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歌ってる途中でドリンクは勘弁してください4

 巫女さんたちの祈りの間は、最上階にあった。広く大きい窓があって奥神殿の塔が見えていたので、私が暮らしているエリアの上くらいにあるようだ。


「救世主様においでいただきまして、巫女一同、身に余る光栄でございます」

「あの、そんなかしこまらないでください。ある意味私が1番新入りみたいなもんですし、もっと砕けた感じで。ねっ」


 広く天井も高い部屋で、格が高そうというか徳がすごそうというか、そういう感じの人々にずらーっと並んで膝を突かれるとなぜかこっちが土下座したくなるのでマジでやめてほしい。ほぼ全員が金髪美女だし、私が図に乗ってハーレムでも作り出したらどうするというのか。

 ルルさんに同意を求めると、やんわり困ったような笑顔で頷いて助け舟を出してくれた。


「救世主様は気さくなお方です。どうぞ固くなりすぎないよう」

「ありがたいことです。巫女には救世主様と同じ年頃の娘も多いのです。お話し相手にもなりましょう」


 金髪が白くなりかけている巫女さんが、笑顔で頷いてくれた。その手が紹介するように動いた先には、同年代っぽい巫女さんたちがはにかんでいる。可愛い。私の心の中のオタクが萌え〜と体をくねらせていると、さっきいた子供の巫女さんが近付いてきて私の手をきゅっと握った。視線を下げると、ニコッと笑う。も、萌え〜。


「これ、オグ!」

「あっ、全然大丈夫です。ねっ」

「ねー」

「めっちゃかわいい」

「あのね救世主さま、オグはね、綺麗な花と一緒の名前なの。金色で綺麗なの」

「へーそうなんだ。オグちゃん。私はね、リオって名前だよ。梨の音って意味」

「梨? オグね、梨すき!」


 嬉しそうに一生懸命話しかけてくるの、もはや尊い。ニヤケていると、逆の手も誰かに握られた。また天使が来たのかと思って振り向くと、天使じゃなくてイケメンだった。にっこり笑うと、白い歯が眩しく光った気がする。


「私の名はフィアルルー、西古代語で平穏を守る者という意味です」

「へ、へぇ〜……立派な名前ですね……」


 どうリアクション取ればいいんだ。オグちゃんとルルさんと手を繋いで反応に困っている私を見ている巫女さんたちも、どうすりゃいいんだみたいな顔をしているではないか。この場で楽しそうなの、オグちゃんとルルさんだけやで。


「……そっそうですわ救世主様、まもなく祈りの時間です、よろしければご一緒に」

「えっえっとー……あの一緒にはアレなんでアレしたいんですけど、ここで見ててもいいですか? ほら、私ここの祈りとかよくわからないので……」

「ええ、ぜひご覧になってくださいませ。さあオグ、準備しなさい」

「救世主さま、見ててね」


 代表の巫女さんが頑張って話題を変えてくれたので、とりあえずこの謎状況から抜け出すことができた。やっぱり神殿で偉い立場の人は有能である。


 いきなり歌えとか言われたら窓から飛び降りてでも逃げるしかないので、見学できることになって私はホッとした。巫女さんたちが見学するための椅子を置いてくれる。

 巫女さん、やさしい。椅子の位置が窓側の中央、並ぶ巫女さんたちの前方ど真ん中だけども。隣り合った椅子にルルさんも座り、しかもまだ手が離れてないけども。


 私たちが座ると、巫女さんたちはそれぞれ準備を始める。壁際で楽器らしきものを構える人が5人ほど、ほか40人ほどは部屋にほどよい感覚で離れて立っている。

 エルフは美人が多い上に、おっぱい地獄が作れそうなほどスタイルのいい巫女さんが多かったけれど、端の方に男性もいたし、エルフじゃなさそうな人もひとりいる。巫女さんの採用基準に出自は関係ないのかもしれない。


 やがてそれぞれ自分の位置についた巫女さんたちは、静かに動きを止める。それから、まずキーンと金属の音色が響いた。楽器のトライアングルを丸くしたような楽器をひとりの巫女さんが金属の棒で叩いている。音色が完全に消えてから、さらに2回。

 弦楽器を主とした他の楽器が演奏を始めると同時に、立っていた巫女さんたちが動き、歌い始めた。


「おぉ……?」


 歌い始めた、のだと思う。唸ったり、節の不規則な鼻歌だったり、ただ同じ音を喉から出していたり、何か言葉を呟いているだけだったりと歌と呼ぶには中々個性的なものばかりだったけれど。楽器も合奏というより、ただ音を鳴らしているだけのようだ。リズムもメロディもバラバラである。


 不規則なのは歌と音楽だけではなく、巫女さんたちの動きもそうだった。激しく動いている人もいれば、うずくまるように寝転がって動かなくなった人もいる。片手で天井を押そうとしているかのようにジャンプし続けている人もいた。踊りだとしたら、かなり先進的な現代舞踊という感じだ。

 オグちゃんもその中の一人として、少し目を瞑りながら前かがみになり、何かを探しているように手を動かしている。


「……ルルさんルルさん」


 10分ほど見学してから、私は小声で隣に話しかけた。ルルさんはいたって真面目に巫女さんたちの現代舞踊を眺めていたけれど、すぐに声に気付いて耳を傾けてくれる。


「これ、祈りとしては一般的な感じ? 決まった形とか音楽とかないの?」


 邪魔にならないよう、口元に手を添えてこしょこしょ訊くと、ルルさんも同じように口元に手を当てそっと返事をしてきた。


「ええ、祈りは波に乗って行われますから、決まったものはありません」

「力の波?」

「そうです。巫女は波を非常に上手く捉え、自らの力でさらにそれを増幅することができます」

「なるほど……」


 私にとっては哲学めいた現代美術に見えるこの集団舞踊は、ルルさんから見るとちゃんと意味のあるものに見えるらしい。

 神様も動きや音で波を作るといいと言っていたので、かなり理にかなった祈りなのだろう。悲しいことに私には全然、まったく、少しも理解できないけれど。


「あの、音に合わせて歌ったりしないの? 決まったメロディで」

「そのようなことは……」


 ルルさんが少し困惑したあと、また口に手を添えて小声で教えてくれた。


「長老によると異世界ではそういった行為を歌と呼ぶそうですが、それは我々にはとても難しいことなのです」

「えっそうなの」

「我々は力の方がよく見え、聞こえますから、どうしてもそちらに意識を向けてしまうので……決まった音を繰り返して演奏するということもありません」


 びっくりの事実だった。音楽の概念がなんか違う。

 この世界の「力」というのは本人の体調や周囲の環境、時間など、その瞬間瞬間で変わる。なので同じ音を出したとしても伝わる波は違ってくるのだそうだ。

 力の見えない私がこの祈りを再現できないように、ここの巫女さんたちが私の知っているような歌を歌うのは至難の業だろう。あの神様に祈りが通じにくいのは、そういう部分もあるのかもしれなかった。


 この世界を創った神様には、これで祈りが通じていたのだろうか。今だって力を増幅させているということは、効果がゼロということはないのだろうけれど。

 なんだかちょっと切なくなった。祈りを信じている人々も、強く祈ることのできる人々も、神様が変わっただけでこうして意味がほとんどなくなるだなんて。誰にもどうにもできないし。

 少し悲しく思いながら見つめていると、繋いだ手に力を込められる。ルルさんが私を気遣わしげに見ていた。心配させないように、私は笑顔で返してみる。


 いや、意味はないことはないかも。歌うことに意味がいらないくらい、信じることそれそのものが救いなのかもしれない。よくわかんないけど、この巫女さんたちもこうやって祈ることが何か彼女らのためになっているといいな。


 ずっと見ていたらこれはこれでなんか味がある感じがしてきたし。右端のお姉さん、鶴のジェスチャーをしているように見えてきた。首の動きが絶妙。

 アテレコしたい気持ちを抑えながら見学していると、ルルさんがまたそっと私に耳打ちする。


「リオの歌というのも聴かせていただけますか?」

「あすいません、それは無理ッス」

「とても残念です。いつか聴いてみたいのですが」

「永遠に無理ッス」


 いくらルルさんの頼みとしても、それは無理。

 割と根気強いルルさんの頼みを何度か断りながら、私は巫女さんたちのふしぎなおどりを見学し終えた。






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