混んでるとお一人様は並びにくい22
透き通るような歌声。
旋律が風に舞い上がる花びらのように軽やかに踊り、時に力強く響く。
歌詞の意味がわからなくても伝わる感情。アマンダさんを中心に、音の渦が周囲に響いているのが見えるのではないかと思うほど、圧倒される。魅了される。
言葉も出ないくらい、動けないくらいすごい歌だった。
「Rio?」
最後の一音の余韻が消えてからも、私はその場から動けなかった。アマンダさんが近付いて首を傾げる。
「hey, is everything okay?」
「あ……えーっと、ウィー、ウィル、イート、ランチ。アイウォント、イートウィズユー」
「Oh, okay, that's very nice of you」
「えー、レッツゴー」
アマンダさんはちらっと部屋の方を見たけれど、昼食を食べに出ることには同意してくれた。
入り口の前に立ったままだった私は、そのまま半回転してまたドアを開ける。
「リオ?」
「あ、アマンダさんも一緒に食べてくれるって。戻ろう」
「どうかしたのですか? 彼女に何か言われたのですか?」
「別に何もないよ」
どこか気遣わしげなルルさんにいつも通り振舞って、私たちはフィデジアさんたちが用意してくれた昼食をみんなで食べた。アマンダさんはひとり言葉がわからない中でまだ少し居心地が悪そうだったけれど、スパイシーなソースを気に入ったという話題から私が通訳に入って、フィデジアさんと少し打ち解けた感じになった。
ここの人たちはみんないい人なので、アマンダさんも仲良くなってくれると嬉しい。私は昼食を食べつつ、できるだけ上手に訳せるように頑張った。
「リオ」
寝室にあるテーブルに肘をついていた私を、ルルさんが立ったまま覗き込んだ。いつのまにか腕の近くでヌーちゃんがフコフコと寝息を立てている。
「あれ、ルルさんもう帰ってきたんだ。今日は早いね」
「もう夜も更けていますよ」
「えっこの部屋窓ないからわかんなかった」
ルルさんが椅子を私の隣に運んで座りながら片眉を上げる。
「ずっとこうしていたのですか?」
「ううん、お風呂入ったし、その前にメルヘンもちょっと見に行ったし……おやつも食べたっけ」
昼食を食べ終わり、再び奥神殿へ行くというアマンダさんとついていくルルさんを見送ってから、私はフィデジアさんやジュシスカさんたちと一緒に過ごしていた。涼しくて過ごしやすい一日だったので、フィデジアさんたちがあれこれ誘ってくれて結構充実した一日だったと思う。
「フィデジアたちと別れてからはずっとここに? 随分早くに夜の挨拶をしたと聞きましたが」
「そんなに早くもなかったと思うけど……ちょっとボーッとしてたかも」
もう遅いなら寝ようかな。
そう言って立ち上がった私の手をルルさんが握った。
「何があったのか教えてください」
「別に何もないよ」
「リオ、どうか私には隠し事をしないで」
じっと見つめられると居心地が悪い。
視線を逸らしながら、私は首を振った。
「いや、ホントに何もないから。アマンダさんの歌が上手だったから、すごいなーって思ってただけ」
今もまだ耳に残っている。
あんな歌声を、私は今まで聞いたことがなかった。
「すごい、ですか?」
「うん、すごく上手だった。プロみたい。圧倒された」
神様がこの世界に力を送るための歌には、上手い下手は関係ない。なんか波がどうこうとかで、声や動きを響かせることが重要なのだ。それができるなら、歌という形に限らなくてもいいくらいだ。
だから私とアマンダさんの能力に差はないのだけれど。
あの美しい歌声と堂々と歌い上げる態度を見て。
私は、アマンダさんのほうが、いかにも救世主にふさわしいなとちょっと思ってしまったのだ。




