈りでした」


 ルルさん以外にはツンツンしちゃうルイドー君でさえ、感動した顔をしている。三姉妹はうっとりとアマンダさんを見つめ、シュイさんはそっと涙を拭いているようだった。常に世の中の不条理を憂いているような顔をしているジュシスカさんでさえ、その表情に感動が見えた。


「リオさま。ぜひ他の巫女にも歌をお聞かせ願えないか、訊いていただけませんでしょうか」

「いいよー」

「きっと皆の祈りにもよい影響を与えるはずです。あれほどの御力をあんなに軽やかに纏われて……」

「人々にこの恩恵をお与えくださったら、きっと大きな希望となりましょう」


 うっとりと夢見るように喋る三姉妹は、目が潤み頬が紅潮して大変可愛らしくなっていた。アマンダさんも美人だし、なんかこの空間ありがたい感じするな。ちらっとそう考えると、ヌーちゃんが同意したようなタイミングでキッと鳴いた。どうやら次のおやつを欲しがっているようだ。


「歌自体はいつも奥神殿で歌ってるけど、直接聞くとやっぱり違うの?」

「全く違います。神の御力がこの世界に降り注ぐ光景も大変美しいものですが、例えようもない旋律と共に流れる力のまばゆさ……」


 三姉妹はもう一度、同時にうっとりと溜息を吐いた。

 ルイドー君を見ると、なんだよと睨み返された。


「まああれだ、ものすごい力が溢れてる川の中に飛び込んだみたいな。立ってたらうっかり方向もわからなくなりそうなほど眩しかった」

「へえー」


 水の中は力が眩しくて泳げないってルルさんも言ってたなそういえば。私にとってはひたすら綺麗な歌声だったけれど、ルイドー君たちにとってはそれに加えて力の眩しさもプラスされていたようだ。歌だけでもすごいのに、そりゃ言葉もなくすだろう。

 その後もルイドー君たちはしっかり護衛の仕事をしつつ私たちと遊んでくれていたのだけれど、やはりどこかアマンダさんのすごさに衝撃を受けた余韻があるように見えた。




「……ということがあってね、また今度巫女さんたちのとこに行くことになったよ」

「そうでしたか」


 ルルさんが私の話を聞きながら、寝る前のお茶を淹れてくれる。

 結局ルルさんが戻ってきたのは日暮れ寸前で、そのままみんなで急ぎ気味のご飯、そしてお風呂、からの寝る準備となったのだった。アマンダさんが夜も少し歌うと言っていたので、今は三姉妹とともに奥神殿へ行っている。


「奥神殿が最も神に近しい場所とはいえ、救世主様の御力があればこの中央神殿や街でも変わらぬほど繋がることができるのでしょう」

「へえー、すごいねアマンダさん」

「リオがここで祈っても同じことになると思いますよ」


 ルルさんが湯気の立つカップを渡してくれながらそう言った。

 試してみたい気持ちがないでもないけれど、人前で歌うことを考えると無理すぎてナシだ。アマンダさんのあんな綺麗な歌を聴いた後であればなおさら聴いて欲しくない。そう言うと、ルルさんはそうでしょうねと微笑んだ。気遣いでも遠慮でもない、ただ同意したような声音だ。


「ちょうど馬に乗っているときに神の御力を感じたので、リオたちがやはり奥神殿へ行ったのではないかと心配してしまいました」

「行ってないよー。ジュシスカさんの負けず嫌いっぷりを見学してた」

「ええ、お言葉を守っていただいて良かったです」


 自分のカップを持って、ルルさんもソファに座る。割とくっついているので、落ち着くと落ち着かないが半々くらいな気分になった。


「そういえば、用事ってなんだったの? 私に教えたくない範囲のやつ?」


 ルルさんの安全センサーに引っかかると、おそらく話してはくれない。でも話してくれないことによって、やばいことだったんだなとはわかる。

 けれどルルさんはちょっと笑ってからいいえと答えた。最近緩んでいるセンサーによって、話してもいいレベルの内容だったらしい。


「シーリースに関することです。祭りの際に襲撃してきた犯人を覚えていますか?」

「うん、地下にいた人たちね」

「彼らを西の小神殿へ移送しました。より遠い神殿へ移す話も出ていますが、とりあえずの処置として」

「とりあえず」

「はい」


 すぐにでもここから引き離したほうが良いと判断したので。

 ルルさんはそう言ってから、話を区切るようにお茶を飲んだ。






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