フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう3
「ルイドーと何を話していたのですか?」
メルヘンがテンション上がり過ぎて危なくなってきたので、私たちは中庭を離れて中央神殿にある祈りの間へと来ていた。ちょうど巫女さんたちがお祈りをする時間なので、見学にどうですかとリーリールイさんたちが誘いに来てくれたからだ。
この世界の祈りである、現代舞踊のような唸りと踊りとなんか色々を巫女それぞれが体現している。楽器で演奏されるメロディも不定な感じでかなり斬新だけれど、アマンダさんはじっと眺めていた。すごい。私はどこを見ていいのか全然わからなくて挙動不審だったのに。
私には早過ぎる祈りの形態を壁際から見守っていると、隣にいたルルさんがそっと話しかけてきた。パステルに乗っていたので近付くとイチゴっぽい匂いがする。
「アマンダさん、乗馬すごい上手だねって。ルイドー君はなんか励ましてくれたみたい」
「ルイドーには話したのですか? ここ最近寝るのが遅くなっている原因について」
お祈りの邪魔をしないようにルルさんは小声だけれど、私にしっかり聞こえるくらいには音量があった。
どうやら毎日ニャニとぐるぐるしていることがバレていたらしい。
「なんで知ってるの? 覗いた?」
「いえ、控えの部屋にいると足音が聞こえますから」
「ルルさん、耳めっちゃいいよね」
私の寝室は、廊下から入ると一旦小部屋を通ってからベッドのある大きい部屋に入る。小部屋といっても私が前に住んでいたワンルームほどはあるし、ドアもきちんと厚みのあるものだ。私は小部屋の音を寝室側から聞いたことがない。
一人だからって迂闊なことはできないな。何度かラジオ体操やったけど見逃してほしい。
「ルイドー君はこう……私側の人っぽいというか」
「リオ側?」
「うん、まだまだ修行が足りない側」
ルルさんは、みっともないところを見せたくないという気持ちも大きいけれど、どちらかというと才能型というか、アマンダさんと同じタイプっぽいところがあるので悩みを打ち明けにくいのかもしれないと思った。
なんでもできてしまう人からすればなんで悩むのかわからないと感じるかもしれないし、そう言われたとしたら私のメンタルが死ぬ。そして嫉妬が不死鳥のように燃え上がる。
やっぱり私は見栄っ張りというか、負けず嫌いなところがあるようだ。
「リオ、私もまだまだ至らないところが沢山ありますから、リオがそちら側であれば私も同じです」
「ソウカナー」
「はい。しかし、特にリオには未熟なところを見せたくないので、そう見えにくいかもしれません」
隣を見ると、ルルさんが微笑んでいた。
こちらに語りかけるために、少し横に傾いている。そのせいで金髪がさらっと流れていて、窓から入る光を虹色に弾いている。
「己の得意なことでも、さらに上の者がいることがあります。しかし、誰しも得意不得意はあり、その人にもできないことはあります。どうぞ、線引きをしないでください」
そっと手を握ってきたルルさんの微笑みが、ほんのちょっとだけ寂しそうに見えた。
ルルさんが指摘した通り、私は最近アマンダさんに対して才能があるからと嫉妬混じりに一線を引いていたところがある。ルルさんに対しても、すごいし私の悩みなんか些細なこと過ぎるだろうなとか、そう思って話さなかった。
もし私が同じように線を引かれると寂しいだろう。
救世主様と崇められたことと同じだ。悪意があってやっているのではない分、線を引かれた側としては言い出しにくい。
アマンダさんもそう感じただろうか。なんだか申し訳なくなった。
そしてここ最近、ルルさんとの対話をやや避け気味になっていたのを反省した。手を握り返すと、ルルさんの微笑みがいつものものに変わる。
「そうだよね、ごめんなさい。なんかすごいところを見ると、尊敬とか嫉妬とかでこう、遠い人に思えてしまうというか」
「その気持ちはわかりますよ。私もこの世界を救ってくれたリオに対して、己の矮小さを恥じて近寄りがたさを感じることがあります」
「ホントに? そんな素振り見たことないけどホントに?」
ルルさん、最初からグイグイ来てなかったっけ。最近は特にグイグイ度が増してるし。
若干納得のいかない部分があったものの、ルルさんも同じような気持ちになると思うとちょっと気持ちが楽になった。
歌については、アマンダさんへのうらやま悔しい気持ちがなくなることはないかもしれないけれど。他の人も同じ気持ちになるのかなと思うとなんかマシになった気もする。
ちゃんと向き合うにはやっぱり、自分の技術を磨くしかないんだろうけども。
「ルルさん、ありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言うと、ルルさんはにこりと笑った。そして同時に繋いでいた手を動かして、私の指の間にルルさんの指が入る。
いやなんでやねん。
突然の恋人繋ぎに抵抗しようとするも、ルルさんの手の大きさと握力で全然ほどけない。この人近寄りがたさとか絶対感じてないわ。
「あらあら」
「まあまあ」
「ふふふ」
結局、格闘しているうちにお祈りが終わり、シュイさんとミムさんとリーリールイさんの3人組に微笑ましく見られてしまった。
しばらくルルさんの手には近付かないでいきたい。




