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グリーンベッドジャンパーズ  作者: 裏側の飛鳥
第一章 緑の大地へ
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9話 マルゼ丘陵遺跡攻略-2-

まだまだもぐるよ

「全然下に行く階段が見つからないなぁ」

 あれから数度の青犬との戦闘を繰り返しながら、探索すること3時間弱。使い方が荒いのか保護装具(ハーネス)の魔石もすでに二つ取り替えている。ある程度進んではマッピングに戻り、の作業で肉体的にも精神的にも疲労がたまってきた。会話も少なくなっていた。

「ほんとに。どうなってるのかしら…ちょっと見せてもらえる?」

 シルヴィアにマッピングの紙を見せる。

 スコットたちに見せてもらっていたものから1層あたりの広さを予想して描いていたのだが、1枚に収まらずもはや5枚目に突入している。そのうえこの入り組み様、まるで迷宮だ。

「ばらばらに見ても分からないわね…並べてみましょうか」

「それもそうだな」

 二人してしゃがみ、床に5枚並べてみる。ここまでまっすぐ来る通路を主に描いているだけなので、行き止まりだった分岐の先まではちゃんと描いてはいない。正規ルートだけ描けばとりあえず帰れるし、報告条件もクリアするからだ。

「うーん」

 行き止まりの小部屋の数はかなりのもので、ここまでに30を超えている。特にどの部屋もこれといった特徴はなく、強いて言うならすべて正方形の同じ広さだったことぐらいだ。

「やっぱり小部屋の位置もちゃんと描いてみるか」

 記憶を頼りに加筆していく。

「よく覚えてるわね」

「弟たちの部屋の具合に比べれば、覚えるのは簡単さ」

 ささっと半分ぐらい描いたところであることに気付く。

「あー、もしかしてここがこうなってるから…だよな、やっぱりここにもある。ってことは次の部屋も大体…やっぱりだ」

 測量の一歩手前、掃討作戦で使用されるような精度のマッピングに切り替える。見えてきたのは、幾何学文様のような図だ。

「これは…まるで魔法陣の切れっ端ね。ジョカ(ねえ)に見せたら喜びそうだわ」

 シルヴィアもピンと来たようだ。

「この遺跡は、多分何かの儀式用の施設なんじゃないか?」

 分岐の中には先に行っていない通路もいくつかある。マッピングを見るに、この遺跡の中央に向かって伸びている分岐が本来の正規ルートかもしれない。

「これが魔法陣なら中央に続く導線がこことここね。このまま進んだらきっとこの辺りにも出てくるはずだわ」

 シルヴィアが指さした点を追っていく。

「時間も時間ね。ここまで様子を見てキャンプにしましょうか」

「それでいこう」

 紙を拾い上げ、よし、と掛け声一つで立ち上がる。シルヴィアが先ほど予想して指さした分岐まではここまでの構造からすると5分程度だ。手探りの状態からすれば相当気が楽になった。

「ちなみに何の魔法陣かわかるのか?」

 歩き出しながら聞いてみる。

「わたしはそんなに魔法に詳しくないのよね。この即席魔法書(インスタントブック)もジョカ(ねえ)が何年も前に作ったものらしくて、それを使ってるだけだし。強いて言うなら、水の生成魔法陣に何となく似てる感じはするわ」

 ぽん、と腰のホルダーに入れてあるハンドブックをたたいた。

「さっきも言ってたけどジョカネエって?」

 シルヴィアの口ぶりから魔法に詳しい人だとはわかるが、さも当然のように話すので気になった。

「あ、ごめん、知らない?今は最前線に行っててちょっと有名人だと思ったんだけど」

 ちょっと驚いたような顔をする。

「ジョカ(ねえ)はメージョス・フラッカーって言って、最近『千色のジョカ』って二つ名まで通るようになった魔法使いよ。一緒にいたのはギルドに入って2か月ぐらいだけだったんだけど、魔法のことならなんでも食いつく研究熱心な人で、うちでも特に癖が強い人よ。あと年齢不詳ね。美人ですごく若く見えるんだけど絶対教えてくれなかったわ」

 ローゼンクォーツにいるという最前線に絡んでいる冒険者の一人らしい。二つ名があるということは恐らく主要メンバーの中でも中核の人間だろう。これまで実感があまりなかったが、今更になってすごいギルドの冒険者とパーティを組んでることに気付いた。

「すごい先輩がいるんだな。じゃあ、魔法も教えてくれたりしたのか?」

「まぁ一応ね。でも、ギルドに入ったあとも独学で水の生成魔法ずっと練習してたんだけど、『お主は自発魔法は向いておらぬ。諦めるのじゃ』って即席魔法書(インスタントブック)で軽く頭叩かれたわ」

  本人の話し方を真似るように声のトーンを変えて話す。

「なるほど」

 だから戦闘スタイルは武術なのか。

「槍は自分で練習したのか?」

「家の農業の手伝いで長い棒をよく使ってたから、もともと棒術練習してたのよ。でも、力が足りなくて決定打にならないから、槍術に変えたの」

 女性が力不足を補うために長い得物を選ぶのはよくあることだ。

「お?もしかしてここか」

 話をしていると、先ほどシルヴィアが予想した分岐らしきところにたどり着く。

「予想どおりね。きっと向こうに行けばまた同じような通路が続くだけだわ」

 そう言って青い明かりが続く通路の先をみやる。どちらを見ても通路が続いているだけだが、ここはあたりをつけた方へ進む。

「いこう。今度こそ何か変化があるといいな」

 通路を曲がり、中央と思われる方向へと進んだ。


―――30分後―――


 青犬との戦闘を数度こなし、中央方向への分岐を優先して確認しながら進む。いくつか小部屋にあたったが、構造の見当がついていたおかげで順調に中心に向かっている気がした。

「そろそろ中心に当たるんじゃないか?」

 青犬の群れの最後の一匹を撃破し、鞘に剣を納める。保護装具(ハーネス)の使い方も馴染んできた。視覚的に危険を察知したり力を入れたいと思った時の心臓と肺の動きを感知する。それは驚くほど効率的で合理的な仕組みだった。これも『千色のジョカ』が女性しかいないローゼンクォーツでの物理的な力不足を補うために考案、開発した魔道具らしい。ギルド外の貸出をしていないため男が装着することはまずないそうだが、肉体的に勝る男が使えばその効果は目を見張るものがある。

「そうね、青犬の数も増えてきたし、中心に大分近付いてると思うわ。多分、この壁の向こうが中心よ」

 壁に手をつき、ぽんぽんとたたく。

「あとは入口だな。隠されてるのか、普通の入り口なのか」

 あたりを見回す。この通路に入ってから一気に天井が高くなった。それこそ、たいまつの光も届かないほどだ。また、通路幅が広くなり、青い炎の明かりは燭台ではなく背の高い灯籠に変わっている。

「ねぇ、これをみて」

 シルヴィアが壁の隙間を指さしている。青い炎に隠れてわかりづらかったが、壁中の隙間に植物の根やまるい葉の草が覗いている。たいまつで光を当てるとかなり色は薄いが緑色をしている。

「自然の草ね。こんなところに生えているなんて」

 壁伝いに歩いていき、曲がり角にさしかかる。

「なあ、あれ」

 警戒しながら顔を出すと、少し明るい場所が遠くに見えた。

「…あれは入口かしら?」

 通路には青犬が数十匹、眠るように動かず、通路にひしめいている。

「ちょっと多すぎるわね…」

「だな、作戦を練ろう」

 はいこれ、とまたあの甘い棒状のお菓子を渡された。正直お腹もすいたし、疲れも大分きている。このやたら甘いお菓子は長い探索での栄養補給にうってつけだった。

 ぼりぼりとかじりながら青犬の群れを覗く。

 お互いのできることがわかってきたおかげか、保護装具(ハーネス)があれば5匹ぐらいなら雑に戦ってもすんなり倒せるぐらいにはなっていた。しかし、この通路にいる数は文字通り数え切れない数だ。いくらなんでも、途中で魔石が尽きて取り替える間にやられるし、そもそも同時にこられたら対処しきれない。

「何か使えそうな魔法は?」

 シルヴィアの腰の即席魔法書(インスタントブック)を指さす。

「―――うーん、そうねぇ」

 ホルダーから取り出し、ぺらぺらとめくっていく。

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」

 めくっては戻りめくっては戻り。

「この辺から大魔法なのよね…私の魔力じゃ足りないから魔石で補わないといけないし、そんなことやってたらいくらあっても足りないし…」

 ぶつぶつとめくりながらつぶやく。

 青犬は尻尾の炎を落とす以外では、多少ひるみはするがほとんど攻撃が効かなかった。痛みを感じないとか以前に、胴体を真っ二つにしても動いているし、その状態で足に食らいつきに来る。物理的に吹き飛ばしたりはできるが、倒すためには尻尾の炎を落とすことが必須だ。

「あ、これなんてどうかしら」

 即席魔法書(インスタントブック)の大分後ろの方に差し掛かったページを開いて見せる。

 そこには、魔法陣はなくびっしりと極小の文字だけが並べられ、なんのことかさっぱりわからないがすごい魔法が書いてあるような気がした。

「なにこれ」

 至極まっとうな感想だと思う。その反応に、シルヴィアが数時間ぶりに笑顔を見せた。

「『存在隠蔽(インビジブル)』よ。正直あれ全部をなぎ倒していくほどの戦闘力もないし、魔石の浪費も抑えたいわ。この魔法は、すごく小さな亜空間を生成して使用者から発せられる音、光、匂いをすべてそこに逃がして、周りからまったく存在が気付かれなくなるようにするの。使用者からはちゃんと見えるし音も聞こえるわ」

 なんだかすごいことをさらっと言ったような気がする。『千色のジョカ』と二つ名がつくのはさも当然というような。

「ただ、すごく小さいといっても亜空間の生成は魔石の消費がとても速いわ。この魔石ひとつで通常なら約56秒、二人分だから約28秒ね。発動中は走り抜ける必要があるわ」

 そういって、再び通路を覗きこむ。明かりのあるところまで、走り抜けて何秒かかるだろうか。

「一度に往復する分の魔石は用意しておいたほうがいいな」

 明かりのあるところにたどり着いても、そこが安全地帯ではない可能性が高い。とっさに判断して、安全でなければすぐさま戻ってこないと(おびただ)しい数の青犬たちに囲まれることになってしまう。

「向こうまでそうね…保護装具(ハーネス)を完全稼働させても40秒ぐらいかかるかしら」

 そういいながら、鞄から魔石を6つほど取り出す。

「途中で切り替えとかする暇ないから、今のうちにこっちに付け替えてて」

「わかった」

 そのうちの一つを受け取る。

「魔石の残りはあるのか?」

 付け替えて半端に魔力の余った魔石を渡す。

「使って13個ってところかしら。多めに50個持って来たんだけど、正直、ここまで消費が激しいならこの辺の探索までにして引き返さないといけないわね」

 シルヴィアも魔石を付け替え終わり、準備に入る。

「注意することは?」

「使用者から絶対に離れないこと。あと、存在が感づかれないだけで、もし踏んづけたりぶつかったりしたら魔法で隠れているのが気付かれるかもしれないわ」

「了解」

 それを聞いて、シルヴィアの手をしっかり握った。

「あっ…」

 一瞬ぽかんとシルヴィアが口をあけるが、すぐに笑った。

「正解ね!いきましょう!」

 そういって、『存在隠蔽(インビジブル)』を発動した。

マルゼ丘陵遺跡の核心に近づいてまいりました

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