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フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう2

 パッカパッカと軽快なリズムで、陽の光で輝く赤毛の髪とゆめかわな紫色をした尻尾が揺れる。それに並走するピンクの馬、パステルとそれに乗るルルさんは、しっかり様子を見てはいるものの、本人たちのそれほど心配はしていないようだ。


 アマンダさん、乗馬めっちゃうまい。なんかメルヘンがのびのび走ってる。

 馬に乗ったことあると言ってはいたけれど、これ乗ったことあるってレベルじゃない。なんか競技とかやってそう。ハードル越えそう。

 

 広めの中庭でぐるっと回るアマンダさんとメルヘンを眺めつつ、近付いてきたふたりに手を振る。

 乗馬ってなんかお金かかるとか聞いたことある。お金持ちがやってるイメージだし。アマンダさん、もしかしていいおうちの生まれなのかもしれない。食事もどことなく上品に食べてていつも見習おうと思うし。


 そりゃ帰りたいよね……。

 いや別に金持ちだから幸せというわけではないけど!

 私だってお金ないから帰るの迷ってるわけじゃ……それはちょっとあるけど!


「おい」

「うっ?」

「何変な顔してんだよ」


 隣に並んでいきなり声を掛けてきたのはルイドー君だった。

 今日はフィデジアさん、ルイドー君、そしてジュシスカさんが一緒に来てくれている。ピスクさんは大体部屋近くの見張りをしていることが多くて、退屈じゃないかと一度聞いたら「ニャニが通ってくれますので」といかつい顔で嬉しそうに言っていた。

 フィデジアさんは入り口近くの木陰で座ってもらっていて、ジュシスカさんはいつものように別の入り口の木陰で佇んでいる。


「さっきからコロコロコロコロ表情変えて、変なもんでも食ったのか」

「食べてないから」


 表情に出ていたのかと気を引き締めると、ルイドー君はちらっと私を見てからフンと鼻で笑い、ルルさんを目で追う仕事に戻る。


「どうせあっちの救世主サマの方が乗馬が上手いんで悔しいんだろ。メルヘンも生き生き走ってるしな」

「いや……うん……まあ……」


 ルイドー君から見てもメルヘンは楽しそうにしているようだ。

 悔しい、と思えるほど私の乗馬能力があるわけではないけれど、悔しい。メルヘン、あんなに私に懐いてたのに、やっぱり練習のときは気を遣って乗せてくれてたんだなとか、てか私よりも懐いてないかとか、私が名前付けてあげた馬なのにとか、また若干ウジウジしていたのは確かだ。

 あまり顔を合わせる時間のないルイドー君にすら見抜かれたのが恥ずかしい。ルルさんも何も言わないけど、多分お見通しなんだろうな。最近は夜さっさと部屋に引きこもってるし。ぐるぐるするためなんですけども。


「……アマンダさん、割となんでも上手なんだよね」

「まーなんでも器用な奴っているよな」

「私、そういうタイプではないなって」

「何やってもちょっとヘタクソな奴もいるよな」


 ルイドー君がハンとちょっと笑いながら言ったので、私は隣に軽く肘鉄した。倍になって返ってきた。離れた場所で日向ぼっこしていたニャニがこっちを向いてシャッと口を開けたので、私とルイドー君は行儀よく並んだ。


「つーか悔しいなら練習して上達すればいいだけだろ」

「それはそうなんですけどもさ」

「神殿騎士も生まれつき剣の才ある人間って多いけどさ、そういう人ばっかりが強いかっつうとそうでもないぞ。最初は弱い人間が練習しまくって元から上手い奴を超えるのも珍しくない」

「……例えば?」

「あー、ピスクとか。アイツ、神殿騎士になった頃は弱っちかったらしいぞ」


 ルイドー君によると、「体格が大きいと力で押すことが多くて剣筋が大雑把になりがち」らしい。フィデジアさんの部下になって、そういうところを克服するとメキメキ強くなってきたそうだ。


「ほら、アイツもああ見えて努力家だし」


 アイツ呼ばわりした相手はジュシスカさんである。ルイドー君、先輩に対する態度がテキトー過ぎるけど怒られたりしないのだろうか。神殿騎士の鍛錬、割と体育会系っぽいのに。


「ルルさんも」

「フィアルルー様は生まれながらの天才だな。大体なんでも器用にこなすし、剣はその上で努力してるからもう誰も勝てねえよ」

「……やっぱり生まれ持っての才能大事じゃん!」

「うるせえなそうやってウジウジしてる奴が一番弱っちいんだよアホ」


 肘打ちをして、倍返しされ、ニャニがシャッと口を開ける。今度は数歩近付いてきたので、私とルイドー君はまた大人しく並んだ。


「まあ、あの救世主サマはそのうち帰るんだろ? メルヘンもそのうち忘れるって」

「うん……」


 メルヘンは忘れても、私は多分ずっと覚えてると思う。

 アマンダさんの歌を聴いてから、自分で歌うときもなんか意識してしまってぎこちない気がするのだ。体格や声質も違うし、意識しても意味ないから筋トレでもしといたほうが上手くなるとわかってはいるのに。

 もしアマンダさんが帰ってしまっても、きっとそれが治るわけではない。


「あんまり他人と自分を比べてばっかりだと調子崩すぞ。自分の力量をよく見るほうが結局上達するからな。そうやってコツコツ積み重ねてからぶち勝てばいいだけだ」

「ぶち勝つって。別にアマンダさんとは勝負してないし、友達だし」

「友達だから何だよ。悔しいなら勝てばいいだけだろ。ウジウジしてるほうが友達減るぞ」

「ズバッと言うよね」


 ルイドー君、めっちゃキッパリ言うなあ。若いのにそんなに達観しているというか、芯の強いところは本当にすごい。見習いたい。


「……まあ、お前もいきなり知らない場所に来て頑張ってるほうだとは思うぞ」

「え、今慰めてくれたの? 優しい」

「うるせえ慰めてない」


 また肘鉄をされて、ニャニがシャーッと怒ったため、私とルイドー君は気をつけの姿勢になった。

 





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