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混んでるとお一人様は並びにくい19

 ひんやりした水は気持ちいいけれど、ポテチのベトベトが落ちてない。

 自分も膝まで足を浸しながら水浴びに意欲的なヌーちゃんが溺れないように手を貸す。ヌーちゃんは泳ぐのが好きな割に手足が全然泳ぎに貢献していないけれど、これもし沈んじゃったらどうするんだろうか。あちこち出入りできる神獣だからこそのカナヅチ具合なのかもしれない。


 じわじわと近付いてくるニャニを投げるおやつで遠ざけつつ涼んでいると、ふとルルさんが空を見上げた。


「リオ、アマンダ様が」

「え?」

「そこに」


 布を張って作った屋根から顔を出して見上げると、眩しい太陽を背に渡り廊下が見える。手でひさしを作ってそこを見ていると、手すりからアマンダさんが身を乗り出した。私たちを見つけたアマンダさんが、リーオー! と大声で呼んだ。それから奥神殿の方を指してさらに英語で叫ぶ。

 私の頑張るヒアリング能力は、アムゴナシングなんとか、おーけー? と聞き取った。


「彼女は何と?」

「多分、奥神殿でちょっくら歌ってくるわ、って言ったのかと。アマンダさーん!! ユーウォントトゥーシング?!」

「Yeah, I want to sing!!」

「オッケー!!」


 ゆっくり返事してくれたアマンダさんへ私がぐっと親指を突き出すと、センクス、ハブファン!! と叫んだアマンダさんが手を振ってから頭を引っ込めた。赤毛が風に揺れてカッコいいし、ハブファンって言い残すのもカッコいい。楽しんで、か。いつか使おう。ブイの発音自信ないけど。


「午後は歌って過ごすおつもりなのでしょうか」

「たぶん。アマンダさん、歌って神様の力がもっとこの世界に行き渡ったら帰れるってことだから、いっぱい歌って帰る時期を早めたいんじゃないかな」

「濡れるといけませんから、そろそろ戻りましょうか」

「うん」

 

 文字通り濡れ鼠なヌーちゃんをできるだけ絞ってから、私とルルさんは片付けを始めた。ルルさんが屋根に使った布を外している途中に、ポツポツと雨が降ってくる。


「リオ、どうぞ先に中へ」

「うん。これ持っていっとくね」


 昼食が入っていたバスケットにヌーちゃんを入れて持ち上げる。先に畳んであった敷物も持って行こうと思ったら、いつの間にか陸に上がっていたニャニがダバダバと走ってきたのでなりふり構わず逃げる。

 出入り口のところから見ると、敷物がゆっくりとこっちに向かって動いていた。どうやらニャニが下に潜り込んで運んでいるらしい。手伝いたかったのだろうか。


「いや、ニャニ、怖いから……うん、手伝ってくれてありがとう」


 頭から背中にかけて畳んだ敷布を乗せたニャニが、ちょっと雨に濡れながら入ってくる。距離を確保しつつお礼を言うと、ニャニはゆっくりと片手を上げてニタァ……と口を開けた。ありがた怖い。

 最後に戻ってきたルルさんが、その背中から敷布を取り、屋根にしていた布と共に中にある棚に置く。


「神獣ニャニ、手伝ってくださってありがとうございます」


 ルルさんから丁寧にお礼を言われたニャニは、腕立て伏せ……ではなくおすわりを3回ほど繰り返してから、再び外へと歩き出す。

 泳ぎが得意なニャニは雨を気にしないらしい。最後に若干振り向きながら片手を上げたニャニが、そのまま水の中へ戻っていった。

 いやだから何そのニヒル感。ハードボイルド目指してるのだろうか。


「ニャニってやっぱり水に住む生き物なの?」

「どこで見かけても変わらず過ごしているようですが、水はやはり好きなようですね。随分前に、街の水汲み場で子供たちと水遊びをしているところを見たことがあります」

「すっごい肝が座った子供だねえ……」


 陽の光を受けてきらきらと輝く雨と泳ぐニャニをしばらく眺めたあと、私たちは中央神殿へと戻る。部屋が近付いたところで、フィデジアさんとルイドーくん、ジュシスカさんが立ってこっちを見ていた。フィデジアさんが一歩進み出る。


「リオ様、アマンダ様がそちらへ向かわれたようですが」

「あ、うん。奥神殿で祈ってくるって入っていったよ」

「そうでしたか」


 フィデジアさんとルイドーくんがホッとした顔をする。ジュシスカさんはいつも通りの読めない憂い顔だ。


「おそらく祈りに行くと仰っていたのでしょうが、言葉が通じないため確信がなく……我々はそこを通る許しを得ていませんから、お供することもできないのでどうしようかと」

「あ、そういえばそうだったね」


 奥神殿のある島は聖域のような場所なので、神殿でも限られた人しか近付いてはいけないとされている、というのを前に聞いたのを思い出した。異世界人は顔パスだけども、私たちを守ってくれている騎士のうちルルさん以外は渡り廊下の手前くらいまでしか近寄らない。物理的にムリというわけではなく、聖域を汚さないようにという決まりのようだった。


「そっか、アマンダさん1人で行ってたけど、渡り廊下はシーリースの人が来たことあるし危ないかもしれないんだ。ルルさん、付いてあげててくれる?」

「しかしリオは」

「私は、えーっとジュシスカさんに付いててもらうから。ジュシスカさん、いい?」


 ジュシスカさんは憂い顔でふう……と息を吐いたけれど、「喜んで……」と返事をしたので嫌がってはいないようだ。


 今まで私しか奥神殿に行く人間がいなかったので、同行できる人がルルさんのみでも支障はなかった。けれどこれからは、アマンダさんがカラオケするときのことも考える必要がありそうだ。

 ルルさんはしばらく迷っていたものの、ジュシスカさんに私を任せて奥神殿へと引き返す。


「じゃあよろしくねジュシスカさん」

「はい……」

「でもとりあえずヌーちゃん洗うついでにお風呂入りたいから、フィデジアさん来てもらってもいいかな」

「勿論です、リオ様」


 お風呂や着替えのときはフィデジアさんがいるし、ルイドーくんもピスクさんもいる。特に不自由はないだろう。


 アマンダさんとルルさんが戻ってきたのは、日が暮れてかなり時間が経ってからのことだった。






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