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歌ってる途中でドリンクは勘弁してください3

 中央神殿は、大きな建物だけあってパッと見学し終わるような感じではないらしい。まず今日はお偉いさんたちと顔合わせをしたり、中央神殿にある祈りの間を見学する流れのようだ。挨拶大事。住み始めて3ヶ月経ってるけど。


「ここにも祈りの間があるんですね」

「もちろんです。神殿に仕える巫女たちが日々神に祈りを捧げる奥の間と、この神殿に勤める者が祈るためのなかの間、そしてここを訪れる人々に開放されている祈りの広間。現在はこの3つが主に使われています」

「ヘェ〜。巫女さんってやっぱり可愛い服着てるんですか?」


 ルルさんはちょっと困った顔をした。大体私がしょーもないことを言ったときにする顔なのだけれど、金髪イケメンのこの困り顔、割とクセになってくる。


「衣装はリオの普段着ているものと同じかと」

「あっそうなんだ。そうか、私も巫女みたいなもんだもんね。じゃあある意味同僚か」


 シンプル生成りワンピだった。日本の巫女さんと比べるとちょっと地味だけれど、動きやすいし着心地いいのであれはあれでいいと思う。

 しかしあれだと階級とかが見分けにくい気がするけれどどうするんだろうかと考えていると、ルルさんが私の前に立って、繋いでいた手を持ち上げた。


「リオはただの巫女ではなく、この世界を救ったお方。まさに救世主です」

「すんげー大袈裟だよねそれね!!」

「災いはそれほどに我々を蝕んでいました。どうぞ尊きお方だということをお忘れなきよう」


 ルルさんは本気で言っているからすごい。真顔で救世主とか、私はうまく言える自信がない。まあ困ってたところでちょうどよく出てきたからそう思っても仕方ないかもだけども。

 手を持ち上げられて、ルルさんは自らの額に私の手の甲を当てた。


「これも気になってたんですけど、その動作って何なんですか? 挨拶?」


 ちょいちょいやられるので、西洋人がレディの手を取ってキスする感じよりは頻度が高い気がする。

 顔を上げたルルさんが、私を見て瞬いてから微笑んだ。


「リオは本当に力がお見えにならないのですね」

「うん全然」

「これは甲礼と言うもので、尊敬する相手や、尊い方に祈りの気持ちを伝える仕草です。敬愛する気持ちを力として、相手に捧げているようなものです」


 なんかめっちゃレベル高そうな動作だった。

 力というのは感情や思考で波を帯びさせることもできるので、そうやってぼんやりした気持ちであれば直接渡したりできるらしい。

 実感が一切ないので全然わからないけれど。


 私がぼんやりした返事をすると、ルルさんは少し寂しそうな顔をして私の手をきゅっと握った。大きな手が、しっかりと私の指を捕まえている。


「見えていれば伝わるものもあるのですが……残念です」

「……あのホラ……意味はわかったから……大丈夫なんで……」

「額の他に、胸元でも伝わりやすいのですが」

「間に合ってます!」


 ルルさん前職ホスト説、あながち間違ってない気がする。そのうち指名料とか取られたらどうしよう。

 シャンパンタワーは置いておいて、甲礼は特に神殿では多く使われるものらしい。力をよく見る人間が多いからだそうだ。私ほど全く見えないのは人間の国でも少ないらしいけれど、エルフでも力を見るのが得意ではない人も多いと聞いてちょっと安心した。


「この神殿を見て回っていると、きっと多くの者がリオに甲礼を申し出ますよ」


 そしてルルさんの言っていた通り、私は色んな人から手を取られまくった。




「救世主様、この度の恩恵、我が一族感謝に堪えません」

「救世主様、どうぞこの地をお護りくださいませ」

「救世主様……」


 ヤバい宗教感がすごい。特に神殿のお偉いさんはお年寄りが多いので、年寄りを騙す新興宗教の教祖になった気分である。

 ヨボヨボのお爺さんお婆さんの中には、金髪が白髪になっているどころかまばらになっている人もいる。そういう人が甲礼をすると、少し尖った耳がよく見えてちょっと可愛かった。エルフには背が高い人が多いので、間近で見るのが難しい部位なのだ。


「おお、おお……この強い光……まさに神の加護」

「あ、危ないですよおじいさん」


 歩くだけでポックリ逝きそうなご老人と心配しながらも挨拶を交わし、それからもう少し若めの層、今神殿を取りまとめている人たちとも挨拶を交わす。というか、甲礼を受ける。

 彼らは大きな布を体に上手いこと巻いていた。紫や緑の深い色をしている。


「ご挨拶が遅れまして大変申し訳ありませんでした、救世主様」

「いえ、こちらこそ」


 それから更に若い層、若手幹部っぽい感じの人たちとも挨拶を交わす。というか、甲礼を受ける。

 彼らの布は、上の世代よりも少し淡い色だった。


「お会いできて光栄でございます、救世主様」

「こちらこそ」


 最後は巫女さんたちだった。全て女性で、60代くらいの人から10歳くらいの子供まで様々な年齢層の人がいる。ルルさんが言った通り、私が持っているような生成りのワンピース姿である。


「救世主さま、神様とお話してくれてありがとうございます」

「どういたしまして〜」


 小さい子がはにかみながら手を取って、ちょんと礼をしながら甲礼したのが1番可愛かった。


 それにしても、エルフ、美形ばかりだな。手足も長いし髪も目も綺麗だし羨ましい。ルルさんがめっちゃイケメンなだけかと思ったら全然そんなことなかった。みんなイケメン度高い。いや、その中でもルルさんのレベルがかなり高いことは確かなんだけども。

 若干の劣等感と戦っていると、ルルさんが私の手を回収してくれた。色んな人に触られたせいか手のひらちょっとカサカサなので、今日はもう甲礼はお腹いっぱいだ。


「ではリオ、巫女たちもいることですし共に奥の間へ向かいましょうか」

「うん」

「救世主さま、いっしょにお祈りする?」

「一緒に……お祈り……?」


 小さな巫女さんが、私をキラキラした水色のおめめで見上げている。思わず頷きそうになってハッと気付いた。

 ここの祈りの間がどんなもんだか、祈りの作法がどういうのだか知らないけれど、私の知ってる限り、ここでは祈り=歌である。

 一緒に祈るということはつまり、一緒に歌うと言っているようなもの……


「いやごめん……一緒に祈るのはあの……場合によっては無理かと……」


 自分でもどうかと思うほどマジなトーンが出た。小さい巫女さんはきょとんとした顔をしていた。すまない。






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