この作品はどう考えても行き当たりばったりです
夏休み明け。9月3日月曜日。
僕が崎村高校1ー3の生徒に初めて会う日だ。
ああ、自己紹介がまだだったね。
「親の転勤で崎村市にちょうど一月前越してきました田崎翔太です」
こんな風に転入生の挨拶を済ませる。我ながら馴れた物だと感心する。
始業式や諸々・SHRが終わった。
「あなた、ネット小説研究会に入りなさい!!」
ドンと僕の机を叩かれた。
この台詞を吐き僕の机をドンした女の子は快活そうなショートヘアをしていた。
顔はまあ可もなく不可もなくといったところだろうか。
にしても、この状況アニメなんかのマイナーもしくは架空の部活物(生徒会敵対率98%)の導入みたいだ。
いや待てよ この女机を叩く前に勧誘を始めやがった。様式美違反しやがった。
「ほら、ウンとかスンとか言いなさいよ」
「じゃあ、まずは見学から」
ここで押し問答するのも面倒くさい見学から入ろうか。
情報室へ案内された。
「ああ一年坊、ネット小説研究会になんの用だ?」
大柄の男の人がそんなことを言った。
崎村高校では学年で上履きの色が違う。
一年は青、二年は赤、三年は緑だ
ちなみにこの二人の上履きは赤だ。
「彼は三日坊主のソウタよ」
ピシっと効果音の入っていそうな感じでこの大柄の人を紹介するまだ名乗ってもいない女の子。
「そういえば名乗ってなかったわね。私の名前は由田実恵よ」
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ソウタ「って会長、何書いてんだ新学期早々」
会長「ふふっ、私たち崎村高校ネット小説研究会の活動を記した作品をしたためているのよ」
ソウタ「あのなぁ、三つつっこんでいいか会長。まずなんで創作でも美少女って言い張らないんだ?次に三日坊主のソウタってなんだ?最後にこんなよく分からない同好会に入ろうとする物好きがいるとでも思っているのか?」
そんな夫婦漫才のような会話をしていると扉の開く音がしました。
一年生「あの、ここってネット小説研究会ですか?」
青い上履きを履いた一年生の男子がそんな事を言いました。
ソウタ「ああそうだが、何だ一年坊」
ソウタはさっきの作品の影響が出てしまいました。
一年生「あの今日から転入してきたんですけど見学させてください」
と、頭を下げられました。
由田「私の名前は由田実恵。ここの同好会の会長よ。そこのでかぶつは黒羽 相太。二人とも2ー1。それで、あなたのお名前は?」
柿沢「はい、僕の名前は柿沢清、一年二組出席番号四十一番です」
相太「なにっ、柿沢で四十一番だと?」
由田「落ち着きなさい相太。転校生は出席番号が最後になるのよ」
黒羽「なるほど」
柿沢「ところでネット小説の特徴って何ですか?」
由田「『自由度』よ!!」
会長である由田が自信満々に答える。
柿沢「自由度ですか?」
由田「ええ、ネット小説はサイトの権威をおとしめない限りは何をやってもいいの」
柿沢「具体的には?」
由田「例えばメインヒロインみたいに登場したキャラの容姿を可もなく不可もなくと表現したり。黒羽とかいう美少女感溢れる名字をムサい男キャラに使ったり。メタ発言連発したりしてもネット小説なら大丈夫なの」
黒羽「悪かったな美少女感溢れる名字のムサい男で。まあ、逆にやってはいけないことは副数のアカウントによる評価レビュー稼ぎや委託、特定の民族への差別などを含む表現だな」
由田「逆に言えばそれ以外なら何をやってもいいのよ」
黒羽相太と由田実恵の息の合った解説に柿沢清は息を呑んだ。
柿沢「でも、ネットなんかではいわゆるなろうテンプレ系以外は駄目とかいわれていますけど」
由田「うむん」
由田実恵は虚を突かれて変な声が出た。
黒羽「まあ、ポイントが入りやすいのは間違いなくそっちだろうな」
柿沢「でも、鬱展開を入れると酷評されるとか、聞いたことあります」
由田「私もそれは聞いたことあるし酷評までは無くても知り合いの作者さんがブクマを外されたとか言っているのは聞いたことがあるわ」
柿沢「そ、そうなんですか……」
由田「でも、一つ言わせてもらうとすれば、百人中百人が楽しめる作品なんて存在しないのよ」
柿沢「どういうことですか?」
由田「不朽の名作と言われている作品だとしても好きじゃないって人は一定数いるし、そういう人すべてにひねくれてるってレッテルを貼るのは好きじゃない。まあ、マイノリティなのは確かだから変わった人だなあとは思うけど」
柿沢「つまり、何が言いたいんですか?」
由田「どんな作品にも合う合わないはあるってことよ!」
黒羽「作風が合わず離れる百人の読者よりも、一人の自分のファンを優先する手もある」
柿沢「なるほど。ところでブクマやレビューって何なんですか?」
黒羽「まずは、そこからか」
由田「ネット小説投稿サイトにはSNSとしての性質もあるのよ」
黒羽「つまり、依存性があるってことだな」
柿沢「どういうことですか?」
由田「読者から作者に感想を送れるのよ」
黒羽「小説家になろうで読者が作者に取れるアプローチは感想を書く、誤字報告、評価ポイントをつける、ブックマークに登録する、活動報告にコメントを書く、メッセージを送るの六つだな」
由田「感想以外はログイン必須で、感想は作者がログイン必須か選べるのよ。ちなみにブックマークすることをブクマすると言うわ」
黒羽「感想はまあ自由だ。その作品についてどう思ったか作者に伝える。それを読んで作者は悶絶する。誤字報告は作者にここ間違ってますよと伝えられる機能だ」
柿沢「間違いってどんな感じですか?」
由田「そうね。私が見た限りだと、『ゼロ・ブレイド〜戦場に咲く徒花〜』という作品で「~不死身市内ですか」という台詞があったんだけれどもその作品はすごい未来で日本の都市も熱海しか出ていないし他に市町村が出ていないの。作者である『たっちみー』さんに聞いたら間違いだったので修正された。ちなみに作品の作者の名前は『orion1196』」
柿沢「作品の作者の名前って何ですか?」
黒羽「作品ごとに作者の名前を個別に設定できるんだ。まあ、特に意味はないがな。設定するときに空欄にしておくとリンクが張られて便利なんだがまれに名前欄にユーザーネームをそのまま入れている作者もいる」
柿沢「メリットがないのに何でするんですか?」
黒羽「ちょっとこれを見てみろ」
そう言って黒羽は柿沢にスマホの画面を見せる。
柿沢「これはなんですか?」
黒羽「小説家になろうの名前欄入力画面だ」
由田「こんな風に置いてあると必須項目の文字が無くてもついつい入れたくなってしまうのは分からないでもないんだけれども。それでも、名前欄と同じ名前を入れることにかけらほどもメリットはないからね。そういう作品を見つけたら感想の最後に名前欄空欄の方がいいですよってアドバイスしているわ」
黒羽「でもどんな文面なら変えてくれるかな?前に一度言っても変えてもらえなかったことがあるんだ」
由田「私は『騙されたと思って名前欄を空欄にしてみてくださいなのですよー』って定型の文章を送っているわ」
柿沢「ですよー?」
黒羽「ああ、メタ視点多めの作品で作者の色を他のキャラを食わない程度に出す必要があってそのために語尾によるキャラ付けを由田はやっているんだ」
由田「話を戻すと誤字報告は積極的にやっていくべきだと思う。他に実例を言えばこのアカウントで投稿している作品の原案を作ってくださった歩海さんの『咎人の叫び 』という作品であったことなのだけれども『お前友達傷んだ』という明らかな誤字があったり、」
黒羽「友情は生もの」
由田「同作品でゲームのジョブが一か所だけ狂戦士から今日戦士になってたり。まあ、修正済みだけどね。でも、修正する前の内容は一度はググって調べなさいかく言う私もあっちいけさんの『最強の吸血鬼はひとの血を飲まない!!』で快復というあまり見たことのない表現を回復の誤字だと思って突撃したこともあるわ。だから、誤字だと思っても修正する前に確認することが大事なの」
柿沢「そういえば話が脱線しましたけど結局ブクマやレビューってなんなんですか?」
黒羽「ああ、ごめんな。ブクマはブックマーク機能のことでまあお気に入り登録と言い換えることもできるな。あと作品に2ポイント入る。レビューは作品の紹介文のことだ」
由田「作品を読むときはその前にどんなレビューがついているか確認したり。あと、レビューされるとやっぱりアクセス数の伸びが尋常じゃないわよ」
柿沢「なるほど、ところでポイントって何なの?」
黒羽「文章評価とストーリー評価で5ポイントずつ、ブックマークで2ポイントの合計12ポイントが一つのアカウントが一つの作品につけられる限界のポイントだな」
由田「一週間と一日でそれぞれ得たポイントがジャンル別にランキングにつけられる仕組みになっているわ」
黒羽「複数アカウントを使って不正にポイントを吊り上げたり、誰かにポイントを入れることを個別に依頼するのは規約違反で退会もあり得るから気を付けろよ」
柿沢「ところで、ランキングに乗ったことはあるんですか?」
由田「完結ブーストで過疎ジャンルのコメディーで三十二位、エッセイジャンルの17位が最高かな」
柿沢「すごいじゃないですか」
由田「過疎ジャンルは本当にすぐ伸びるし、特に詩なんか投稿する人は数が限られているせいで交流のある作家さんがジャンル別上位三位を独占していたこともあったなぁ」
黒羽「あと、上位五位と六位には絶対的な差があるので注意しろ」
由田「これが小説家になろうの基本説明よ。次回からネット小説が原稿用紙にいろいろ書くのとどう違うかレクチャーするわ」