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混んでるとお一人様は並びにくい17

「結論から言うと、地球には帰れることは帰れる」

「なんですかそのブレた言い方」

「今すぐには無理じゃが、もうちょっとしたら帰れる」


 神様の説明によると、今この世界はちょっとずつ神様の力が行き渡りつつある。十分にそれが満ちれば、この世界で強い「力」を持つ人、神官などの力を借りることで地球へと送り返してもらうことができるらしい。


「地球からここへ召還する術も、かなりの力を必要とするというのはわかっておるの」

「ああ、なんかすごく大変だから、シーリースが短期間に2回も召喚したのが不可解とか言ってたような」

「逆に地球に送り返すのは、それ以上に大変でな。充分に力を蓄えた者でないと、おそらく死ぬ」

「えっ、えーと、神官の人たちが? 私たちが?」

「神官側じゃよ。でも術が中途半端で途切れると、送られた側も地球に辿り着けず終わる」


 違う世界に行ってしまったり、私が最初に落ちたような闇で迷子になってしまう可能性があるらしい。怖い。

 だから送り返してもらうためには、きちんと準備をする必要がある。


「準備といいますと?」

「今までと同じじゃよ。楽しく歌って繋いでくれれば、それだけ力を注ぎやすい。特にこの土地はよく伝わるからの。力を持つ者も、より多く力をつけられるじゃろうて」

「じゃあ、特に変わったことはしなくていいと」


 神様は頷いて、ビールをぐびっと飲み干した。

 ヌーちゃんは私の腕で寛いでいて、アマンダさんは言葉がわからないながらも私たちの会話を見守っている。その表情が明るいのは、この話題が彼女にとってとても嬉しいことだったからだろう。


「あの、神様、それは別に一度だけとか、満月の時だけとか、そういう限定仕様ではないんですか」

「ないない。この地に力が満ちて、力ある者が手助けしてくれればいつでもできる。2人ならそう負荷もかからぬから一度に一緒に送れるじゃろう。ただし、」


 そこで神様は一度言葉を切った。真剣な表情で私を見つめている。


「一度どちらかを返してしまうと、もう1人がまた帰るためにはかなり時間がかかる」

「かなり?」

「かなりじゃ。大体50年ほど」

「ものすごくかなりですね」


 50年後って、生きてるかどうか心配なラインだ。完全に浦島太郎状態というか、地球の技術革新についていける気がしない。70近くになってからいきなり車が空飛ぶ社会とかに馴染めるだろうか。


「戻るためには、人だけでなくこの星の力も使うからのう。人は他に力を持つ者がいれば代われるが、この星はとても脆い。わしの力を注いであったとしても、短時間に何度も力を使えば、崩れてしまいかねんのじゃよ」

「なるほど」


 回復期間が必要なようだ。それが50年。ほぼ一生。

 つまり一度「私はここに残る」と言えば、この先どれだけ帰りたくなったとしてもそれは無理だということだ。


「アマンダちゃんは、できるだけ早く帰りたいそうだ」

「でしょうねえ」

「リオちゃんはどうする?」

「ちゃん?」


 神様は「まあまだ時間はあるから」と言うと、ビール片手に消えてしまった。

 カラオケルームに私とアマンダさん、そしてヌーちゃんが残される。


 アマンダさんが私をみて、少しずつ表情を曇らせていった。

 嬉しくないの、と聞いている。気がする。座ったままこちらへ顔を向けて、私の手を取った。


「Rio, I really want to go back home.」

「うん、わかってる」

「You wanna stay here?」


 アマンダさんは、今すぐにでも地球に帰りたいのだろう。それは彼女の様子を見ていたらわかるし、それを止めることもできない。


 ぶっちゃけ、私はそんなに帰りたいとは思ってない。日本はたまに懐かしくはなるけど、いざ帰るとなったら、なんか色々考えるのがめんどくさいというか、下手すると職なし家なしお金なし生活なので割と覚悟がいる。


 でも、だからといって、この先ずっと帰れないという選択を、今決めろと言われたら。

 それを即答できるほど吹っ切れてもいないようだった。


「えーっと、とにかく、ウィーシング、モア。トゥー、えっと……トゥー、アース?」


 アマンダさんは少し明るい顔になって頷いた。

 私がどうするかはおいといて、アマンダさんは帰る。それを手伝うことは間違いない。

 そのときに私がどうするかについては、まだ考えてないけども。


「とにかく、一度出てランチしにいこう。ルルさんイズウェイティング」

「Okay」


 帰れるとわかったからか、アマンダさんは元気が戻ったようだ。立ち上がって扉へと歩いていくアマンダさんの後ろをついていきながら思う。

 ルルさんになんて説明しよう。






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