フリータイムでも何時に入ったかつい確認してしまう1
最近、ニャニのダバダバと走る音で目が覚めている。
奔放な寝相をものともしない広い寝台で起き上がり、四つん這いでフチまで歩いて光を遮るカーテンを開けると、ダバダバと部屋を回っていたニャニがビタッと止まり、ニタァ……と口を開けながら片手を上げた。
相変わらず見た目が怖い。二度寝する気分にさせない目覚まし係としてニャニは非常に優秀だった。
「リオ、おはようございます。入っても?」
「ルルさんおはよう。どうぞー」
入ってくるなり「神獣ニャニ、また乙女の寝室に入って」と小言を言うルルさんにも手を上げて、ニャニは入れ替わりに外へと出て行った。ピスクさんに磨いてもらうのだろう。
「随分と仲の良い関係になったようですね」
「いや、仲良くはないと思うけど……見慣れてはきたかも知れないよね」
最近のニャニも相変わらずアグレッシブだけれど、朝走り回っている時でも私との一定距離は保ってダバダバしているので、あんまり危機感は感じなかった。ニタァは牙が見えて怖いけど。
ニャニは動物だ。複雑な思惑や気遣いがない分、一緒にいても気構えなくていいのがなんか楽に感じる。神獣だけど。
仮にニャニが、私が救世主だからと懐いているとしても別に気にならないし。青いワニだし。
「リオさま、おはようございます」
「おはよう、リーリールイさん」
朝食を取りに行くと、白い花で編み込んだ髪を飾ったリーリールイさんが立ち上がって挨拶をしてくれた。朝食代わりのフコをちょうど食べ始めようとしていたようだ。
「シュイさんとミムさんは奥神殿?」
「ええ、二人はもう食べたので、私が最後ですわ」
お祭りに出たときに着替えを手伝ってくれたそっくり三つ子姉妹、シュイさんとミムさんとリーリールイさん。
この3人はもともと巫女としてこの中央神殿に住んでいたのだけれど、最近神官として許しをもらい、奥神殿へ渡れるようになったらしい。そこでルルさんは神殿の長老たちと話し合って、アマンダさんの送り迎えを3人に任せることにしたのだそうだ。
アマンダさんは早起きで、夜明け前くらいから奥神殿へ出掛ける。私が交代するのはお昼くらいから、夕方はまたアマンダさんが歌ったり休んだりすると決めたのだけれど、ルルさん一人では私とアマンダさん両方に付き添うのは難しい。
襲撃の可能性を考えると腕の立つ人を付き添わせたいのだけれど、ルルさんが私たちに近付けてもいいと全面的に信頼できる人がいないらしかった。
リーリールイさんたち三姉妹は幼い頃から神殿で育ち、巫女としても優秀だ。お互いに息ぴったりだし、今は剣術習得にも意欲を出している。
もし何か起こったとしても、一人がアマンダさんを連れて逃げ出し、一人が足止めに戦い、もう一人が誰かに知らせに行くことで、剣の未熟さをカバーできるとルルさんが判断したらしい。
3人は既に私とも接していたし、女の子同士ということでアマンダさんも警戒心を抱きにくいだろうという気遣いもあるようだ。実際、アマンダさんと三姉妹は、言葉が通じ合わないけれど、髪や服などを褒めたりメイクを教え合ったりと仲良くしている。
「リーリールイさんたちって、巫女のお仕事も神官のお仕事もあるんだよね。朝早くから奥神殿にも行くのは大変じゃない?」
「いいえ、まったく。奥神殿へ近付くことは、神の御力を間近で得られるという意味でも貴重な体験ですし、扉の前ではゆっくりできますから、むしろ休んでいるようなものです」
仲良し姉妹はアマンダさんがカラオケをしている間もおしゃべりしたり楽しくやっているそうだ。ほっそりした美人なのに、割とエネルギッシュである。
「それに、フコも好きなだけ頂けますし……」
地球人目線ではどう食べてもプロテインチョコレート味なフコの実は、三つ子全員の大好物である。今も私がスープを飲んでいる間に、ラグビーボール大のフコをあっという間に平らげてしまった。
奥神殿の下にもフコの木があるし、カラオケに苗を持って行って育てるのも相変わらず続けているので、3人にとってここでの仕事は好物食べ放題というまかない付きの美味しい仕事なのだそうだ。
うん、本人たちが喜ぶならそれでいいのかもしれない。
「ではリオさま、私はお先に失礼して奥神殿へ戻ります」
「うん、3人とも頑張って。今日は早めに交代する日だから私もあとで行くね」
「はい、今日はアマンダさまと神殿内を散歩なさる日と窺っております。アマンダさまも朝嬉しそうでしたわ」
美しく微笑んだリーリールイさんが、ではまたのちほどと仕事に戻っていった。
今日は交代した私が午後2時くらいまで歌ったあと、アマンダさんにメルヘンたちを紹介する予定である。
アマンダさんは動物は好きらしくヌーちゃんは見つけ次第撫で回しているし、ニャニに対しても最初は物凄く逃げ腰だったけれど今はもう怖くないらしい。馬も好きだというので、きっとメルヘンやパステルとも仲良くなれるだろう。
まだ私の内心はたまにネガティブになるので夜中にぐるぐるすることはあるけれど、色々とうまくいっている。
ぐるぐるに付き合ってくれているニャニが同意するように、そっと現れて手を挙げた。ルルさんが回収して廊下のピスクさんに渡した。




