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混んでるとお一人様は並びにくい20

「あーっまた四隅全部取られた!!」


 ルルさんの帰りを待って、ジュシスカさんと手作りオセロをしていて気が付いた。

 この人、めちゃくちゃ負けず嫌い。

 ルールをすぐに覚えたジュシスカさんは、すぐに私を負かすことに情熱を注ぎ始めたのである。最初は私の方が強かったのに、勝率が段々と逆転してきた。


 罫線を引いた紙の上で、ジュシスカさん側を示す剣のマークが描かれた丸い紙がたくさん並んでいる。私側であるヌーちゃんのマークはぽつぽつ数える程度にしか残っていない。


「もー! めちゃくちゃイヤらしい手を使ってくるようになったねえ!」

「勝負ですから……」


 いつもの物憂げな溜息が、ふふん……と若干得意げそうなのもなんか腹立たしい。負けると頑なに再戦を申し出るあたり、もしかしてこういうところが子供に懐かれにくいところなのではないかと思ってしまった。


「もう一回やろう。あと一回勝つまでは寝れない」

「望むところです……が、どうやら時間切れのようですね」

「え? なんで?」


 ジュシスカさんが立ち上がるのと同時に、ノックが聞こえて扉が開いた。


「あ、ルルさんだ。おかえりー」

「リオ、起きて待っていてくださったのですか?」


 手を振ると、ルルさんが微笑んで近付いてきた。

 どちらかというとオセロに熱中し過ぎて時間を忘れていた感が強いけれど、頷いておく。発端はルルさんを待つためだったのは間違いない。


「ではリオ様」

「うん、ありがとうジュシスカさん。またやろうね」

「是非とも」


 しっかりと頷いたジュシスカさんが、一礼して部屋を出ていく。適当に作ったオセロセットをルルさんが不思議そうに見ていた。ルールを説明すると、ルルさん丸い紙を摘んで眺めながら頷いた。


「ああ、『王国と民衆』を簡単にしたようなものですね」

「なにそれ」


 『王国と民衆』は、将棋のようなボードゲームらしい。それぞれ動き方の違う駒を進め、どちらが多く残るかというのを競うゲームなのだそうだ。反乱という設定らしく、それぞれの立場が平等ではないところがシニカルである。人間の国発祥のゲームというあたり、なんだか頷けた。


「ルルさんもやる?」

「魅力的なお誘いですが、明日にしましょう。もう夜更けですから」


 さっと片付けたルルさんがやんわり寝ろと提案してきた。熱戦続きで目が冴えていたけれど、確かにもう寝ないと明日が辛いかもしれない。

 ルルさんに手を繋がれ、部屋を出て寝室へ移動する。


「アマンダさん、今まで歌ってたの?」

「はい。出てくる気配がなかったので、こちらから合図して戻って頂きました」


 何時間歌っていたのだろうか。帰りたい一心では、そんなに長く歌い続けられないだろう。もしかしたらアマンダさんも歌好きなのかもしれない。私も明日いっぱい歌おう、今日歌ってないし。


「フィデジアが夜食を用意していましたが、摂らずに眠ったようです」

「あー、多分、祈りの間で食べたんじゃないかな。一応明日訊いてみるね」

「お願いします」


 アマンダさんの祈りのおかげか、風通しのいい廊下が随分涼しかった。今日はヌーちゃんがくっついて寝ても暑くなさそうだ。

 ベッドへ近付くと、ルルさんが手をぎゅっと握って引き止める。見上げると、ルルさんがじっとこっちを見つめていた。青い目が弓なりに細められる。


「あなたに会いたいと思っていました」

「……いや会ってたじゃん。顔合わせてないの半日くらいだよ」


 一瞬微笑みに騙されてきゅんとしそうになったけれど、数時間しか離れてない。


「いつも一緒にいましたから」

「それはそうだけども」

「抱き締めてもかまいませんか?」

「それ抱き締めてから訊くことじゃなくない?」


 そうですねと嬉しそうな声が頭のてっぺんから伝わってくる。そっと優しく腕が回っているので、私もじっとされるがままになっていた。内心はめっちゃ暴れていたけども。


「祈りの間にいるリオを待つのも長く感じるものですが、リオがそばにいない時間はより長く感じられます」

「気のせいじゃないかな。私が歌ってるのが長いのはごめんとしかいえないけど」

「明日は共に過ごしましょう」

「明日も、じゃない?」

「も、ですね」


 微笑みながら言ったルルさんが体を離す。


「遅いのに、すみません。どうぞよくお眠りください」

「うん、ルルさんもね。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 私が布団に潜り込んだのを見届けてから、ルルさんが部屋を出ていく。

 こっぱずかしいけれど、寝る前にルルさんと会えてよかったな。そう思う自分がさらにこっぱずかしいけども。

 むず痒い気持ちを抱えつつ、私は洗ってふわふわに戻ったヌーちゃんを抱えて目を瞑った。




 翌日。

 あんなことを言ってたくせにルルさんがいつまでも起こしに来ないので部屋から顔を出すと、フィデジアさんがいた。


「リオ様、おはようございます。今湯の用意をしていますのでお待ちください」

「おはようフィデジアさん。あれ? ルルさんは?」


 フィデジアさんが少し困った微笑みを浮かべた。


「フィアルルーは奥神殿に」

「ってことは、アマンダさんもう歌いに行ってるの?」

「はい。夜明け前から」


 今も朝早い時間なのに、さらに早い頃からアマンダさんは奥神殿カラオケにこもっているらしい。


「えぇ……」


 そしてアマンダさんとルルさんは、私が朝食を食べ終えても戻っては来なかった。






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